自由研究発表高齢者保健福祉7  須加 美明

訪問介護のサービス提供責任者の業務ストレスとバーンアウト
 -訪問介護計画が質の向上に役立つという意識(有効感)の
  ストレス緩衝効果-

○ 目白大学  須加 美明 (会員番号1790)
キーワード: 《訪問介護》 《サービス提供責任者》 《ストレス》

1.研 究 目 的

 訪問介護のサービス提供責任者(以下サ責)は、介護や調整で高い専門性を求められるコーディネイターであると同時に、非常勤ヘルパーの中間管理職としてサービス内容を管理する責任をもつ。しかしサービスの決定権は事実上ケアマネにあり、権限も業務範囲も曖昧なまま代替訪問や会議で休日にも稼動を強いられ、業務ストレスの大きい職種である。職務ストレスを測る一般的な尺度では、サ責の調整業務の特徴を捉えられないため、ケアマネから注文を受け、利用者の要望を聞き、ヘルパーに仕事を指示するという三者との関係を含む6因子のストレッサー尺度を開発した(老年社会科学32(1):14-22,2010)。  
 本研究は、開発したサ責のストレッサー尺度を用いて、業務ストレスとバーンアウトとの関連及びストレス緩衝効果をもつ要因を明らかにすることを目的とする。  

2.研究の視点および方法

1)対象とデータ  
 2008年9月~10月にダイヤ高齢社会研究財団の行ったサ責の業務時間に関する調査の一部データを用いた。同財団との関連を生かして協力の得られた全国249訪問介護事業所に所属するサ責(725名)を対象に事業所に調査票を送り研究班宛に直接回収した。回収数は376件(52%)で欠損値のない315件を分析対象にした。回答者(分析対象)の基本属性は表1のとおりであった(表は当日配布)
2)尺度項目と変数  
 サ責のストレッサー尺度は、利用者との関係、ケアマネとの関係、ヘルパーとの関係、上司との関係、仕事の忙しさ、知識技術という6因子17項目から成り、選択肢の「非常にあてはまる」から「全くあてはまらない」まで4から1を配点して数量的な分析を行った。ストレス反応を測る尺度には日本版バーンアウト尺度(田尾・久保1996)の合計点を用いた(以下バーンアウト)。ストレスへの影響を調べる変数には、性、年齢、担当利用者数、代替訪問の頻度、訪問介護計画の有効感(あなたの事業所で作っている訪問介護計画書は、サービスの質の向上に役立っていると感じますか:非常に役立っている~ほとんど役立っていないまでに4~1点)の5変数を用いた。
3)業務ストレス及びバーンアウトへの影響の分析方法
 前記の5変数について、バーンアウトとの相関、バーンアウトを従属変数とした重回帰分析の2つで影響を調べ、統計的に有意な影響のある変数を、共分散構造分析のモデルに加え検討した。モデルは、サ責のストレッサー尺度6因子の上位に2次因子をつくり、業務ストレスを表す潜在変数とした。バーンアウトを観測変数とし、業務ストレスからの因果関係をパスで示した(以下因果モデルと呼ぶ)。重回帰分析で有意に影響した変数を因果モデルに加え、業務ストレスとバーンアウトの双方にパス(因果関係)を仮定し、個々に影響を調べた。モデルの適合度指標にはGFI,AGFI,CFI,TLI,RMSEAを用いた。統計解析にはspss14とAmos7.0を用いた。

3.倫理的配慮

 調査対象者には回答は統計的に処理され個人情報が他に出ることはないこと、研究班が直接回収することにより所属事業所に内容が知られる心配がないことを明記した。

4.研 究 結 果

 性、代替訪問の頻度、担当利用者数は、バーンアウトと相関しなかった。年齢、訪問介護計画の有効感は、重回帰分析で有意な影響を示した。因果モデルに年齢を入れた結果、業務ストレスにもバーンアウトにも有意な影響はなかった。因果モデルに訪問介護計画の有効感を加えた結果、バーンアウトに有意な影響はなかったが、業務ストレスを減らす影響力があった(標準偏回帰係数-0.35)。因果モデルと比べ、訪問介護計画の有効感をストレス緩衝要因に加えたモデルは、業務ストレスのバーンアウトへの影響力が0.52から0.54に増え、バーンアウトの説明率(調整済R2)も0.27から0.29に向上した。つまり訪問介護計画の有効感を緩衝要因に加えたモデルは、サ責のバーンアウト状況をより説明できた。またこのモデルの適合度指標も悪くなかった(GFI=0.912,RMSEA=0.057)。
 ストレス緩衝効果を調べるため、訪問介護計画の有効感が高い群・低い群の2群に分け、次に業務ストレスの高い群・低い群(因子得点を平均値で2分割)でのバーンアウトを比較した。有効感の低い群は、低ストレスの時のバーンアウトが5.40、高ストレスでは5.61になり、ストレスが高まると0.21増えるのに対し、有効感の高い群は、低ストレスで4.65、高ストレスでも4.76であり、ストレスが高くなっても0.11しか増えない。つまり訪問介護計画の有効感は、バーンアウトを低くするだけでなく、ストレスが高くなってもバーンアウトが増す程度を抑える緩衝効果があった。

5.考 察

 訪問介護計画が質の向上に役立つというサ責の意識は、サ責が行う調整業務の水準に何らかのかたちで関連していると仮定すれば、業務への対処Copingのひとつと理解することができる。サ責のストレッサー尺度は、利用者、ケアマネ、ヘルパーという三者の間での調整の負担を表しているので、役立つと感じているサ責ほど、訪問介護計画を調整に活用しており、その結果として業務ストレスが軽減されたと考えられる。訪問介護計画には、サービスを適切に提供する役割だけでなく、業務ストレスを緩和し、バーンアウトを防ぐうえでも一定の効果をもつことが示唆されたと思われる。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る

お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp