自由研究発表高齢者保健福祉6  斉藤 雅茂

中山間と大都市における一人暮らし高齢者の社会的孤立の特性

○ 日本福祉大学地域ケア研究推進センター  斉藤 雅茂 (会員番号5854)
日本福祉大学  平野 隆之 (会員番号814)
日本福祉大学  冷水 豊 (会員番号395)
キーワード: 《一人暮らし高齢者》 《社会的孤立》 《中山間地域》

1.研 究 目 的

本研究では,地域特性による高齢者の社会的孤立の相違を検討するために,中山間と大都市における一人暮らし高齢者に占める 孤立高齢者の発現率と基本的特徴の相違,および,ソーシャルサポートとの関連を分析した. 

2.研究の視点および方法

中山間地域の調査は,2009年10~11月にかけて,高知県日高村・土佐町・仁淀川町の市町村社会福祉協議会で把握している一人 暮らし高齢者全数(1,201名)を対象にして行われた.民生委員による留置法および訪問面接法の併用によって1,132名の回答が得 られた(回収率=94.3%).ここでは,同居者がいたケース等を除いた1,034名について分析した.また,大都市地域の調査は,2007 年9~11月にかけて,東京都板橋区において選挙人名簿から系統抽出法によって得られた一人暮らし高齢者3,500名を対象にして行わ れた.調査員による訪問面接法によって,同居者がいたケースを除いた2,907名から1,391名の回答が得られた(回収率=47.9%).
 社会的孤立の操作的定義には,別居家族・親戚および友人・近所の人等との交流頻度を用いた.両調査で質問の仕方は若干異なる が,「会ったり一緒に出かけたりする」頻度,および「電話で話す(電子メールやファックスを含む)」頻度のいずれもが週に1回 に満たない状態を孤立に分類した.また,ソーシャルサポートの指標には,「ちょっとした用事をしてくれる人」と「長く寝込んだ としたら看病や世話をしてくれる人」の有無を用いた.
 分析に際しては,はじめに,孤立高齢者の発現率の相違について,地域間で比率の差の検定を行った.そのうえで,孤立高齢者の 基本的特徴に関して,地域特性別に性別,年齢,婚姻状態,身体機能,収入を独立変数,孤立・非孤立を従属変数にしたロジスティ ック回帰分析を行い,孤立・非孤立とソーシャルサポートとの関連に関して,χ2検定および地域間での比率の差の検定を行った. 

3.倫理的配慮

調査実施に際しては,中山間と大都市のいずれにおいても,事前に民生委員および訪問調査員に対して,調査目的と方法,および ,守秘義務に関する説明会を開催した.また,対象者に対しては,調査目的と方法,個人情報保護および回答を拒否できる旨を明記 した依頼文書を同封し,回答をもって同意が得られたものとした.

孤立高齢者の特性比較

4.研 究 結 果

分析の結果,孤立高齢者の発現率については,中山間地域では一人暮らし高齢者の12.6%が孤立に該当し,大都市地域(16.6%) と比べて低い傾向にあること(p<.01)が示された.また,統計的に有意な差は認められなかったが,中山間地域のなかでも,山間 部よりも平野部の方が,孤立高齢者の発現率が高いことが示唆された.孤立高齢者の特性については,中山間と大都市のいずれであ っても,男性,未婚ないし離婚経験の一人暮らし高齢者の方が孤立に該当しやすいことが明らかにされた.他方で,中山間では身体 機能(視力・聴力・歩行)の障害が孤立と密接に関連していたのに対し,大都市では低収入が孤立と関連しているという地域間での 相違があることが示唆された.ソーシャルサポートとの関連については,両地域ともに非孤立よりも孤立高齢者の方が「ちょっとし た用事をしてくれる人」がいなく(p<.001),「長く寝込んだとしたら看病や世話をしてくれる人」もいない人が多かった(p<.001 ).しかし,両地域を比較すると,中山間の方が,孤立傾向にあっても両サポートが「ある」という人が比較的多くなっていた(そ れぞれp<.001, p<.001).
 高齢化と過疎化が極端に進行した「限界集落」に該当する中山間地域,とくにその山間部に居住する高齢者の方が,近隣関係を中心 にした社会的ネットワークが豊かにあり,孤立者の発現率は低く,孤立傾向にあっても日常的ないし緊急時のサポートを期待できる 人が多いことが示唆された.他方で,中山間地域の社会資源の乏しさを考慮すると,中山間地域において孤立して各種サポートを 期待できない人はより深刻な状態にあると考えられる.また,男性であることと未婚ないし離別経験は,地域特性に関わらず共通 した高齢期の社会的孤立の要因であることと同時に,大都市と中山間地域では,孤立に至る要因が異なっている可能性があり,孤立 高齢者への対策や支援を検討する際には,地域特性による相違を考慮する必要があることが示唆された.

 本研究は,高知県健康福祉部保健福祉課「高知県中山間地における介護サービス等の在り方研究事業(研究代表 平野隆之)」の 受託によって実施した.

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