自由研究発表高齢者保健福祉7  原田 亘

通所介護事業所における介護職員の離職率に関する研究
 -離職率が低い事業所のマネジャーの対応と施設内マネジメント-

○ 日本福祉大学大学院  原田 亘 (会員番号7587)
キーワード: 《介護職員》 《離職》 《通所介護》

1.研 究 目 的

介護現場では介護職員の高い離職率が問題となっている。介護職員の離職は、低い介護報酬の問題として捉えられる ことが多い。そのため、2009年4月の介護報酬の改定では、事業所の介護職員の勤務継続年数や介護福祉士の資格取得者 の割合が、事業所への加算によって評価されることになった。だが、介護職員の離職理由を調べてみると、「待遇に不満 」という理由だけではなく、「経営理念や運営のあり方に不満」という理由も上位に入っている。そうであれば、介護報 酬だけを改善したとしても、効果的に介護職員の離職率を低下させることはできない。また、介護報酬において介護職員 の勤務継続年数が評価されることで、事業所のマネジャーに、「介護職員の離職を少なくする」ための対応に関する知見 が必要になると考えられる。そのため、今回の研究に先立って事前調査を実施したところ、介護職員の離職とマネジメン トの関連について、実証的な検討を行った研究が少ないことが明らかになった。また、「訪問型」や「施設系(入所型) 」の介護職員と比較して「施設系(通所型)」の介護職員は離職率が高いことが指摘されているにも関わらず、通所介護 事業所を対象とした実証的な研究が見当たらないことも明らかになった。
 以上のことから、通所介護事業所の介護職員の離職に関して、離職率が低い事業所群と高い事業所群の比較を行うこと で、離職率が低い事業所のマネジャーの対応や施設内マネジメントの傾向を明らかにすることを目的として本研究を実施 した。

2.研究の視点および方法

今回の研究では2点の事前調査を行った。1点目は先行研究の調査で、介護職員の離職に関してCiNiiにて検索された 全45文献の検討を行った。その結果、マネジメントに関連した実証的な研究が少ないことや、通所介護事業所を対象と した研究が見当たらないことが判明した。2点目は、介護職員の離職率が低い事業所のトップマネジャー6名に聞き取り 調査を実施して、KJ法にて内容の整理を行った。その結果、離職率の低さに関連があると推察された269枚のラベルが 抽出された。
 事前調査の結果を踏まえて、A市内の通所介護事業所に勤務する介護職員への質問紙調査を行った。研究方法は、まず A市内の全通所介護事業所(346箇所)のうち、開設1年以下の事業所を除いた計284箇所の離職率を算定した。その中か ら、介護職員の離職率が低い事業所(低位群:離職率が10%以下の115箇所)と高い事業所(高位群:離職率が30%以上 の89箇所)に勤務する介護職員を対象に調査を行った。
 調査票では、年齢や資格などの「基本項目」と、マネジャーの対応や施設内マネジメントに関する「質問項目」につ いて、4件法にて回答を求めた。なお、「質問項目」は、269枚のラベルの中から、離職やマネジメントに関連していると 思われるラベルを参考にして計50項目を作成した。また、調査票の回収期間は2009年10月5日から2009年10月31日とし、 回収方法は対象事業所の施設長が、1年以上勤務している介護職員2名に配布した上で、記入した介護職員が直接筆者に 郵送する形で回収した。回収後、①「基本項目」の集計、②「全ての調査回答者」に関する分析、③「雇用形態別の調査 回答者」に関する分析、を行った。なお、分析は平均値の比較とクロス集計の方法にて行った。

3.倫理的配慮

本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に沿って実施した。また、調査票を回収する際には、匿名性の確保に配慮 することで倫理的配慮を行った。

4.研 究 結 果

返送された調査票は128枚(低位群69枚、高位群59枚)で、有効回収率は31.4%(低位群:30.0%、高位群:33.1%) であった。
 「基本項目」の集計では、①調査回答者の約8割が女性であること、②事業所における平均勤務年数は3年5ヶ月である こと、が判明した。
 「全ての調査回答者」に関する分析では、①高位群より低位群の事業所の方が、質問項目の点数を合計した平均値が 高い(低位群:3.15点、高位群:3.01点)こと、②各質問項目の回答と低位群・高位群の事業所をクロス集計で比較した ところ、「マネジャーは、現場で起きた問題の責任は全て自分にあると考えている」などの5項目について、高位群より も低位群の事業所の方があてはまると答えた割合が多く、有意水準5%(4項目)と1%(1項目)で統計的に有意である こと、が判明した。
 「雇用形態別の調査回答者」に関する分析では、①常勤職員と非常勤職員の平均値を、低位群と高位群でそれぞれ比較 したところ、非常勤職員の低位群の平均値が最も高い(常勤低位群:3.08点、常勤高位群:3.04点、非常勤低位群:3.29 点、非常勤高位群:2.85点)こと、②非常勤職員のみを対象に各質問項目の回答と低位群・高位群をクロス集計で比較し たところ、「マネジャーは介護職員の将来のことを考えてくれている」の項目について、高位群より低位群の事業所の方 があてはまると答えた割合が多く、有意水準5%で統計的に有意であること、などが判明した。
 以上の結果から、離職率が低い事業所の介護職員は、「マネジャーの責任感やトラブル対処」、「中途採用者の活用」 に良い評価をしていることが示唆された。また、マネジャーの対応や施設内マネジメントに関して、非常勤職員の評価が 高い事業所は離職率が低い傾向があることが示唆された。

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