自由研究発表高齢者保健福祉3  大塚 理加

在宅高齢者の福祉と医療の連携について
 -チームアプローチを促進するために-

○ 国立長寿医療研究センター  大塚 理加 (会員番号5473)
東京都健康長寿医療センター  野中 久美子 (会員番号7394)
東京都健康長寿医療センター  菊地 和則 (会員番号2613)
キーワード: 《高齢者》 《在宅医療》 《チームアプローチ》

1.研 究 目 的

 在宅で生活する要介護高齢者において,医療が必要な場合に地域での生活を継続していくためには,いわゆる介護系,医療系サービスを導入する必要がある.これらのサービスはともに,高齢者の在宅生活を支えていくという目的は共通である.しかし,順調な連携体制とはならないケースが散逸しているのが現状である.このような多職種における連携は,在宅高齢者のケアマネジメントにおいて重要な課題のひとつであり,これまでにも理論的な整理がなされてきた(菊地 2007など).
 福祉と医療の連携を促進するために,これまで蓄積された理論を実際に現場で生かしていく試みとして,専門職への研修が実施されている.これらの研修では,専門職が多職種連携のためのチームアプローチの理論等を学び,実際に現場で応用していくことを目指している.このように専門職がチームアプローチの理論を学ぶことは,多職種連携を促進する方法のひとつと考えられる.
 また,多職種連携を促進するためには,実際の我が国における在宅高齢者のための連携場面において,個々の専門職が連携しやすい具体的な方法を示し,体制を構築することも重要である.そのためには,連携場面における現場の状況を分析し,チームアプローチでの対応のプロセスを示すとともに,未だ潜在化している促進要因や阻害要因を明確にすることが必要である.しかし,これまでにこのような方向からの研究はほとんどなされていない.
 本研究では,在宅高齢者の福祉と医療の連携についての状況を分析し,在宅高齢者の介護と医療の連携における対応のプロセスとその促進要因と阻害要因を示す.そして,これらの要因を検討することで,具体的な連携方法の提示や体制上の課題を示し,在宅高齢者の福祉と医療との連携を促進することを目的とする.  

2.研究の視点および方法

 本研究では,在宅高齢者福祉の担当者の視点から,福祉と医療との連携について,その現象と要因を示す.具体的には,在宅高齢者の福祉サービス担当者を対象とした調査における,連携がうまくいった事例と,うまくいかなかった事例についての自由記述での回答から,福祉と医療の連携が必要な事例での促進要因と阻害要因を検討する.
 対象者は地域包括職員12名、併設事業所職員12名の計24人であった。実施期間は平成21年12月から22年1月であった。本調査は,チームアプローチを促進するための研修後の評価とともに行われた.医療との連携がうまくいった事例19例,うまくいかなかった事例18例が収集された.これらの事例について,グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)で分析した.  

3.倫理的配慮

 本研究の実施には,個人が特定できる情報には留意して分析等を行った.また,東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所)の倫理委員会の審査を受けた.

4.研 究 結 果

 中心となるカテゴリーとして『情報の共有』,サブカテゴリーとして『ケアが必要な状況』『不十分な介護』『多職種での支援』『困難な生活』『順調な生活』が抽出された.
 『ケアが必要な状況』になり,多職種での支援が必要となったとき,福祉職は,多職種間での『情報の共有』を試みる.
  『情報の共有』では,医師や看護師等の医療従事者との連携を図るために,福祉職が直接連絡を取ることがあった.それが難しい状況である場合は,訪問看護ステーションの看護師や病院のMSWをキーパーソンとして連携を取っていた.必要な医療情報が家族からサービス提供者に伝えられないと,直接医療従事者へ連絡することもあったが,あまりうまくいかなかった.また,ケアマネジャーから,必要な情報が提供されていない場合もあった.  
 本研究の結果からは,特に〈キーパーソンの存在〉が情報共有には重要であることが示された.また,キーパーソンはある職種が独占するのではなく,訪問看護ステーションの看護師や,病院のMSW,地域包括支援センター職員,ケアマネジャー等と様々であった.
 〈キーパーソンの存在〉があり,〈病院との連携〉〈訪問看護との連携〉が上手くいくと,『情報の共有』がスムーズになされ,『多職種での支援』が可能となった.しかし,〈病院との連携〉〈訪問看護との連携〉が上手くいかない場合や,〈家族からの情報〉や〈ケアマネジャーからの情報〉が十分でない場合には,『不十分な支援』となっていた.  
 本研究では,連携には『情報の共有』の重要であること,さらに『情報の共有』には,〈キーパーソンの存在〉が必要であることが強調された結果となった.しかし,キーパーソンは事例によって異なる専門職が担当しており,本研究の結果からは,どのような要因がキーパーソンの選出に影響しているのか,またキーパーソンがどのように連絡や調整を行っているのかは明らかにされなかった.これは,本研究での限界と考えられる.
 今後は,本研究の結果を踏まえ,在宅医療を必要とする高齢者への対応についての事例を追加し,より詳細な検討を行うことが必要である.特に,事例の特徴とキーパーソンの職種や役割等についてのインタビューデータを収集し,分析することで,事例のパターン別の対応方法等が明らかになり,より具体的な対応方法の提示や連携しやすい体制の構築への提言が可能となると考えられる.  

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