在日フィリピン人介護士の現状と課題
-在日フィリピン人介護者調査から-
○ 高知女子大学 後藤 由美子 (会員番号6758)
大阪人間科学大学 中井 久子 (会員番号2317)
キーワード: 《在日フィリピン人介護士》 《介護人材雇用》 《異文化コミュニケーション》
わが国の少子高齢化が進展する中で、介護現場において介護労働力不足が社会問題となっている。要介護高齢者が2025年
には530万人にのぼると推計されており、介護労働者の大幅な増員が必要とされている。このような状況下で、EPAの締結より
2008年にインドネシア、2009年にはフィリピンから介護福祉士候補者の受け入れがスタートし、既に就労している。介護現場
に外国人が介護職として雇用され始めたのは、EPA締結以前の2005年頃からであり、その多くは在日フィリピン人を対象にし
たホームヘルパー養成研修の修了者が介護職として就労している。ホームヘルパー2級資格取得者は、2008年時点で2000人以
上と推定される。今後介護現場においては外国人が徐々に増えていくことが予想される。日本の介護現場では日本人介護者と
外国人介護者が協働することが求められていくため、協働あり方については介護の質の向上の検討とともに今後重要課題であ
る。
本研究では、在日フィリピン人介護者の実態を把握し、介護職としての課題と協働のあり方について検討することを目的に
東京、愛知、大阪、京都、福岡を拠点とした実態調査を実施した。今回は、在日フィリピン人介護者の介護職としての課
題を明らかにすることを発表の目的とする。この調査・報告には、3つの文部科学省科学研究費助成(中井久子:大阪人間
科学大学、高畑幸:広島国際学院大学、後藤由美子:高知女子大学)を受けている。
日本で永住・定住しているホームヘルパー2級などの介護資格を取得しているフィリピン人を対象にアンケート調査を面接
法および郵送法による調査を実施した。
調査時期:2008年6月~10月
調査地:東京、愛知、大阪、京都、福岡
調査票配布数:500 回収数:190 有効回答数:190
調査票の言語:フィリピノ(タガログ)語および日本語
調査の趣旨を十分説明し、回答結果は数量的処理を行い個人が特定不可とした。調査結果の公表にあたっては調査対象者 の匿名性に配慮した。
4.研 究 結 果回答した在日フィリピン人介護士190人は、女性186人、男性4人である。平均年齢は39歳で30~40歳代が多い。在留資格
は半数以上が永住権を取得し、定住期間は「10~14年」が25.9%、「5~9年」が23.8%であり、10年以上が全体の64.8%で
ある。
回答者の所持資格は、ほとんどがホームヘルパー2級で2006年から取得者が急増している。
資格取得後、介護職として就労している人が約半数で、 就労先は図1に示すように老人ホームが6割を超えており、 在宅
介護事業が約2割で、回答者の4分の3がパート雇用である。介護の仕事に対する不安は、図2に示すように「日本人との人間
関係」半数を超えている。
日本人同僚との関係で困難なことは、「連絡・報告・情報の共有」、「国民性の違い」、「チームワーク」が上位を占め ている。また、日本の介護施設で仕事をする上で大切であると思うことは、図3に示すように「利用者の理解」(66.0%)、「利 用者への優しい気持ち」(64.1%)、「同僚とのチームワーク」(63.1%)の3つが突出して上位に挙げている。また、「介 護職についてどう思うか」の問いには、「自分の能力向上になる」が最多で、「在日フィリピン人のイメージが向上する」「 人に感謝される」と考えている。
5.考察在日年数が長期間であっても、在日フィリピン人には「読む・書く」といった日本語能力に困難を抱えている。介護職と して特に重視される「記録・報告・情報の共有」の困難が日本人介護者との人間関係を構築できない大きな要因と考えられる 。利用者に対して「日本の生活習慣・文化の理解」や「コミュニケーション」が難しいと感じている一方で、「利用者を理解 する」ことが大切であり、同僚に対しても「チームワーク」や「コミュニケーション」の必要性を感じている。介護の現場 における異文化によるコミュニケーションの課題が明らかなったことは本研究の大きな意義である。