自由研究発表高齢者保健福祉4  山田 みどり

調停・審判事例にみられる高齢者の経済的虐待
 -早期発見、予防のプロセスとメカニズムの解明-

○ 日本福祉大学  山田 みどり (会員番号7872)
キーワード: 《高齢者》 《経済的虐待》 《予防》

1.研 究 目 的

 厚生労働省の調査では、高齢者への暴力や介護放棄、金品の詐取などの虐待が2008 年度で約1万5千件報告され、前年より1割強増えた(厚生労働省 : 2010).また、認知症高齢者に関しては、今後ますます増加することが予測されるが(昭和60年度の認知症出現率と平成4年9月の厚生省人口問題研究所の人口将来推計)本人の意思が不透明な場合には、例え親族であったとしても後見人で無い限り、勝手に本人の身上面、金銭面を決める事が出来ない.それ故、法的な手続きが期待されるが、日常生活自立支援事業は申し込みが多く、直ぐに利用できず、成年後見は手数料が高く、手続きが複雑で、時間がかかりすぎるという問題がある.高齢者虐待のなかでも、経済的虐待は児童虐待にはない高齢者固有の虐待タイプである(田中2006:4).また経済的虐待は身体的虐待やネグレクト、心理的虐待と絡んでいるとの報告もあり、経済的虐待が身体的虐待や心理的虐待、ネグレクトの動機になるともいわれている.それ故、経済的虐待の早期発見は身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待など他の虐待の予防につながると思われる.
 本研究では高齢者の経済的虐待を早期に発見・予防することをめざし、調停や審判の場に見られる高齢者虐待の発生メカニズムを明らかにしていきたい.そのような試みが高齢者の生活の質を確保する事及び、他の高齢者虐待の予防にもつながりうると考える。

2.研究の視点および方法

 高齢者の経済的虐待に関する研究においては、具体的な事例を分析し、虐待者側の虐待に至るプロセスや家族内の権力構造を含む虐待のメカニズムを明らかにすることが必要である.個々の虐待へのメカニズムやプロセスを知ることで、早期に虐待を予防でき、家族関係の再構築、他の虐待への予防に役立つことが期待できる.   
 研究の方法としては、昭和24年4月より平成21年12月までの家裁月報、ケース研 究から扶養と遺産相続の事例において、民法892条の「著しい非行」に該当する、経済的 虐待事例と民法879を条2項「相続人廃除」の事例をピックアップし整理した.

3.倫理的配慮

 公刊された書物(「家庭裁判所月報」誌、「ケース研究」誌)に記載されている調停・審判例を社会福祉における事例分析手法を用いて検討し、社会福祉の視点から分析を試みる.

4.研 究 結 果

 『家庭裁判所月報』誌や『ケース研究』誌に記載されている経済的虐待においては、申立事件について、申立人の理由と相手方の行為が事実として如何に妥当であるかという所で争われている。例えば、被申立人の経歴や、如何に放蕩を繰り返しているかを列挙した申立人の要旨をもとに、裁判所は法の理論による判決・決定の批判的検討を行い、審判をくだしている.そこには、福祉的視点としての、加害者の生活史を含めた個人的事情や、加害者を取り巻く社会環境等が把握されておらず、申立人への援助過程は明らかになっていない.結局、経済的虐待という視点で見れば、被害者の直面する経済的、身体的、心理的危機、加害者と被害者の間で生じるコンフリクト、そこから発生する悪循環の過程で、被害者と加害者は問題解決が見いだせず、自分達なりの対処方法を駆使しても悪循環を断ち切ることが出来ないで深見に陥ってしまっている.賭博を行なう加害者、闇金融から借金する加害者は心理的に親族の誰からも支援されず、厄介者となり、その苛立ちが暴力に変わり、其の行為はますますエスカレートして行く.
 この様な事態を回避するためには、まず悪循環を断ち切ることが必要である.被害者、加害者の事柄を踏まえた上での両者の第三者からのサポートの仕方や介入方法を見出す必要が迫られる.法の理論による判決・決定は「推定相続人廃除」を受ける加害者の心情を加味せず、親子間の家庭的・相続的共同関係の破壊があるとし、また「著しい非行」に該当するとして、一方的に廃除の申立てを審判し容認する.しかし、「推定相続人廃除」を容認された加害者はとても心情的に納得しているとは思えない.不安定な気持に寄り添い、継続的に相談に乗ってくれる人たちが周りにいることは、自分達の置かれている立場を客観的に理解でき、この悪循環を断ち切るためには、まず、何をしなければならないかを把握する事が出来る.家族の離散を防ぎ、家族機能の再構築を図るために、地域での支援システムの構築が急がれる.

5.考 察

 今後は、この研究を高齢者の経済的虐待を取り扱う機関の専門家へのインタビュー調査につなげ、高齢者の経済的虐待が始まった要因やどの時点で経済的虐待が始まったのかを考察する事により、どの様な専門家のネットワーキングが必要であり、いかにそれを利用していくかを考察して行きたい.

6.文 献

 桑原洋子(1999)「老人に対する経済的虐待と親族相盗例」『民衆司法と刑事法学』:485-498

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