自由研究発表高齢者保健福祉4  坂本 陽亮

高齢者虐待へのチームアプローチに関する課題についての考察
 -虐待事例への介入、「虐待」の用法への志向を通して-

○ 首都大学東京大学院  坂本 陽亮 (会員番号7863)
キーワード: 《高齢者虐待》 《ミクロな定義》 《虐待家族観》

1.研 究 目 的

 まず「定義」を「物事の意味内容を、他と明確に区分できるように限定すること」とし、そのうえで、「ミクロな定義」を「個人が今までの経験や(マニュアルなど)持っている情報をもとに行なう高齢者虐待かどうかの判断」とする。これは野口裕二(2001)が、個人が定義とどのように出会い、取り入れ、まとめあげていく過程のことを定義の「ミクロな過程」としていることに基づく。
  在宅における高齢者虐待には地域包括支援センター職員や、介護支援専門員(以下、CMとする)など多様な専門職が関与している。それらの専門職は自身の所属や職種、または経験などによって形成されるミクロな定義を持っている。そして現在、高齢者虐待の事例に介入する時にはチームアプローチを行なうことが求められている。では異なったミクロな定義を持つ各専門職がチームアプローチを行なう時、そこでどのような事が起こるのか。 以上の問題関心から、本報告では、自身のミクロな定義に基づき虐待事例に介入する時、そこで専門職はどのようなものの影響を受けているのか、また専門職が家族に対して自身のミクロな定義を伝える時、すなわち家族に対して「虐待」という言葉を用いる時、そこではどのような意図があるのかという2点について明らかにすることを目的とする。そしてこれらの点を明らかにすることによって、虐待事例に介入する際に行なわれるチームアプローチに有益な知見をもたらすことを目指している。  

2.研究の視点および方法

 本研究では、現場で実際に働いている専門職へのインタビュー調査を行ない、そのデータをもとに仮説を生成することを目的とする質的研究の方法を採用する。
 データ収集のための調査では、東京都内のA市を中心に高齢者虐待の事例に関わった経験のある10名のさまざまな専門職に対して半構造化インタビューを行なった。分析方法は、インタビューデータからボトムアップに仮説生成を行なうのに適した木下康仁が考案した修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下、M-GTA)を採用した。

3.倫理的配慮

 インタビューに際し、研究協力者に対して研究目的を説明するとともに、個人名が特定されることはないこと、研究終了後にはデータを破棄すること、協力を拒否する自由があることを伝え、文章にて合意を得た。なお本調査は、首都大学東京の研究安全倫理委員会への申請を行ない、受理されている(承認番号21-25)。

4.研 究 結 果

 得られたデータをもとにM-GTAの手法で分析を行なった結果から、ここでは得られたカテゴリーの中でも特に【介入への志向】、【「虐待」用法への志向】について焦点を当てて詳しく見ていく(以下、【】はカテゴリー、[]はサブ・カテゴリー、<>は概念とする)。そしてその後2つのカテゴリー関係しているものにどのようなものがあるのかを探る。  
 まず【介入への志向】とは、各専門職が虐待事例に対してどのように介入を行なおうと考えているのかということで、[介入方法への葛藤]、[介入プラン]という2つのサブ・カテゴリーから構成されている。[介入方法への葛藤]とは虐待事例にどのように介入しているのかが、他の職種と異なってしまうことに対する葛藤のことで、たとえば地域包括の職員から挙げられた<介入方法の違い>などがあげられている。また「介入プラン」とは虐待事例に対してどのような介入を行なおうと考えていることで、たとえば<疑問を持ちながらの分離>や、<グレーゾーンのまま見守り>などがあげられている。  
 次に【「虐待」用法への志向】とは、実際に虐待という言葉をどのような理由で用いるのか、または用いないのかということで、[「虐待」を用いる][「虐待」を用いない]という2つのサブ・カテゴリーから構成されている。[「虐待」を用いる]、[「虐待」を用いない]とは、ある理由に基づいて、家族に対して「虐待」という言葉を用いる、あるいは用いないということで、たとえば[「虐待」を用いる]では<自身の関与の理由として>が、[「虐待」を用いない]では<今後の関係性を考えて>などの概念があげられていた。  
 また分析を進めていくなかで、【虐待家族観】、【他職種の虐待家族観に対する認識】という2つのカテゴリーが上述の2つのカテゴリーに関係しているものとして明らかになってきた。まず【虐待家族観】とは、各専門職が虐待を行なっている家族をどのように考えているのかということで、たとえば<加害者の自覚欠如>や<介護ストレスの蓄積>などがあげられている。また【他職種の虐待家族観に対する認識】とは、自分とは異なる職種の専門職が家族に対してどのように考えていると意識しているのということで、たとえばCMからは<ヘルパー(介護福祉士)の情緒的解釈>があげられている。  
 この【虐待家族観】は、[介入プラン]や【「虐待」用法への志向】に関係している。また【他職種の虐待家族観に対する認識】は、[介入方法への葛藤]に関係している。  
 以上のように、虐待事例に介入する時、また家族に対して「虐待」という言葉を用いる時、そこでは職種や所属などの専門職の帰属に関するものだけではなく、対家族への意識が重要な要因となっていることが明らかになった。実際にチームアプローチを行なう時には、このような要因にもしっかり考慮していかなければならない。

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