自由研究発表高齢者保健福祉3  岡部 真智子

高齢者対応住宅に住み替えた高齢者世帯の居住継続意向に関する研究
 -A高齢者向け優良賃貸住宅居住者を対象とした調査より-

○ 日本福祉大学  岡部 真智子 (会員番号5969)
日本福祉大学  児玉 善郎 (会員番号7858)
キーワード: 《高齢者》 《高齢者向け優良賃貸住宅》 《居住継続意向》

1.研 究 目 的

 近年,高齢者向け住宅施策として早めの住み替えが高齢者の居住の安定につながるとの考え方にもとづき,高齢者向けの賃貸住宅整備が進められている.早めの住み替え先となる高齢者向けの住宅には,バリアフリー設備や緊急通報装置が備えられ,高齢の入居者が安心して生活できるよう整備され,それが入居する理由にもなっている(谷2004).
 そこで本研究では,国の高齢者向け住宅施策の一つである高齢者向け優良賃貸住宅(以下,高優賃)入居者を対象に質問紙調査およびインタビュー調査を行い,居住継続に関する意向,及び自立生活が困難になった場合の居住意向の実際を明らかにし,高齢者向け住宅が終の住処となりうるのかを考察する.

2.研究の視点および方法

 近年,高齢者の単身世帯,夫婦のみ世帯が増加する背景を受け,「2015年の高齢者介護」では「早めの住み替え」が奨励され,高齢者向けの住宅の種類や数が増加している.しかしこうした住宅が「早めの住み替え」先としてふさわしいのか,入居者は入居後も継続して住み続けたいと考えているのかどうかについてはまだ十分に明らかになってはいない.
 そこで本研究では,2008年10~12月にかけて高優賃に入居した高齢者の居住継続意向とその理由を明らかにするために,質問紙調査及びインタビュー調査を行った.質問紙調査は直接配票・郵送回収により行い,A高優賃に入居する居住者全128世帯を対象とした.有効回答数は93票,有効回答率は72.7%であった.インタビュー調査では,質問紙調査の回答者の中から調査協力を得られた11世帯の入居者を対象に,調査員3名がそれぞれ1時間30分から2時間かけて自宅で半構造化面接を行った.

3.倫理的配慮

 厚生労働省が定める「臨床研究における倫理指針」,日本社会福祉学会が定める「日本社会福祉学会研究倫理指針」を遵守した.具体的には,協力者にはあらかじめ回答内容を統計的に処理し(質問紙調査),回答することで迷惑をかけることがない旨を伝えた.また分析・考察の際には調査協力対象者が特定できないよう匿名化,コード番号化等の処理を行った.

4.研 究 結 果

 1)調査回答者(高優賃居住者)の属性
  質問紙調査では,単身世帯(48.4%)と夫婦世帯(47.3%)がほぼ同数であり,75歳以上が46.2%を占め,平均年齢は74.9歳である.健康状態は「良い」「まあ良い」と回答するものが37.6%,「普通」が36.6%で「あまり良くない」「良くない」も23.7%みられ,15%が要介護認定を受けている.
  インタビュー調査では,11世帯中,夫婦世帯が6,単身世帯が5とほぼ半数ずつで,年齢は(夫婦世帯は年齢が高い方),60代が3世帯,70代が5世帯,80代が3世帯と70代がもっとも多い.健康状態は,夫婦世帯のうち夫婦ともによいのは1世帯のみで,残りの5世帯はどちらかが健康上の問題を抱えている.単身世帯は,「良い」「まあ良い」「普通」が5人中4人で,もう一人も杖は使用するものの生活は自立している.
 2)今後の居住継続意向  
  質問紙調査の結果から,全体の63.4%が「住み続けたい」と考えていることがわかった.ただし,健康状態によって差があり「良い」「まあ良い」と回答した者は,68.6%が「住み続けたい」意向を示しているのに対し,「あまり良くない」「良くない」と回答した者で「住み続けたい」という者は54.5%と低いことがわかった.
  インタビュー調査の結果から「住み続けたい」理由としては,「永住するつもりで引っ越してきた」「もう一度引越しするのは大変である」が挙げられていた.一方で「住み続けない」理由としては,「何かあったときに安全ではない」「息子家族と同居すれば10万円ほど浮く」が挙げられていた.
  3)自立生活が困難になった場合の居住意向
  質問紙調査の結果から,「在宅介護サービスを利用しながら,現在の住宅に住み続けたい」と回答した者が37.6%と最も多かった.次が「わからない」で32.3%である.「子どもと同居する」と回答した者は11人,11.8%と少ない.健康状態別にみると,健康状態が「良い」「まあ良い」の場合には,「サービスを利用しながら住み続けたい」と回答した者が31.4%であるのに対し,「良くない」「あまり良くない」者では40.9%と高くなっている.
  インタビュー調査の結果から,「サービスを利用しながら住み続けたい」の理由として「A高優賃に介護サービス事業所が併設されているから」や「施設を利用する家族の姿をみて施設には入りたくないと感じている」が挙げられている.また,別居する「子のところに移る」と考える者がいる一方「迷惑がかかるから頼れない」と考える者もみられた.
  4)まとめ  
  「住み続けたい」意向を持つ者は,全体の6割以上いるが,その理由をみると,「他にいくところがない」などの消極的な理由も含まれることがわかった.住み続けない理由としては,体調が悪くなったときのサポート体制がなく安心でない,を挙げていることや自立生活が困難になった場合に,高優賃に住み続けると回答した者は約37%と低いことから,高優賃が終の住処と考えられていないことがわかった.
  
谷武(2004)「公団が管理する高齢者向け優良賃貸住宅の居住者属性と入居までの経緯に関する研究」『都市計画論文集』39,415-420.  

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