特別養護老人ホームに勤務する介護職員の腰痛対策
-施設マネジメントの視点からの取り組み-
○ 社会福祉法人共生会・東四つ木ほほえみの里 植田 大雅 (会員番号7589)
キーワード: 《トップマネージャ》 《ミドルマネージャ》 《システム作り》
高齢社会の到来により介護が労働として認識されるようになった。またその一方で、それを担う介護職員の健康問題にも焦点が当てられるようになり、その中でも特に腰痛問題が取り上げられている。介護職員の多くは特別養護老人ホーム(以下、特養)に勤務しており、彼らにおいても腰痛は深刻で差し迫った問題となっている。
そこで、本研究では特養介護職員に対する腰痛対策に焦点を当て、「原因を個人の責任だけでなく、施設全体の責任とする。」、すなわち腰痛対策における施設マネジメントの取り組みを明らかにすることにある。
介護職員の腰痛が減少しない理由は、腰痛対策に関連する研究成果が介護現場において活用できるシステムの整備がなされていなかったこと、および、「腰痛は個人の自助努力で解決すべき」として捉えられていたことの2点が上げられる。
本論文は、調査1:質問紙にて介護職員へ腰痛の発生状況および要因を調査し、、調査2:同介護職員に腰痛になりやすいと思われる介護動作の実施回数のチェックを調査した結果を鑑み、後に第3段階目の調査3として実施した「腰痛対策における施設マネジメントに対する取り組み」に関して、施設管理者へ面接調査を実施したものである。
施設管理者に対する調査はこれまで進んでおらず、本調査は特別養護老人ホーム介護職員の腰痛対策の一部として役立つものと考える。
対象施設はA地域のB特別養護老人ホーム(いか、B施設)。利用者定員は130床(短期入所15床を含む)、平均要介護度3.89(2009年11月1日時点)の、4階建て施設である。本調査の対象者はミドルマネージャとして介護業務を統括する介護主任、トップマネージャとして管理職である施設長・次長とした。調査方法は直接面談により、質問表の項目に沿った聞き取り調査(半構造化面接)である。質問内容、結果を表1に明記した。
B施設の最高決議を行う運営会議にて2009年7月に著者が参加し、調査1、調査2と併せて目的、方法を説明し、承諾を得た。そして、介護主任への面接を同年10月23日、管理職への面接を同10月28日に実施した。逐語録に起こした後に完成原稿を三名に対して確認、了承を得た。
4.研 究 結 果
1)調査結果:調査結果の一覧を表1に示す.これまでは「明確な取り組みはしてこなかった」、今後は「組織的な取り組みができる環境作り」と「段階的な教育体制を作っていく」(表1参照)。
2)考察:腰痛対策は個人の対策に委ねられていることが明らかとなった。しかし、その中でも腰痛ベルトの支給や朝のラジオ体操・腰痛検診の実施を行っており、管理者の腰痛に対する認識の低さは認められなかった。さらに、「良いサービスを提供するためには健康であることが必要」との結果を得た。このような認識はこれまでになかった視点であり、大変貴重である。その一方で、腰痛対策は個人の自助努力としてきたことやトップマネジャ・ミドルマネジャ・一般職員の認識に差があるため今後のシステム作りが必要といえる。
本調査は施設の管理職3名に限局された調査であるため、全ての施設に適応できるとは限らないが、腰痛対策のシステム作りが重要であるという認識を得たことにより、介護職員の腰痛対策に対して一歩前進したといえる。
3)結論:腰痛対策は個人の自助努力による対策では不十分であり、組織的な取り組みと(システム作り)が必要である。すなわち、段階的、系統的な対策が必要であり、今後の腰痛対策は施設マネジメントの視点に立って行うことが必須といえる。
表1 腰痛対策に関しての施設管理者への面接調査結果 | ||
ミドルマネージャ(介護主任) | トップマネージャ(施設長・次長) | |
これまでの施設の 取り組み |
明確なものはしてこなかった(腰痛ベルトの支給や朝のラジオ体操の働きかけはしている) | 腰痛発生状況の情報収集にとどまっていた(ベルトの支給、ラジオ体操の実施) |
介護職員の腰痛に対する現在の考え | これまでは個人の健康管理やスキルだとしていたが、今後検討したい | プロだから技術は身につけていると思うが、先輩たちが我流を後輩に指導してはいないだろうか? |
調査結果を見ての感想 | 健康管理や介護技術の指導、ハード面の工夫の必要性 | 腰痛予防のために現在の技術の振り返りをして欲しい |
人員関連 | 人を増やすのは経営上難しい、夜勤者を増やしたい、人員は少なくはないが、多くない、以前より入浴など負担が増えているのでたいへんになっている。 | 他施設より公休が多いので調整すれば(休みを減らせば)労働力は増える。元々人員配置は多いので単純に人を増やすのは難しい。派遣職員を減らし正職員を増やして個人の負担を軽くしているはず? |
職員教育 | 、研修の希望が多いことはよいこと、多くの介護現場で指導内容を生かせていないのは業務の流れの中で時間がなく行えない事があるかもしれないが、(自施設では)成果を上げることができるかも | 腰痛にならない技術は持っているはず。で も忘れることがあるので、振り返りの機械 を。研修をするなら専門職の指導を技術教 育と対策を分けて実施 |
設備・道具 | 良いと思うが、過去に行ったところ定着してい ない。新しい職員が増えたのでやっても良いか も。2 人組介助の方が速くて良い? | 希望があれば検討するが必要かどうか吟味して欲しい 現場からほしがるもの(与えられると使わない) 本当に有効なものであればしっかり教育を |
その他 | 経済的支援は原因がわからないので難しい 委員会等は職員に脚光を与える意味では有効かも? 休暇や勤務時間は現状継続 |
経済的支援は特定職種に偏らないこと。委員会はあるときっかけになるが、機能するように吟味する。マニュアルは作るなら内容要検討。 |
今後の腰痛対策に対して | 多セクションで共同しての職員に焦点を当てた取り組み | 予防から始まる段階的、系統的取り組み |
最終目標・到達点 | 組織的、効率的に動く環境作り | 腰痛対策の認識の浸透のための段階的教育体制の確立 |