自由研究発表高齢者保健福祉8  張 英信

韓国の家族介護者における肯定的介護認識に関する研究
 -「同居家族療養制度」に焦点をあてて-

○ ルーテル学院大学  張 英信 (会員番号7691)
キーワード: 《女性家族介護者》 《肯定的介護認識》 《同居家族療養制度(現金給付制度)》

1.研 究 目 的

韓国では高齢化の進展に伴い、2008年7月から老人長期療養保険制度(日本:介護保険制度、以下は介護保険制度)が施行されている。韓国の介護保険制度は、同居家族療養制度という家族介護者に報酬を認める制度に特徴がある。 一方、韓国にはまだ儒教思想に基づく親扶養意識が残っている。本研究はこうした背景をふまえ、実際に家族介護者の「肯定的介護認識」は、どのような内容であるのかについて明らかにするものである。具体的には、現金給付を含む同居家族療養制度の利用・非利用によって、肯定的介護認識に違いがあるかを考察する。

2.研究の視点および方法

本研究の対象者はソウル市に住む主女性介護者19名である。その内訳は同居家族療養制度を利用する(以下:利用)12名と、利用しない(以下:非利用)7名である。研究デザインは質的研究方法で、半構造化インタビューを行い、グラウンデッド・セオリアプローチ(以下;M-GTA)に準拠してカテゴリーを生成した。調査は2009年6月から2010年2月に2回行った。インタビューは自宅もしくは静かに話せる場所(相談室)等で、所要時間は50~80分を目安として行った。インタビュー内容は承諾を得てテープに録音し、メモを取った。その録音したテープから韓国語で逐語録を作成し、これを日本語で翻訳し、カテゴリーを生成していった。

3.倫理的配慮

介護者に対して、プライバシーを厳守すること、途中で協力を断ることも可能であることを書面と口頭で説明し、同意を得た。なお、本研究はルーテル学院大学研究倫理委員会での審査を受け承認されたものである。

4.研 究 結 果

家族介護者の肯定的介護認識に関する分析結果は、同居家族療養制度を利用する家族介護者からは、7カテゴリーと18の概念が抽出され、非利用では4カテゴリー、10概念が抽出された。共通カテゴリーは3つあり、【自己価値の向上】【介護へのエネルギー源】であった。
  以下に、【カテゴリー】及び『概念』について利用と非利用に分け、提示する。
  利用する家族介護者の肯定的介護認識は、【要介護者の受け入れ】【介護のとらえ直し】【自己価値の向上】【介護へのエネルギー源】【介護スキルの向上】【変化した自分】【他者への貢献可能性】の7カテゴリーであった。非利用のカテゴリーは、【自己価値の向上】【介護へのエネルギー源】【つながりの再確認】【介護スキルの向上】の4カテゴリーである。
  韓国の同居家族療養制度は,次の5つの特徴がある。①療養保護士の資格を取得する ②親の介護労働に対しての1日あたり2時間に限り賃金を得る ③ 賃金で外部介護サービスの活用する ④外部での療養保護士としての活動ができる ⑤介護者自分の自由時間を持つことである。この特徴を踏まえて考察すると、利用介護者の【介護のとらえ直し】【介護へのエネルギー源】【介護スキルの向上】のカテゴリーには、同居家族療養制度の影響が強く見られた。すなわち【介護へのとらえ直し】は、『介護苦労の分かち合い』にあるように、療養保護士としての活動を通して自分と同じように苦労して介護している仲間を確認し、安心感を得、経験を共有化している。さらに他者の介護経験を見聞きして自分の介護や立場を相対化させ状況を客観視できることである。また【介護へのエネルギー源】は、『生活の張り』として他のところで介護をすることにより心理的の切り替えができることを示し、また『経済的支え』ができ、それも心理的な切り替えに繋がることである。こうしたことが介護の困難を徐々に乗り越える手がかりになっていた。【介護スキルの向上】は、療養保護士になるために受けた教育や実習から『介護の要領会得』し『介護に対する適切な対処』できるようになることである。
 一方、肯定的介護認識に対する共通点には、韓国社会の特有状況である儒教意識により子が親の扶養をしようとする傾向が見られる。韓国では「親孝行」が介護者自身にとって内的にも社会的にも自己価値を非常に高める要因になっている。つまり、介護者には夫や社会的からの評価が【介護へのエネルギー源】となって、介護者自身を支えるエネルギーを生み出すのである。【自己価値の向上】は『家族の絆の確かめ』や『子への見本』を含んでいる。これは介護者が老親に最善を尽くしていると、将来自分も子から介護を受けることが可能になると感じることである。親は子供と強い絆で結ばれ、自分が要介護になったときに介護してくれることを望んでいる。その背景には、子が老親を介護することの社会的な期待もある。特に、長男の嫁が義親を介護することで義理の兄弟を含めた家族員の絆を結びつけると見なされているのである。
 まとめると、同居家族療養制度の利用・非利用にかかわらず、肯定的介護認識の中核は【自己価値の向上】【介護へのエネルギー源】である。つまり、夫や社会からの「親孝行」の評価を受けた結果【自己価値の向上】となっている。さらに、その【親孝行】の評価や現金支給が介護者の【介護へのエネルギー源】となって自身を支えるエネルギーを生み出していた。

概念とカテゴリーリスト

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