高齢期における生活困窮の実態
-高齢者が直面する生活課題と原因-
○ 神戸学院大学 西垣 千春 (会員番号3158)
福井県立大学 奥西 栄介 (会員番号2942)
キーワード: 《生活困窮》 《生活課題》 《原因》
気づかれずに孤独死する高齢者や年金を担保に借金をし、生活費をぎりぎりまで切り詰めている高齢者は跡を絶たない。地域包括支援センターをはじめ、相談窓口は増えたが、有益な情報が全ての高齢者に届いているとはいえない。生活の基盤を揺るがすような状況に陥る高齢者を支える有効な方法は、事前に関わりを持ち、早い段階で支援を行うことである。しかし、地域の中でどの位の人数の高齢者がどのような生活困窮に直面しているかについては把握することが困難であり、相談窓口につながったケース以外の踏み込んだ支援はほとんど行われていない。
大阪府社会福祉協議会の老人施設部会に属する社会福祉法人が基金を設立し、平成16年度から「社会貢献事業」として経済的支援が可能である、生活困窮者への相談事業を行っている。失業、近親者からの虐待や金銭搾取、急な事故や病気など様々な要因から生活困窮に陥る者がいる。行政をはじめ様々な関係機関と連携しながら、制度では対応できない、間に合わない課題に対して、社会福祉法人の柔軟な判断で解決に向けた支援を行っている。
これまで社会貢献事業については支援実績のまとめ、支援のノウハウに関する資料が作成されるなど、事業の評価と進展が図られてきた。また、ケースを積み重ね支援に当たるワーカーの能力は高まってきた。しかしながらケースを横断して判断される生活困窮の原因にまでは踏み込んで検討されることがなかった。本研究は、これまでに相談に応じ経済的支援を行ったケースのうち、高齢者を対象として、生活課題を明らかにすると同時に、高齢者の家族とのつながりや健康状態、経済状況、住まいなどの生活環境を分析することで、生活困窮の原因を明らかにしていくことを目的としている。
これまでに実施されている高齢者に対する福祉サービスは、申請に基づき必要性が判断されるものである。しかしながら対象療法的サービスだけでは、人口の40%が高齢者になることが予測される中で、充分な財源を確保していくことも困難である。福祉サービスをより効率的に実施していくには、予防的に生活課題に関わっていくことが求められている。特に生活困窮にある高齢者は周りから発見されることも、援助の必要を伝えることも困難である場合が多い。困窮の原因を明らかにし、予防策の開発が求められる。
社会貢献事業では、制度による発見が困難であった高齢者のうち、「払えない」「買えない」といった生活課題を抱えたものに柔軟な経済的支援により対応してきた。20年度末までに1万件を越す相談のうち2205件に経済的支援を行い、そのうちの564件が70歳以上の高齢者であった。全ての事例をデータ化し、統計的分析を行うことで、どのような特徴をもった高齢者がどのような生活課題を抱えるのかについて分析を行う。
分析の対象が相談の個別情報であるため、特にデータ化する際の配慮を行った。大阪府社会福祉協議会において厳重に保管されている相談記録の転記にあったては担当の職員が行い、入力にあったては、個人が特定されないように記号化や数値化を行った。事例により、詳しい情報が必要な場合は、二人以上で転記を行い、個別情報については口外しないことを厳守している。
4.研 究 結 果①何に経済的支援を必要としているか
経済的支援の内容で最も多いのは食材・光熱水費であった。次いで医療費に支援を要したものが多かった。ライフラインの危機に面した緊急性の高い支援が求められているケースが多く存在している。住居関係費、介護サービス費、日用品費があとに続いていた。家賃が払えない、より安い家賃のところに引っ越せば生活が回るのに、引越し費用が捻出できないなど、ぎりぎりの生活をしている者も多い。年金がない、または少ない者では、介護保険料を支払っていないために認定やサービス申請ができず、要介護となった場合でも自宅で支援を得ることなく過ごしているケースが目立つ。必要な日用品を求められず不便な生活を送る場合も少なからず認められる。
②何が生活困窮の原因か相談記録に目を通す中で、生活困窮の原因としては、大きくは身体状況の変化、近親者との関係、被害、事故によるものに分類できた。緩急の違いはあるが、身体状況の変化が生活に影響を与えているものが約半数を占めている。子どもが生活困窮に影響している場合が約4分の1、詐欺などの被害が15%、事故が2.5%である。これらが原因となり、「買えない」「払えない」という状況が生み出され、借金を望まない形で行うものも出てくる。全体を通して、高齢者が接点を持っている人が限られている、または孤立していると判断できる、という特徴が見出された。
本研究の実施には、日本生命財団の平成21年度高齢社会実践的研究助成を得ている。