高齢者虐待対応機関の機能に関する日本と韓国の比較
-モデル事例を通じて-
○ 東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科 金 東善 (会員番号6865)
キーワード: 《高齢者虐待》 《高齢者虐待対応機関》 《高齢者虐待対応》
高齢者虐待は,高齢者の権利を奪い,生活を脅かす一方,その対応や介入には慎重を期する問題である.高齢者虐待の予防及び早期発見や対応,介入を行う解決の仕組みは,高齢者虐待対応機関における重要な課題である.
日本では2006年4月に「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」の成立により,市町村の役割が明確になり,高齢者虐待の対応機関として,地域包括支援センターが設立され,高齢者の権利擁護の業務等を担われている.韓国では2004年1月に老人福祉法が改正施行され,高齢者虐待に対する条項が盛り込まれ,高齢者虐待の予防や対応が行われようになった.その実施機関として特別市(日本の東京にあたる)・広域市(日本の政令指定都市にあたる)・道(日本の道府県にあたる)に老人保護専門機関が設置された.
本研究では,両国の高齢者虐待対応機関の高齢者虐待予防活動,高齢者虐待対応連携機関の介入必要性,高齢者虐待発生時の対応に関して比較分析を行い,高齢者虐待対応機関の方向性を探り,考察する.
研究対象は,日本では高齢者虐待の対応や介入を行っている地域包括支援センターを各都道府県や県庁所在地のホームページから記載順各5か所を選び,合計235か所のセンターに質問紙を郵送した.韓国では全ての老人保護専門機関20か所に質問紙を郵送した.回答は,機関としての回答を求めた.
質問紙は,両国ともに2010年3月と4月に配布し,回収は,4月20日までに郵送で回収した.回答は自由選択式とした.
調査内容と分析は,金・白石(2009)の「高齢者虐待の実態に関する調査-日本と韓国の比較-」の結果を参考に両国の高齢者虐待対応機関の機能の一部についてモデル事例を用いて,その高齢者虐待対応機関の高齢者虐待予防活動,介入必要性,高齢者虐待発生時の対応について,統計解析はSPSS11.5
for Windowsを用いて,クロス分析のFisherの直接確率検定を行った.
匿名性の保持及び,調査への協力の有無で何らかの不利益にならないことを説明し,データを研究以外の目的に使用しないこと,プライバシーの保護についても説明を行った.
4.研 究 結 果 日本では質問紙235部を配布し,90部が回収され,38.3%の回収率であった.一方,韓国では質問紙20部を配布し,13部が回収され,65.0%の回収率であった.
高齢者虐待対応機関の対応時間を見てみると,24時間相談を行っているところは,日本では71.1%であり,韓国では100%であり,有意差(P<0.05)が認められた.高齢者虐待発生時の24時間対応を行っているところは,日本では61.1%であり,韓国では100%であり,有意差(P<0.01)が認められた.また,高齢者虐待を受理してから介入までの制限時間を設けているところは,日本では10.0%であり,韓国では76.9%であり,有意差(P<0.001)が認められた.
両国の高齢者虐待対応機関の高齢者虐待予防活動回数の状況を項目別に見てみると,日本の方が多いのは「認知症の講座の開設」(P<0.001),「介護予防の講座の開設」(P<0.01)であり,有意差が認められた.一方,韓国の方が多いのは「専門職員向けの研修」(P<0.001),「介護サービス事業者の研修」(P<0.01),「住民への高齢者虐待防止の啓発」(P<0.001),「高齢者の人権に対する意識啓発」(P<0.001),「関係機関のネットワークづくり」(P<0.05),「見守りネットワークづくり」(P<0.01) ,「早期発見ネットワークづくり」(P<0.001),「虐待事例の分析」(P<0.01)であり,有意差が認められた.
両国の高齢者虐待対応連携機関の介入の必要性の状況を項目別に見てみると,韓国の方で介入の必要性が高いのは「近隣住民」(P<0.001),「市民ボランティア」(P<0.001),「福祉事務所」(P<0.05)
であり,有意差が認められた. 両国の高齢者虐待発生時の対応の必要性の状況を項目別に見てみると,日本の方で対応の必要性が高いのは「関係者と個別ケース会議の開催」(P<0.05),「支援チーム構成」(P<0.01),「被害者の見守り」(P<0.001)であり,有意差が認められた.一方,韓国の方で対応の必要性が高いのは「被害者の施設入所を検討する」(P<0.05)であり,有意差が認められた.