特定課題セッション I
- ■テーマ:
わが国のソーシャルワークは現代政治にどう向き合うのか/向き合ってきたのか - ■コーディネーター:
髙木 博史(岐阜協立大学)
■テーマ趣旨:
今日、社会福祉学を教授することを標榜するほとんどの学部学科等が社会福祉士の養成を行い、また、ソーシャルワーカーの職能団体である日本社会福祉士会が採択している「倫理綱領」には、その使命として「社会福祉士は、差別、貧困、抑圧、排除、無関心、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現をめざす。」と明記され、そうした社会の実現を志向する社会変革を促していく仕事こそがソーシャルワーカーであると位置づけられているといっても良いだろう。
そもそも、ここに記された差別、貧困、抑圧、排除、無関心、暴力、環境破壊といった問題は、時の政治のあり方と密接に関係している。たとえば、政治家たちによる相次ぐ生活保護バッシングやヘイトスピーチに類する言動、そして、自己負担増と自己責任を押し付ける社会保障政策など枚挙に暇がない。
にもかかわらず具体的な社会福祉・あるいは社会保障に関する政治的課題に対する研究や政策研究は減少傾向といえるだろう。たとえば、近年、頻発する政治家の差別的言動や医療・年金・介護・社会保障といった社会保障分野におけるおよそほとんどの分野で強いられてきている自己負担増と給付の減少といった問題、あるいは、防衛費を増大させるための増税論など政治と社会福祉とその周辺をめぐる状況は密接にかかわっているといえる。
政治とは、権力を持ち合わせているものであり、わが国が法治国家である以上、基本的には、賛同していようとしてなかろうとそこで「決まった」政策については、従わなければいけない(もちろん、反対の声を上げることを否定するものではない)。そのような意味では、それらの政策がどのような価値や背景に基づいて提起されてくるのかということは、きわめて重要な問題である。また、政治が権力をともなうものである以上、その遂行によって人権をはじめとする様々な権利侵害を生じさせることもあり、そのしわ寄せは、高齢者や障がい者、女性、子どもといった人々に向けられることも少なくない。
一方で、学会等では、政治的イデオロギーとアカデミズムという関係性の問題を内包し、両者は必ずしも建設的な議論がなされてきたわけではなく、一定の距離感が保たれてきたことも事実であろう。
ソーシャルワークが「社会正義」という一定の価値を拠り所とするならば、それらを壊そうとする、あるいは反動的な価値を背景とした政治的主張や政策の背景についてどのように向き合っていかなければならないのかということについて真剣に議論を深めておかなければ、もはや対抗する術を失うことにもなりかねないだろう。それが、現実の実践に基盤を置くソーシャルワークの特徴ではなかろうか。
本セッションでは、わが国における現代の具体的な政治課題と考えられる問題について、わが国のソーシャルワークがどのように向き合うのか/向き合ってきたのか、ということを中心に議論を深めていくことを目的とする。