自由研究発表高齢者保健福祉4  平松 誠

家族介護とうつ,死亡・要介護状態発生との関連
 -大規模調査データを用いての再検討-

○ 名古屋医専介護福祉保育学科  平松 誠 (会員番号6220)
日本福祉大学  近藤 克則 (会員番号3953)
キーワード: 《家族介護者》 《うつ》 《縦断分析》

1.研 究 目 的

 高齢社会が到来し,介護を必要とする高齢者の人口が急速に増加し, それに伴って家族介護者も増加している.要介護者ではなく,介護している家族において,介護負担感の高い場合に死亡率が高いことが報告(Schulz,1991)1)されている。我々も第57回社会福祉学会では介護者のうつと,死亡・要介護状態発生との関係の検討を行い2),介護者のGDS(Geriatric Depression Scale:高齢者うつスケール15項目版)が高くうつ状態(10~15点)だと,GDSが低いもの(0~4点)にくらべて6.9倍も死亡・要介護度状態になりやすい統計学的に有意な関連(p<0.05)があることを報告した.しかしながら,その分析では,データ数が少なかった(n=84).そこで,より大規模な調査データを用い,介護をしているか否か,及びうつか否かと死亡・要介護状態発生との関係の再検討を行った.

2.研究の視点および方法

 AGES(Aichi Gerontological Evaluation Study,愛知老年学的評価研究)プロジェクトのデータの一部を用いた.2003年に要介護認定を受けていないA県下の65歳以上の高齢者34374人を対象に,郵送法にて自記式調査票を用いた調査を実施した.配布した調査票には3種類あり,今回の分析では家族の介護に関する設問が多く含まれる調査票(回収数5715人;回収率49.9%)に回答し,死亡・要介護状態の発生を4年間(1461日)追跡したデータを付加したもの4859名を用いた.男性47.7%(n=2317),女性52.3%(n=2542).75歳未満は63.4%(n=3079),75歳以上36.6%(n=1780)であった.
 分析に用いた変数としては,性別・年齢などといった基本属性の他に以下のようなものを用いた.①「うつ」はGDS15項目版(得点範囲:0~15点)で測定し,0~4点を「うつなし」,5点~9点の「うつ傾向」と10点以上の「うつ状態」を合わせ「うつあり」とした.②家族の介護の有無については,「この一年間に起こったことについておうかがいします.あてはまるものすべてに○をつけてください」というライフイベントに関する設問で,「家族の介護」に○をつけたものを家族の介護ありとした.そのうち,他の質問項目「あなたには,介護を必要とする家族はいますか」に対し,「いいえ」と回答したもの(57名)は,家族介護が終了または矛盾する回答として分析より除外した.分析に用いた変数に欠損値がある者も除外した結果,介護あり15.3%(n=614),介護なし84.7%(n=3404)を分析対象とした.
 分析にあたっては,2003年時点で介護をしているものとしていないもの,うつなしとうつありのもので,4年間の死亡・要介護状態の割合を比較した.

3.倫理的配慮

 調査の趣旨に同意した者が調査に回答した.各保険者と日本福祉大学とは政策評価分析に関する総合研究協定を結んでおり,データは政策評価分析の目的のみに使用し個人情報の取り扱い特記事項を遵守した.

4.研 究 結 果
介護の有無とうつの有無の関係

介護の有無とうつの有無の関連を分析した結果,「うつあり群」の割合は,「介護あり」群において221/515名(42.9%)と「介護なし」群の872/2922名(29.8%)よりも統計学的に有意に高かった(p<0.01)
 4年間の死亡は417名(8.7%),要介護認定を受けた者は626名(12.9%)であった。
 介護者の有無とうつの有無で4群に分け死亡・要介護状態の発生について,一般線形モデルで年齢の影響を調整して分析した結果,介護・うつともにあり28.7%(n=221),うつのみあり20.8%(n=872),介護のみあり17.0%(n=294),うつ介護ともになし13.4%(n=2050)の順に多く4群間に統計学的な有意差を認めた(グラフ1).介護をすることでうつ傾向・うつ状態となったもの,もしくはうつ傾向・うつ状態のものが介護をすると死亡・要介護状態となる割合が有意に高いことが示唆された.
 海外では,Schulzら(1999)1)によって,平均4.5年間追跡した前方視的対照比較研究で,介護の精神的負担は介護者の死亡率を1.63倍に高めるという研究がある.我々の少数例(n=84)の介護者を対象とした検討2)では,うつ状態の介護者では,うつ状態ではないものに比べて6.9倍も死亡・要介護度状態になりやすいという結果が得られた(p<0.05).より大規模なデータを用いて検討を行った結果,介護をしているもので有意にうつであるものが多く,うつありの介護者では,どちらもない高齢者に比べ2.14倍も死亡・要介護状態となるものの割合が高かった.介護はうつの有無にかかわらず死亡・要介護認定率が1.3倍前後高く,いっそうの介護者支援の重要性が確認された。

5.参 考 文 献
1) Schulz R,Williamson GM.2-year longitudinal study of depression among Alzheimer's caregivers.Psychology&Aging1991;6(4):569-78
2)平松誠・近藤克則.家族介護者の抑うつ(GDS)と死亡・要介護状態発生(健康寿命喪失)との関連 - 第57回社会福祉学会 全国大会  

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