自由研究発表高齢者保健福祉5  藤井 佳子

在宅要介護高齢者のニーズとケア資源に関する研究
 -小規模多機能型居宅介護の利用者に焦点をあてて-

○   藤井 佳子 (会員番号7449)
キーワード: 《在宅要介護高齢者のニーズ》 《フォーマルケアとインフォーマルケア》 
《小規模多機能型居宅介護》

1.研 究 目 的

介護保険制度が「持続可能な制度」としての方策に力点を移行する一方、家族ケアが今後も弱体化していく現実において、在宅要介護高齢者を支えるフォーマルケア(以下FC)とインフォーマルケア(IC)のあり方についての再検討が求められている。そのような背景のなか、2005年の改正介護保険法において制度化され、翌年4月より誕生した小規模多機能型居宅介護は、高齢者のニーズに柔軟に対応し、地域ICとの協働によって在宅要介護高齢者を支援することが期待されている。しかしながら、制度化によってサービスの柔軟性が失われ、地域ICとの関係づくりにおいて困難を抱えている事業所も多い。
 そこで本研究では、小規模多機能型居宅介護の利用者に焦点をあて、1)在宅要介護高齢者の未充足ニーズを明らかにし、2)把握されたニーズを充足するために、どのようにFCおよびICを組み合わせて対応していくのが望ましいかについて考察することを目的としている。  

2.研究の視点および方法

小規模多機能型居宅介護を含めた小規模多機能ケアの課題については、大きく分けて 1)事業所の運営面・経営面における課題、2) 利用者に提供されるサービスのあり方という2つの側面において議論されるが、後者の利用者を対象とした研究は極めて少ない。そこで本研究では、小規模多機能型居宅介護利用者の未充足ニーズに関する事例調査を実施し、対応するFC/ICによって未充足ニーズを質的に類型分析した。
  調査対象は、A県B市にある小規模多機能型居宅介護C事業所に登録している利用者および家族介護者であり、このうち調査の同意が得られた13ケース(男性2名、女性11名、平均年齢84.6歳、要介護度平均2.3)を分析の対象とした。調査期間は2009年7月である。
  データ収集においては、半構造的インタビュー法による面接調査を行った。データベースを作成するため、ケースごとに面接記録を作成し、さらに13ケースにおける結果の比較ができるように、分析枠組みに即したExcel分析シートを作成し、把握された未充足ニーズの具体的内容を入力した。  
 分析方法については、Excel分析シートに入力された未充足ニーズの内容について、対応方法を判断して類型化したうえで、すべての類型について未充足ニーズ内容一覧表を作成し、各類型の特徴を分析した。  分析枠組みは、先行研究を参考として、ケアの構成要素と対応方法の2項目による「高齢者ケアの未充足ニーズ分析枠組み:修正版」を作成した。ケアの構成要素は、「環境的ケア」、「身体・精神的ケア」、「心理社会的ケア」、「生活全般的ケア」の4つに設定し、対応方法については「FC対応」、「IC対応」、「FC/IC双方で対応」の3つに設定した。

3.倫理的配慮

事例調査に際し、研究目的および方法、個人情報の取り扱い、録音データや記録の使用、学会発表および論文作成において研究成果の発表を行うこと等について、調査協力者全員に口頭および文書で説明し、了解を得た。

分析枠組みと未充足ニーズの発現状況 

4.研 究 結 果

調査対象13ケースにおいて、分析枠組みに即した12類型に該当した未充足ニーズの数は、表1の通りである。本研究は事例分析であり、表1で各類型に示した未充足ニーズの数の多少は参考程度にとどまるが、今後同様の事例調査が積み重ねられることにより、分析結果において一定の傾向を見出せる可能性もあるため、数量的結果を提示した。13ケースにおける未充足ニーズの延べ総数は73であり、1事例あたり平均5.6個の未充足ニーズが存在していた。
  本研究において、表1に示した未充足ニーズ発現状況における数量的傾向、および類型別に未充足ニーズの特徴を分析した結果、大きく以下の3点が明らかになった。
 1) 心理社会的ケアおよび生活全般的ケアの未充足ニーズが多数存在しており、これらの未充足ニーズにも対応していく必要があることが示唆された。
 2) 在宅要介護高齢者ケアにおけるFC/ICの協働の必要性が明らかになった。ケアの構成要素ごとに、FC中心あるいはIC中心といった傾向はあるものの、いずれの構成要素においても、FC/ICが協働して対応する必要のある未充足ニーズが存在していた。
 3)高齢者と地域ICを仲介する支援や、地域交流における側面的支援が、FCとしての小規模多機能型居宅介護に不足していた。地域密着型サービスとして求められる役割・機能に照らして考えれば、小規模多機能型居宅介護は、FCとして「通い」、「泊まり」、「訪問」のサービス提供で完結するのではなく、「地域ICとの協働」が重要な課題であることが示唆された。

※本研究は、2009年度修士論文「在宅要介護高齢者のニーズとケア資源に関する研究-小規模多機能型居宅介護の利用者に焦点をあてて-」(上智大学大学院)における研究の一部を加筆・修正したものである。  

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