自由研究発表高齢者保健福祉6  金川 朋子

ムーブメント療法を用いた高齢者のQOL向上についての実証的研究
 -精神健康度の検討-

○ 九州保健福祉大学大学院  金川 朋子 (会員番号7523)
キーワード: 《ムーブメント療法》 《QOL》 《精神健康度》

1.研 究 目 的

高齢社会の到来にともなって、高齢者の医療費や介護費用の増加等により高齢者の健康増進に対する関心が高まっている。2005 年の介護保険法改正を契機に、予防重視型システムへの転換を中心に介護保険制度の見直しがなされた。WHO(1984)は、高齢者の健康を「生死や病気の有無ではなく、生活機能が自立していることである」と定義している。また、Berger(1989)は、「身体的活動に制約がないこと」が高齢者の生活適応にとっての重要な点としてまとめており、身体的自由度を寿命まで維持できることが、活力ある精神を保持する上で必要であり、高齢期のQOLを高めるためには必須の条件としている。 QOLと運動効果等に関しては、久保田晃生(2007)、安永明智ら(2007)、森川みえこ(2008) 他、多くの先行研究がある。
  ムーブメント教育は、学習障害児や脳損傷児に対する治療教育として米国のM.Frostigにより構築された感覚・知覚運動理論であり、我が国に紹介されて30年以上になる。障害のある子どもの教育はもとより幼児教育や小学校体育における活用、また重症心身障害児・者のQOL向上や高齢者のニューリハビリテーションの領域では、ムーブメント療法として活用されている。 そこで、本研究は、わが国でニューリハビリテーションとして取り入れられつつあるムーブメント教育・療法の理論に基づいた運動プログラムで高齢者のQOL支援のあり方を検討することを目的にしたものである。  

2.研究の視点および方法

(1)方 法:ムーブメント教育・療法を用いた軽運動を実施し、高齢者のQOL、精神的健康状態を評価・分析し、高齢者のQOL支援のあり方についてまとめる。
  (2)対 象:シルバームーブメント教室に参加する60歳以上の男女25名
  (3)期 間:平成21年10月~平成22年5月
  (4)実施する調査:PAQ-EJ WHO-QOL-26 STAI-Ⅰ・Ⅱ POMS 健康・気分チェック表 プログラム評価 活動後のインタビュー  

3.倫理的配慮

個人に関する聞き取り調査及び活動の様子を撮影についての個人情報を本研究以外には 使用しないことおよび個人が特定できないような配慮を行うことを伝え、ご本人の承諾を得ている。

4.研 究 結 果
プログラム実施前後POMS結果

ムーブメント教育・療法の理論に基づいた運動前後にPOMSを測定した。測定した全員が気分の活気を高め、他のネガティブな感情得点も概ね低くなり、良好な気分プロフィールである「氷山型」(凸型)を示す結果が得られ、精神健康度の向上が認められた。図-1は、参加者最年長(ケースⅠ)のPOMSの結果である。また、ケースⅠのSTAI-Ⅰ(状態不安)の測定結果においても、プログラム実施後は不安が解消している結果が得られた。 また、運動後の健康気分調査では気分の上昇が認められ、睡眠状況では、寝付きがよい、翌日の寝起きや気分良好の記録が認められた。 図-1 プログラム実施前後POMS結果

参 考 文 献
久保田晃生(2007)「高齢者のQOLの生命予後および自立能力の関連」九州保健福祉大学大学院社会福祉学研究科 平成19年度博士学位論文
安永明智 青柳幸利(2007)「高齢者の身体活動・運動と健康QOLに関する前向き大規模疫学研究」デサントスポーツ科学Vol.28 p.53-59
森川みえこ(2008)「中高年者の介護予防におけるダンスエクササイズの研究-パラパラダンスの運動が精神健康度に与える影響-」びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツ開発・支援センター年報 第5巻第1号 p.52-59

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