自由研究発表高齢者保健福祉8  渡邉 浩文

居宅サービス計画書の説明と同意に関する家族介護者の意識に関する研究

○ 認知症介護研究・研修東京センター  渡邉 浩文 (会員番号5577)
キーワード: 《認知症》 《居宅サービス計画書》 《説明と同意》

1.研 究 目 的

 判断能力が低下した認知症高齢者が介護保険サービスを利用する際になされる説明とその同意のあり方をどうしていくべきかは、介護保険制度の適切な実施にあたって大きな課題である。そこで、介護支援専門員が居宅サービス計画書の説明を行う際に、ご家族の方が、どのように関与しているか、また、本人への説明の必要性等についてどのような意識を持っているかについて明らかにするための調査を実施した。

2.研究の視点および方法

 認知症介護指導者等から紹介を受けた介護支援専門員、及び東京都内の介護支援専門員を対象に調査を依頼した。介護支援専門員の要件としては、①現在,居宅介護支援事業所に勤務しており,介護支援業務を行っていること②担当の利用者様の中に、認知症の診断を受けた方が含まれていることの2点とした。調査協力の承諾を得た介護支援専門員に担当の利用者のご家族に調査票を配布を依頼した。本調査は、平成22年2月22日(月)から平成22年3月5日(金)の間に実施した。

3.倫理的配慮

 回収方法は、被調査者個人が特定されることのないよう無記名による郵送返却とした。  
 また、本調査は、認知症介護研究・研修東京センターの研究倫理委員会の承認を得て行った。

4.研 究 結 果

 調査は、全国の介護支援専門員250人員の協力を得て、591人家族介護者から回答を得た。介護支援専門員の内訳は、184人が指導者等(114人)の紹介、66人が東京都23区内の介護支援専門員であった。なお、前者に対しては原則として3人の家族(うち、原則として認知症者の介護をしているものを1名以上含む)、後者については、一人の家族に調査票を配布・回収してもらう形で実施した。
1)基本属性
 家族介護者の属性は次の通りである。性別は、男性124人(21.0%)、女性457人(77.3%)、欠損値10人(1.7%)だった。利用者の属性は、次の通りであった。性別は、男性203人(34.3%)、女性378人(63.9%)、欠損値10人(1.7)だった。認知症の診断の有無は、診断を受けている387人(65.4)、診断を受けていない169人(28.5%)、わからない18人(3.0)、欠損値17人(2.9)だった。要介護度は、要介護1が124人(20.9)、要介護2が163人(27.5)、要介護3が167人(28.2)、要介護4が83人(14.0)、要介護5が40人(6.8)、わからない3人(0.5)、欠損値11人(1.9)だった。
2)実態調査  
 居宅サービス計画書の説明の現状及び、家族及び家族からみた利用者本人の理解の状況について、認知症の診断を受けているものと、そうでない者を比較した。  
 居宅サービス計画書に関する説明をどのように受けたかについて、利用者と家族様一緒に説明を受けた、利用者だけで説明を受けた、家族だけで説明を受けた、その他の内から回答してもらった。診断ありは64.2%、診断なしは78.0%と両者とも利用者とご家族一緒に説明を受けた者が多かった。一方、家族だけで説明を受けたものは、診断ありは32.4%、診断なしは15.4%と、診断を受けたものの3割以上が家族のみで受けているという結果だった。家族がどの程度、居宅サービス計画書を理解しているかについて尋ねたところ、両者とも9割以上がよく知っている、少しは知っていると回答していた。  
 利用者に居宅サービス計画書の記載内容、サービスの利用目的、サービス内容、サービスにかかる料金の理解度について、「よく知っている」、「少しは知っている」、「よくは知らない」、「全く知らない」のうちから回答してもらった。結果、診断を受けているものは、受け手いないものに比べ、それぞれ理解の程度が低いと家族が考える割合が多かった。ただし、診断を受けていない場合でも、全くわからないとするものがおり、金額の理解については20%のものが全くわからないと回答していた。
3)意識調査  
 居宅サービス計画書の説明を利用者本人に行うことについての意識に関する項目について「非常にそう思う」「そう思う」「そう思わない」「全くそう思わない」の4件法で尋ねた。回答結果について、「非常にそう思う」から「全くそう思わない」までを1から4点と数量化し単純加算した後、質問項目ごとに平均値を算出し有意水準1%でt検定を行った。結果、有意な結果を示した項目のうち、診断ありのグループが肯定的意識を示したものは、「本人は聞いてもわからないから、家族にだけ説明したほうがよい。」「本人が混乱するので、家族にだけ説明したほうがよい。」といった項目だった。否定的意識を示したものは、「本人が納得できるように説明したほうがよい」「本人がわかるように説明したほうがよい」「本人に理解力がないときは説明しないほうがよい」「本人が理解できるかにかかわらず一応本人に説明したほうがよい」「本人と家族が同席の上両方に説明したほうがよい」といった項目だった。  
 認知症の診断を受けている利用者の家族はそうでない場合に比べ、利用者本人に対し説明を行い、理解や納得を求めることについて否定的な意識をもっていることが示唆された。 なお、本研究は、文部科学省科学研究費補助金(若手研究B)における研究事業の一部として行われたものである.

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