施設介護職員のバンーンアウト因果モデル
-対人援助技術志向とスーパービジョン-
○ 早稲田大学院人間科学研究科 李 泰俊 (会員番号7488)
早稲田大学学学術院 加瀬 裕子 (会員番号277)
キーワード: 《ス-バーンアウト因果モデル》 《スーパービジョン》 《人材育成管理体制》
2008年度職業安定業務統計によると、高齢者福祉施設の介護職の離職率は、2007年20.2%、2008年21.6%と年々高くなり、一般労働者(17.5%)に比べ、非常に高い職離れが懸念されている。
特に、高齢者介護施設では、サービスの提供によって、利用者が回復することは稀であり、長期的には緩やかなADLの低下など「報われない」場面の遭遇が多く、そのような困難性の高い仕事へのサポートの不備などがバーンアウトにつながり、離職率の背景要因ともいわれている。
このようなストレスにおいては、「利用者本位の処遇」「相談や指導の体制」「教育や訓練の機会」「意見を言える機会」(矢富ら1995)、などの組織の管理体制がストレスの緩衝に有効であることが指摘されている。
しかし、これまでのバーアウト研究は、主にストレス要因、ソーシャル・サポート、コーピング、自己効力感などとバーンアウトとの関連を明らかにした研究が多く、上記のような介護職が抱えている特有のストレッサーに対する人的資源管理のあり方を取り上げた研究は多くない。
そこで、本研究では、「対人援助」という介護職の特有のストレッサーに対する介護職の対人援助スキル志向、このような職場のストレッサーに対する人材育成管理の取り組み体制とバーンアウトとの関連性を明らかにすることを目的とする。
本調査の対象者は、東京近郊の老人福祉施設3施設の介護職員310人を対象に、自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。調査結果、有効回答数は222人(74%)であった。この222人の年齢分布は、20代(20.2%)、30代(28.7%)、40代(20.2%)、50代(22.0%)、性別は男性が25.6%、女性が59.5%であった。バーンアウトを測定する尺度として、日本のヒューマン・サービス現場に適合するように改訂したMBI(田尾・久保、1996)を用いた。そして、このバーアウトモデルに加え、バーンアウトの規定要因として、「対人援助技術志向」(7項目)「管理的スーパービジョン」(5項目)「教育的スーパービジョン」(5項目)「雇用形態」「介護経験年数」の5つの関連要因に着目した因果モデルを作成した。 以上の統計解析には、「PASW Statistics 18」ならびに「Amos17.0」を用いた。
3.倫理的配慮調査に察し、研究者は調査対象者に対して、回答は任意であり、回答しないことによる不利益が生じないこと回答者が特定できないよう、配慮することを書面で説明した。また、本研究については、早稲田大学倫理委員会の承認を得た。
4.研 究 結 果分析の結果、2因子モデルの適合度指標の結果は、χ2値=3.556(df=4)、P=.469,GFI=997,AGFI=.971,CFI=1.000,RMSEA=.000であった。χ2検定の有意確率P=.469やGFI、AGFI、CFIの数値がともに0.9を超えており、RMSEAの数値が0に近いことから、バーンアウト因果モデルの全体的な適合度が高く、統計的に採択できるモデルだと考えられる。以上の結果から、施設職員のバーンアウトを防ぐためには、介護能力向上のための研修を設け、現場の要望を聞く機会、職員の能力に見合った評価などの「管理的なスーパービジョン」の確保がバーンアウトの低減に効果があることが示唆された。また、介護経験年数が短い人であるほど、「管理的なスーパービジョン」(r=-.230)、「教育スーパービジョン」((r=-.210)が必要であり、人的管理体制の不備は、正職員の方のバーアウトを促進する傾向があることが示された。このように、本研究では、人材育成管理の取り組みと介護職員のバーンアウトに関連性があることが示唆された。今後、介護職のバーンアウトの低減には、長期的な視点から介護職員をスーパービジョンできる体制の検討を重ねる必要がある。