【特定課題セッション I】
- ■テーマ:
- 地域包括ケアシステムの構築と推進への挑戦
―地域特性、取り組む立場、時間軸など多角的な観点からの問い直し-
- ■コーディネーター:
- 河原 智江(共立女子大学)
■テーマ趣旨:
団塊の世代が75歳以上になる2025年に備え、医療や介護が必要な状態となったとしても、できる限り住み慣れた地域で安心して、生活し、それを継続して、最期を迎えることができる環境を整備していくことが急務の課題である。「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」も制定されたように、医療及び介護が、患者、あるいは、利用者の多様なニーズに沿って、切れ目なく、確実に提供される体制を確保していく必要がある。また、その体制を確保していく上では、「地域包括ケアシステム」を構築していくことが不可欠であり、介護保険法(法第5条第3項)においても、国、地方公共団体の責務として、「地域包括ケアシステム」を推進することが位置づけられた。地域包括ケアシステムとは、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が一体的に提供されるしくみである(地域包括ケア研究会:2013、厚生労働省:2014)。
地域においては、まさに、地域包括ケアシステムの構築や推進のための取り組みが進められているが、それは、全国一様ではなく、住民並びに地域の特性、社会資源の量と質、自治体のこれまでの施策の取り組み及び財政状況など、あらゆる要素を踏まえて構築するものであり、その在り様と展開は多様である。また、「地域包括ケア」について、どのような立場(実践の立場、専門分野による立場、行政の立場、研究者の立場)から関わるのかによっても、その取り組みやアプローチは異なるであろう。
さらに、2025年を見据えて「地域包括ケアシステム」を構築していくには、これまでの取り組みの中でも、“重点化すべきこと”、“強化すべきこと”とともに、これまでの枠組みでは対応が難しくなることが予想されることも想定されるため、“新たな取り組みとして検討すべきこと”、“新たな対応、かつ、早急な対応が求められること”など、未来志向的な視野に立ち、取り組みの焦点のレベルを整理していくことが必要なのではないだろうか。そのことは、社会福祉の実践と施策(政策)との関係性を明確することにもつながるのではないだろうか。
以上を踏まえ、本セッションでは、地域特性等の要素や取り組む立場の相違という側面、あるいは、時間軸を現在に置いたときの取り組みの焦点のレベル、そして、時間軸を未来に置いたときの新たなニーズへの対応という側面など多角的な観点から、「地域包括ケアシステム」の構築と推進の方策を問い直し、その方向性や社会福祉(学)が新たなに挑戦していく役割等を議論したいと考えている。
【特定課題セッション II】
- ■テーマ:
- 福祉から就労へ―『中間的就労』をめぐる論点―
- ■コーディネーター:
- 戸田 典樹(神戸親和女子大学)
■テーマ趣旨:
本セッションでは、2015年に生活困窮者自立支援法が施行されたことにより見直しが実施された「中間的就労」の評価と課題を検討することを目的としている。研究課題は釧路市福祉部生活福祉事務所が生活保護自立支援プログラム「釧路モデル」として提起した「中間的就労」が持っていた機能を再確認し、生活困窮者自立支援法のもとで有効な取り組みを生み出すことにある。
生活保護自立支援プログラムに導入された「中間的就労」の背景を見ると、ハローワークに何度も通ったが就職できない人や長期間に渡って引きこもり状態にあった人がボランティアやインターンシップという形態で社会参加や事業所などで働き、次第に自尊感情や自己肯定感などを取り戻していくといった成果として注目され全国に広がっている。
このような「中間的就労」については、釧路市福祉部生活福祉事務所(2011)が「生活基盤を社会保障給付に全面的に依拠した状態と、就労による収入で『経済自立』した状態の『中間』に位置する状態、換言すると『半福祉・半就労』の状態と捉える」と定義している。つまり、これまでの障害者などを対象とした「福祉就労」や生活保護から脱却するための給与を得ることができる「一般就労」の間にある「半福祉半就労」の状態にある「中間的就労」として位置づけている。そして、「中間的就労」で社会参加や働くことを「子育て・介護・療養など自分自身の生活の中心的な課題と両立させ、あるいは生活相談しながら、多様な社会保障に支えられつつ、できるだけ自らの経験や能力を活かして、就労や有償・無償のボランティア等を通じて社会参加をすること、またそのことによって一定の収入を得ることを積極的・肯定的なものとして評価している。釧路モデルは社会参加と就労を織り交ぜ、日常生活を自立的に生きる「半福祉半就労」という形態も選択肢の一つであると指摘している。
中間的就労に対しては生活保護政策の中で見直しが進んでいる。たとえば、生活保護基準の見直し(2013)や生活保護法「改正」がそれである。生活困窮者自立支援法(2013)が制定され、中間的就労が生活保護受給者以外のボーダーライン層を対象とした「職業訓練事業」として位置づけられ、名称を変える法整備が行われている。私は、この見直しに対して、釧路モデルの「中間的就労」の意義を評価する方向で考えるべきだという問題意識を持ち、研究を進めている。「中間的就労」の見直しは「稼働世代に対する有期保護制度の導入を提起した全国知事会・全国市長会の『新たなセーフティネットの提案』(2006年)をもとに整備されたものであり社会的自立論を変質させる(戸田典樹(2016)「日韓比較研究からみる新たな中間的就労の可能性-『新しい生活支援体制』の検証から」社会政策」第8巻第2号 P135)。このような問題点と課題を持っている「中間的就労」が、どのように動いているのか、どのような役割を果たしていくのが望ましいのか。政策、現場両面からの実証研究が必要であり、その論点を追求し深める分科会としたい。
【特定課題セッション III】
- ■テーマ:
- 社会福祉研究・教育においてエピソードを用いる可能性と課題
- ■コーディネーター:
- 森口 弘美(同志社大学)
■テーマ趣旨:
近年、社会福祉研究において質的アプローチが蓄積されつつあるが、本セッションでは質的アプローチのなかでもエピソードを用いた研究・教育に着目する。ここでいう「エピソードを用いた研究・教育」とは、一つの事例のある場面の意味を深く理解することで、研究上の新しい知見を見出そうとすることや、より効果的な教育上の成果につなげようとする取り組みをいう。なお、筆者はこれまでの研究で鯨岡峻が提起した「エピソード記述」を用いてきたが、本セッションは「エピソード記述」に限定することなく、やや広い意味で質的アプローチに含まれるものを扱いたいと考えている。
エピソードを用いた研究・教育において重要になるのは、より多くのデータを根拠に導き出される普遍的で抽象的な解を示すことではなく、一つの事例のある場面のリアリティやその具体性によってこそ共有される意味やその背景にあるものを、いかに説得力をもたせて提示するかということである。しかしながら前者の手法に比べて後者に関しては、当該のエピソードを体験した者の主観をどのように扱うのか、どのようにその意味や背景を深められるのか、その研究結果や教育効果をどのように評価できるのかといった議論が十分に蓄積されているとは言えない。
そこで本セッションでは、エピソードを用いた研究または教育に取り組んでいる学会員に、エピソードそのものを含む取り組み例を報告していただいたうえで、その可能性や課題について議論する。セッションの目標は次の3つである。
①エピソードを用いることによってもたらされる可能性の言語化
セッションではまず、なぜエピソードを用いようと考えたのか、エピソードを用いた研究や教育の試みのなかでどのようなメリットを感じたか、エピソードを用いることによって何が可能になるのか等について、報告者それぞれの体験や考えを言語化する。
②エピソードを用いる際の課題の抽出
エピソードを研究や教育に用いる際には、個別の具体的な事例を扱うが故の個人情報への配慮、論文や口頭発表等において記述されたエピソードを提示する場合にぶつかる壁など、さまざまな課題が生じる。セッションでは、報告者の取り組みをもとにエピソードを用いる際の課題を抽出し、どのように解決できるか意見交換を行う。
③エピソードを用いた研究・教育を評価するポイントの提示
実験によってデータを収集し分析するような研究においては再現性、つまり誰が行っても同じ結果が出るかが研究結果の正しさを評価のするポイントの一つとなる。しかしながら、エピソードを用いた研究や教育の多くは、その事例のその場面を選んだ研究者あるいは教員や学生の主観が問われることになる。つまり、同じ事柄を体験しても当該の場面をエピソードとして取り上げるか否か、そのエピソードをどのように解釈し、どのように深めていくのかは、エピソードを扱う人によって異なってくる。このことは、エピソードを扱う人の主観次第で「何でもあり」ということではない。そこには、エピソードやその用い方、解釈の深め方の良し悪しを判断するための、従来の「客観性」や「再現性」とは別の評価軸があってしかるべきである。セッションの最終目標は、この評価軸について議論することである。
以上の3点を目標にセッションを行うにあたり、エピソードを用いた研究あるいは教育に取り組んでおられる方で、上記の①と②に関してさまざまな体験や問題意識をもっておられる学会員に取り組み例を報告いただきたいと考えている。そのうえで、報告者を中心に、エピソードを用いた研究や教育に肯定的な方も否定的な方も共に③について議論を深めていきたい。上記の議論を深めることができれば、福祉実践のリアリティにアプローチする手法の多様化およびその進展に寄与できると考えている。