一般社団法人日本社会福祉学会 第73回秋季大会

特定課題セッションの各テーマおよび趣旨

特定課題セッション I

  • ■テーマ:
    孤独孤立対策施策における社会福祉制度の現状と課題
  • ■コーディネーター:
    岩満 賢次(岡山県立大学)

■テーマ趣旨:
 「人々がその環境と相互作用する接点へ介入する」ソーシャルワーク専門職(ソーシャルワーク専門職のグローバル定義に基づく)にとっては、孤独孤立は長年にわたる課題であり続けている。
 現在この孤独孤立については、世界レベルで懸念が高まっている。例えば、世界保健機関は、「社会的孤立と孤独は、すべての年齢層で優先的な公衆衛生問題および政策問題としてますます認識されている」と述べている(世界保健機関ホームページ)。このような状況下において、日本では、2024年度より孤独孤立対策推進法が施行されており、孤独孤立対策が制度化している。日本の孤独孤立対策の法制化のみならず、イギリスでの2018年の孤独孤立担当大臣の設置以降の社会的処方の取り組みや、韓国ソウル市での2024年の「ケア孤独政策官」新設、その後の総合対策発表などの取り組みなど、国際的な政策の動向がある。
(取り上げる主題)
 この孤独孤立対策には長い歴史がある。1970年代ごろより、高齢者を対象とした孤独死対策への見守り活動などが展開されている。これらの活動は基本的にはボランティア・地域活動を基盤としたものであり、社会福祉協議会などの支援を伴いながら、実践されてきた経緯がある。近年では、2000年の社会福祉法制定による地域福祉の法定化や、2021年の重層的支援体制整備事業の法定化、さらには2024年の孤独孤立対策推進法などで見られるように、孤独孤立対策が制度化している現状がある。また、孤独孤立対策推進法が内閣府の所管となっているように、従来の厚生労働省所管の社会福祉政策のみならず、幅広い領域へ取り組みが展開されている一方で、所轄庁、予算の流れなどの縦割り構造に伴う新たなる制度のはざまが生まれ(共同募金など民間財源も含まれる)、そしてソーシャルワーク実践がその縦割りに組み込まれる懸念もある。
(議論の内容)
 これまで日本の社会福祉学では主として、児童、障害、高齢などの「分野による福祉」を切り口に議論が進められてきた。日本社会福祉学会大会の分科会においてもその分類を継承している。孤独孤立対策を含めた地域福祉が台頭し、制度化されているものの、孤独孤立対策の新たな政策動向が見られる現在において、領域を横断し、従来の「分野による福祉」では対応できない課題(例、ひきこもり状態、住居確保困難状態など)に対してどのように取り組んでいくべきなのであろうか。
 このようなことから、本セッションでは、現代の孤独孤立対策について、社会福祉制度がどのように機能し、また課題があるのかということを中心に議論を深めていくことを目的としていく。

【参考文献】

特定課題セッション II

  • ■テーマ:
    包括的な支援体制の整備の推進とソーシャルワークにおける実践評価
  • ■コーディネーター:
    大夛賀政昭(国立保健医療科学院)

■テーマ趣旨:
 地域住民の複雑化・複合化する支援ニーズに対応するため、2017年及び2021年の社会福祉法改正において、市町村は、地域生活課題に対して地域住民等及び支援関係機関が連携して対応する「包括的な支援体制の整備」に努めることとされ、またその具体的な方策として「重層的支援体制整備事業」を実施できるようになった。
 これらの対応は、我が国が直面する少子高齢化や核家族化の進行、人口減少、地域のつながりの希薄化など、地域社会を取り巻く環境の変化に応じて福祉サービスの提供体制の見直しが必要であるという2015年の「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」をきっかけとする福祉政策の捉え直しから始まり、その後、地域共生社会という政策ビジョンに発展してきている。ここで扱われるケア・支援を包括的かつ継続的に提供することの必要性は、2000年の介護保険制度の開始に伴う高齢者へのケアを中心とする福祉サービスの断片化への対応として提案された地域包括ケア、そしてこれを実現するための地域包括ケアシステムにおいて2003年時点から認識がなされ、また、2015年に始まった生活困窮者自立支援制度によって生活に困難を抱える当事者のニーズを中心として、当事者と伴走しつつ、制度の縦割りを超えた支援を調整していくという仕組みによっても把握されてきた。これら二つの流れから、現在の包括的な支援体制の整備にかかわる政策が進められてきている。
 2024年6月27日に設置された「地域共生社会の在り方検討会議」においても、国レベルでの包括的な支援体制の整備についての議論がなされているところであるが、これらの取組みを推進していくための評価の実施手法や在り方については、具体的な指針は示されていない。このため、実践現場では、包括的な支援体制の整備を推進するための方法論の模索が続けられている。
 ここで扱われるケア・支援については、福祉サービスのみならず、保健・医療・リハビリテーション等のサービスに加え、家族や友人、地域の多様な主体等によるインフォーマルな支援が含まれることから、これらを提供する体制やシステムの在り方を検討していくためには、社会福祉学のみならず学際的なアプローチが求められるのは言うまでもない。加えて、ケア・支援を包括的かつ継続的に提供する体制やシステムの構築を検討に際しては、これらに含まれる複雑な概念を整理していくことが求められることから、様々なレベル(ミクロ・メゾ・マクロ)での実践評価を通じて、学術的に明らかになったこと(到達点)を確認することは重要となる。
 本セッションでは、現在、政策課題となっている包括的な支援体制の整備を推進するための実践評価をテーマとして設定し、議論を深めていくことを目的とする。

特定課題セッション III

  • ■テーマ:
    災害時におけるソーシャルワークのあり方
  • ■コーディネーター:
    笹岡眞弓(日本医療大学)

■テーマ趣旨:
  災害が世界各地で頻出し、とりわけわが国では近年続けて多くの災害が発生している。いつ・どこで発生してもおかしくない災害にどのように備え、災害が発生した際にどのように支援を展開するのかは、世界の喫緊の課題であると言っても過言ではない。
 社会福祉分野では災害発災前から社会的脆弱性を抱え、支援を必要とする人(災害時要援護者:高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊婦等)の避難行動支援や避難生活支援等が必要であり、一時被害を免れた人の命を守り、2次被害を防止することが重要であり、ソーシャルワーカーによる実践及び“災害時におけるソーシャルワークの理論化に向けた研究の重要性が認識されるようになった。
 さらには、災害発生以前は家族や地域住民の支え合いにより日常生活を営めていた人も、災害により支え合いが喪失し、生活課題が顕在化する。また、災害の規模が大きいほど、被災者・被災地域の生活再建には時間を要し、潜在化していた生活課題が顕在化する他、慣れない生活環境での避難生活が長期化することにより新たに生活課題が表出し、生活課題が複合化・複雑化する場合もあり、中長期的なソーシャルワーク支援が必要となる。
 加えて、当該地域が潜在的に抱える地域課題を表出させるだけではなく、長い復旧・復興の過程において新たな課題や不条理を生じさせる。他方では、風化による実態の不可視化が進行する矛盾も生じる。
 このような、災害によりもたらされる各種課題について、社会福祉(ソーシャルワーク)はどのような役割を担うことができるのか、これまでの国内外における災害対応からの経験や実践、各種法制度、政策をもとにした議論の場として本分科会を位置付けたい。また、このことにより今後の社会福祉からの災害研究及び実践の進展に寄与できるものと考えている。