自由研究発表高齢者保健福祉7  裵 孝承

介護支援専門員の主観的困難ケースの累積につながる要因検討
 -介護支援専門員の業務上の困難感と基本属性を中心に-

○ 大阪市立大学大学院生活科学研究科  裵 孝承 (会員番号7556)
大阪市立大学大学院  岡田 進一 (会員番号1746)
大阪市立大学大学院  白澤 政和 (会員番号769)
キーワード: 《介護支援専門員》 《業務上の困難感》 《主観的困難ケース》

1.研 究 目 的

介護保険制度では、サービス提供面における基本理念として利用者の自立支援があり、それを実現するために、ケアマネジメント(介護サービス計画)が取り入れられた。そして、介護支援専門員は、その提供主体として介護保険制度の創設と共に位置づけられた。しかし、介護支援専門員の業務についてさまざまな課題が挙げられている。特に、介護支援専門員は困難ケースへの対応に直面しており、困難ケース対応には、一般ケース対応より約3倍以上の労力が必要であり、介護支援専門員を苦悩させていることが指摘されている。また、困難ケースは援助者の主観的な要因によって認識が異なるとも言われている。しかし、困難ケースを生み出す要因や解決方法についての実証的研究はほとんどなく、介護支援専門員の困難ケースへの対応策が必要であるにも関わらず、具体的な提案を示す研究がなされていないのが現状である。
 そこで本研究は、介護支援専門員の困難ケースが累積していく要因を分析するため、介護支援専門員の業務上の困難感と基本属性を検討要因として設定し、主観的困難ケース数との関連を明らかにする。

2.研究の視点および方法

調査対象事業所は、WAM-NETに登録されている大阪府下の居宅介護支援事業所2886ヶ所のうち400ヶ所をSPSS14.0によりランダムに抽出した。対象者は、各事業所に所属している介護支援専門員400名とした。調査方法は自記式質問紙による郵送調査とした。調査期間は、2009年12月2日から12月25日までである。回収率は58%(232票)であった。業務上の困難感に関する項目は、先行研究を参考に原案を作成し、さらに現在介護支援専門員として働いている専門職4名を対象としてインタビューを実施し、先に作成した原案に修正を加え30項目で尋ねた。回答選択肢については、「全くない(1点)」から「いつもある(5点)」の5段階である。困難感は高くなればなるほど得点が高くなるように設定した。次に、困難ケース数については、介護支援専門員が複雑・深刻だと感じる困難ケース数を一カ月平均で尋ねた。調査項目についてはエキスパートレビューにより内容妥当性を確認した。
 分析方法は、介護支援専門員の業務上の困難感の構成要素を明らかにするために、因子分析(プロマックス回転を伴う主因子法)を行った。抽出された因子ごとに、内的一貫性(信頼性)を確認するため、Cronbachのα係数を算出した。その結果、すべての因子が0.8以上で信頼性がある尺度であることを確認した。次に、介護支援専門員の業務上の困難感と主観的困難ケース数との関連を明らかにするために、介護支援専門員のケース数を困難ケース数で除した数値(割合)を従属変数とし、因子分析で抽出された困難感の因子の平均得点(因子別得点の合計値を項目数で除した数値)やその基本属性を独立変数として設定して重回帰分析を行った。

3.倫理的配慮

 本調査にあたっては、研究趣旨を説明する文章を依頼文に入れ、匿名性とプライバシーの保護を遵守すること、研究目的以外で調査結果を利用しないことなどを明記して、調査票とあわせて調査対象者に郵送した。回収された調査票は、すべて記号化し、事業所および回答者の匿名性が確保されるように倫理的配慮を行った。

4.研 究 結 果

 因子分析の結果、6つの因子が抽出され、第1因子を「医療ニーズ対応に関する困難感」、第2因子を「サービス提供者との連携に関する困難感」、第3因子を「仕事の不明確さに関する困難感」、第4因子を「主治医との連携に関する困難感」、第5因子を「介護保険以外の資源活用に関する困難感」、第6因子を「利用者とその家族との関わりに関する困難感」とそれぞれ命名した。
 重回帰分析の結果、重回帰モデルの調整済み係数(R2)は0.15であり、分散分析はF(4.51)=692.53であり、0.1%水準で有意であったため、この重回帰モデルは有効であることが示された。【介護支援専門員の主観的困難ケース割合】と独立変数との関係については、「サービス提供者との連携に関する困難感」(β=.26)、「仕事の不明確さに関する困難感」(β=.25)が0.1%水準で、それぞれ有意な正の関係を示した。なお、VIF値がすべてにおいて2以下であったため、独立変数間に多重共線性は存在しないと判断した。  
 本研究の結果から、サービス提供者との連携や仕事の不明確さに関する困難感が高い介護支援専門員が主観的困難ケースを多く持っている傾向が明らかになった。つまり、困難ケースを生み出さないためにはサービス提供者との連携や業務の明確化が重要であるといえる。また、このような介護支援専門員の困難感を解決するためには、介護支援専門員に対する研修やスーパービジョンが重要なカギであると考えられる。特に、その研修内容においては、他職種とのコミュニケーションスキルや役割の理解などの介護支援専門員が連携の主体として活躍できるような内容になることが求められる。また、介護支援専門員が自らの仕事の範囲や役割を明確に認識できるように、定期的なスーパービジョンの実施が望ましいと考えられる。
 なお、本研究は、平成21年度学術振興会科学研究費:基礎研究(A)(代表研究者:白澤政和・分担研究者:岡田進一)の研究の一部である。


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