訪問介護実践の過程に関する研究(その2)
-訪問介護員が抱く自らへの「疑問・問い掛け」を焦点として-
○ 松本短期大学 隣谷 正範 (会員番号7346)
キーワード: 《訪問介護》 《実践への疑問・問い掛け》 《共通性》
利用者の生活をどのように支援・援助していくかは介護に携わる者、しいては社会福祉従事者皆に共通するところである。そして、利用者の支援・援助を行う者たちは、“如何に利用者を捉え、かかわるか”という態度をその基盤にしていると言っても過言ではない。
しかし、訪問介護における「介護」という枠組みで示される行為に関しては、生活支援の内容を中心にいわゆる“routine-work”と評価されがちな側面を併せ持つ。その中において、本研究で取り上げる訪問介護員の方々は、一つひとつの行為に丁寧にかかわり、試行錯誤をしながら、自身のかかわり方を創り変えていた。とりわけ特長的なのは、訪問介護員たちは“自身の実践には見直すべき(或いは足りない)部分がある”との認識の下、日々自身の実践に対して疑問・問い掛けを行い続けていたということである。
本研究ではこの部分を焦点として、訪問介護員が日々の実践に対して抱く≪疑問・問い掛けを行う理由≫を明らかにし、訪問介護の本質にかかわる基礎理論の一部としたい。
【研究デザイン】:一定の質問に従い若干の自由度を持ち合わせながら面接を進行し、被面接者の語りに沿って情報を得る調査技法である半構造化面接法を用いた。
【対 象】:先行研究を根拠として訪問介護に対する一定の価値観を有する訪問介護員の抽出を策すため、経験年数が5年以上かつ介護福祉士有資格者を中心とした同資格無資格者を含むⅩ県内のY訪問介護事業所に勤務する訪問介護員を調査対象とした。
【調査期間】:データの収集にあたっては、2009(平成21)年5月2日から5月11日までの10日間において、順次、面接を行い事象のデータを収集した。そして、面接とデータの分析を併行して行い、7名の調査を終えた時点でデータの飽和化に至ったと判断し、調査を終了した。尚、データ収集に先立ち、2007(平成19)年8月から定期的にY訪問介護事業所における研修、参加観察による該当訪問介護員の実践への理解の機会、予備調査の期間を設けており、調査実施に際しての主観の減少を図っている。
【分析方法、質問項目】:面接内容は対象者全員の了解の上で録音し、全時間の逐語録を作成、文節毎に文章を抽象化した。すなわち、その意味内容から共通性を見出した。
面接では、研究者自身が作成した半構造的質問紙を使用した。その上で、各訪問介護員が関与するケースを対象とし、主としてa. 支援・援助行為に際する意識化の起点、b.
支援・援助の導入・終期時の思惟、c. 実践の点検、の内容に関する質問を行った。
3.倫理的配慮
研究計画書、及び研究者の守秘義務等の責任を明らかにした研究承諾書を用意して協力を得る等、日本社会福祉学会研究倫理指針に基づき面接調査を実施した。
4.研 究 結 果訪問介護員が日々の実践に対して抱く≪疑問・問い掛けを行う理由≫として、面接で得た発言は次のようなものであった。 (一部を抜粋して列記)
α 「会話をしてても、多分、人によって感じ方は違うと思うんだよね。気付きって大事ですもんね。・・・私も失敗が多々あるしね。 気付き、ほんとに気付けなかったっていうのもあるしね、反対に。・・・色んな利用者さんがみえますね。・・・日々勉強よ。何年やってて も日々勉強ですよ。」β 「やっぱり、自分の思ったようにしようとは思っていないですけども、利用者さんが何を望むかっていうのは、感知しているつもり だけど、どこまで読み取れてるか。・・・こうすればよかったぁって。・・・1時間なら1時間。利用者が望む提供ができたかって考えると、 自分の中ではまだまだ。」
δ 「今まで、やってきて実践してきたことが、その実践が、その方にとっては、何の役にも立たない、そういうときもあるんですね。 ・・・例えば、その技術面は、体が覚えちゃってるのでどんな場面でもできるんですけども、心、精神的なところでこんな考え方もある んだ、・・・こういう受け止めもあるんだとか、そういうものは、やっぱり人間対人間ですので、これっていうのがないので、ほんとに 難しいなって思いますね。」
ζ 「利用者さんが心から喜んでくださっているのかなぁっていう疑問はいつも持っているものですから。・・・ほんとに自分で、自分 では一生懸命やってるつもりなんですよ。やってても、利用者さんにとってはやっぱり足りない部分とか色々ありますよね。そういう 思いがありますから、うん。」
η 「自分の満足もあると思うんですけど、うん。やっぱり自分の自己満足ではいけないのでね。・・それでよかったのかな?って必ず 疑問が残りますよね。これ、残らないで済むのがまずないと思うんですけど。」
訪問介護員から得た発言の意味内容を整理すると、以下の点に共通性を見出せた。
a : 支援・援助の意味・内容・実施方法等の追究
b : 支援・援助における自身の行為への評価の追究
c : 支援・援助に際する「かかわる側」と「受ける側」の認識の相違の追究
d : 獲得した利用者情報の吟味 (a、b、cとの関連における吟味を含む)
< 具体的内容については、発表当日に面接記録等の資料を用いて、詳細な説明を加える。 >
※ 本研究は、隣谷正範・佐藤和夫・田中治和(2009)「訪問介護実践の過程に関する研究-介護実践の<起点>の探究-」(日本社会福祉学会 第57回全国大会、於:法政大学)と同調査に基づく続報である。