自由研究発表高齢者保健福祉6  金 銀靜

要援護在日コリアン高齢者の精神的健康とその関連要因

○ 大阪市立大学大学院  金 銀靜 (会員番号7557)
大阪市立大学大学院  岡田 進一 (会員番号1746)
太成学院大学  文 鐘聲 (会員番号7710)
キーワード: 《在日コリアン高齢者》 《精神的健康》 《QOL》

1.研 究 目 的

 2008年末現在、日本における在日コリアン(韓国・朝鮮籍者)の老年人口割合は16.3%であり、日本の総人口(1億2,7697万人)と比べると低いが、在日外国人の中では高齢化が顕著である。老年期においては、身体機能の低下と不調、配偶者との死別や社会的役割の希薄化などの喪失体験、孤立感等によって、精神的健康が阻害されると言われており、高齢化の進行と共に高齢者の精神的健康を守っていく重要性が指摘されている。このような背景から生活満足度、生きがい、主観的幸福感、抑うつなどの精神的健康に関する研究が行なわれている。特に抑うつは心身の健康や意欲・気力を低下させ、QOL(Quality Of Life)にマイナスの影響を及ぼすとされている。
 独居高齢者が増えていく現在、移民高齢者として在日コリアン高齢者が在宅生活を行う際に、身体的健康も重要であるが、精神的健康も重要であると考えられる。日本では、在日コリアン高齢者に関する研究は様々なテーマで行われているが、在宅生活で介護を必要とする在日コリアン高齢者に焦点をあてた研究はほとんどない。そこで本調査では、要援護在日コリアン高齢者としてデイサービスの利用者に限定して在日コリアン高齢者の精神的健康の状況とその精神的健康に関連する要因を明らかにする。  

2.研究の視点および方法

 大阪府及び京都市にある6カ所のデイサービスを利用している在日コリアン高齢者107人を対象にした。有効回答率は95.3%であった。分析対象となった者の人数は102人であった。調査方法は、質問紙を用いた訪問面接調査法である。調査期間は、2009年12月8日から12月26日までで日曜日を除く13日間であった。 分析方法は、抑うつ尺度と基本属性項目との関連を見るために、t検定(独立型)および一元配置の分散分析を用いた。  

3.倫理的配慮

調査対象施設に対して本調査の趣旨を説明し、同意を得たうえで調査を実施した。また、調査項目の集計および分析においては、個人が特定されないように記号化され処理をした。  

4.研 究 結 果

1)研究対象者の状況について
 対象者は、①平均年齢が84.76歳であり、約9割以上が75歳以上の後期高齢者であること、②6割以上が要介護1・2の要介護高齢者であること、③5割の者はADLが自立であること、④6割以上が単独世帯であること、⑤日本での滞在期間で60年以上の者が9割以上であること、⑥現在の経済状況について7割以上が満足しており、主な収入源については4割以上が子どもからの援助であること、⑦教育を受ける機会がなかった者が6割以上であること、⑧日本語の能力は8割以上が日本語の会話に不自由を感じてはいないが、日本語の読み書きについては不自由さを感じる者が3割であることなどがあげられる。つまり、本研究の分析対象者は、要介護度が比較的軽度でADLが自立している者が多く、比較的健康状態が良い高齢者が多かった。また経済的には満足している者が比較的多く、単独世帯が多い在日コリアン高齢者であった。
2)要援護在日コリアン高齢者の抑うつの状況について
 本研究での要援護在日コリアン高齢者の抑うつの平均値は6.412±3.02であり、比較的に低い結果であった。6点以上の抑うつ傾向である高齢者が55.9%(57名)、6点以下で、抑うつ傾向がないとされる高齢者が44.1%(45名)であった。抑うつが比較的に低い理由としては、対象者が要支援と要介護度1、2が中心であり、比較的要介護度が軽度であり、抑うつ傾向になりやすいADLが低下している状況になく、むしろADLが自立している状況にある高齢者が多いことや主観的健康感が高い傾向にある高齢者が多かったため抑うつが低い傾向にあったと考えられる。
3)要援護在日コリアン高齢者の精神的健康とその関連要因について
 統計的分析の結果、在日コリアン高齢者の精神的健康に関連している要因として、「1カ月の生活費の満足度」(p=0.004)、「暮らし向き」(p=0.009)、「要介護度」(p=0.007)、「主観的健康感」(p=0.001)、「ADL」(p=0.046)、「主観的満足感」(p=0.005)が潜在的要因として考えられることが明らかとなった。このことから、要支援・要介護にある在日コリアン高齢者の精神的健康は、日本人高齢者と同様に、身体的健康、経済的満足感、主観的健康感などとの関連があることが確認された。  

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