自由研究発表高齢者保健福祉4  小島 佳子

高齢者虐待における「先を読む援助」
 -介護支援専門員ごとに異なる視点からの検討-

○ 日本福祉大学大学院  小島 佳子 (会員番号7866)
キーワード: 《高齢者虐待》 《予防》 《基礎資格》

1.研 究 目 的

 平成18年度に「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が施行された.それと同時に地域包括支援センターが設置され,高齢者虐待の相談窓口が設けられた.しかし,4年経った現在も高齢者虐待の件数は,一向に減ることはない.高齢者虐待の要因は複雑であり,根絶することは難しい.だが,高齢者介護に携わる介護支援専門員がいかに早く危機の予測を立てられるかにより,虐待を回避できる可能性がでてくるのではないか.この点について,私は,介護支援専門員の様々な基礎資格が危機の予測に影響を与えているのではないかと考える.なぜならば,基礎資格ごとに個別の教育がなされているからである.本研究ではこの仮説を検証していきたい.さらに,様々な基礎資格を持つ介護支援専門員自身の不足している視点に対する自己覚知を促し,現に見えている事柄だけでなく,その周辺及び将来など見えていないものまでに注意を払う「先を読む援助」の重要性を示したい.

2.研究の視点および方法

 研究の対象は,調査時点で介護支援業務に携わっている介護支援専門員で,目的は高齢者虐待の危機の予測に介護支援専門員の基礎資格がどの程度影響しているのか,あるいはそれ以外に影響しているものがあるのかを検証するものである.
 2009年12月N大学ケアマネジメントセミナー,2010年2月9日K市,2010年2月23日T市において行われた高齢者虐待予防研修の参加者に無記名での質問紙調査を実施した.普遍的な一つの創作虐待事例を時系列にたどり,どの時期に「何かおかしい」と気付くのか,そして,何を根拠にそう思ったのかを回答してもらった.気付きに影響を与える変数として,性別,年齢,実務年数,担当事例数,基礎資格,所属法人,勤務形態,介護支援専門員の事業所所属人数,主任介護支援専門員の有無,スーパーバイザーの有無,過去3年間に受講した研修の有無と頻度を仮定し,回答を依頼した.量的データからの探索は,クロス集計およびX2検定を用いた.分析ソフトはSPSS15.OJ for Windowsを使用自由記載データからの探索は,単語や文脈の出現頻度を整理し,文脈から意味を汲み取り,概念化した.

3.倫理的配慮

 アンケート調査について研究の趣旨と倫理的配慮について文書および口頭にて説明した.回答の強制は行わず,調査票の回答をもって同意が得られたこととした.

4.研 究 結 果

 3回の研修の場において116名に配布し91名から回収した.有効回収率は78%であった.なお,すべての設問項目に回答がなくても項目によって使用できるものは有効回答数として分析の対象とした.
 対象者の基本属性として,男性12名(13.2%),女性79名(86.8%).平均年齢は43.41歳(SD=10.46歳)であった.基礎資格は,医療系は21名(25%),福祉系が63名(75%)であった.
1)支援経過カテゴリーと基礎資格との関連
 早い段階(「インテーク」段階)において「何かおかしい」と気付いた者は,社会福祉士資格を持つ者がその他資格を持つ者に比べ,有意に多かった(p<0.05).
2)支援経過カテゴリーと研修受講の頻度との関連
 早い段階(「インテーク」段階)において「何かおかしい」と気付いた者は,権利擁護研修受講を年に1回以上受けている群がその他の群に比べ,有意に多かった(p<0.05).
3)「何かおかしい」と感じた根拠  
 インテークの段階で「何かおかしい」と気付いた35人の自由記述の内容について,そう感じた根拠を分析したところ,福祉職29人は,介護者について「理解力に乏しい」が18人(62%),「内向的・人付き合いが苦手・無関心・自己中心的な性格である点」が12人(41.3%),また「男性(息子)介護者・2人暮らし・単独介護である」が7人(24%),「自分の生活に支障が出てくると虐待になる可能性あり」が6人(20%)の順に多かった..それに対し医療職6人は,介護者に対して「理解力に乏しい」が5人(55%),「今後の介護力について不安を感じる」が3人(50%)、「母親の疾患や病状に応じた必要な支援を息子が行えない」が3人(50%),「内向的・人付き合いが苦手・無関心な性格である点」が2人(33.3%)であった。  
 以上の点から,①上位2番目以降に両者の視点に違いが見られること②医療職に比べ、福祉職は,介護者の生活状況の類推など広い視野があること③福祉職は、介護者自身もしくは介護の環境に何がしかの問題があると虐待発生の可能性を感じる④医療職は,本人の健康状態および療養上のリスクに視点が向けられる、ということがわかった.  
 福祉職・医療職は,それぞれ同じ事例に接しても,注目する視点が違うことが示された.故に、これらの視点を補完する働きかけが必要である事が示唆された.
参考文献
山口光冶(2009)「高齢者虐待とソーシャルワーク」みらい

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