自由研究発表高齢者保健福祉3  板東 一仁

高齢者福祉と住宅政策について
 -有料老人ホームと高齢者専用賃貸住宅との差異を中心として-

○ 秋田看護福祉大学  板東 一仁 (会員番号6661)
キーワード: 《有料老人ホーム(介護型)》 《高齢者住まい法》 《特定施設入居者生活介護》

1.研 究 目 的

 高齢社会を迎え、2005年現在、2,576万人(高齢化率20%)の65歳以上人口が、2040年には、3,850万人(同37%)に増加すると予測されている。そのうち、高齢単身世帯は、同じく387万人から717万人に増加が見込まれ、高齢者の単身世帯や高齢者のみ世帯が今後、大きく増加するものと考えられている。一方、要介護認定を受けた高齢者数も、同じく218万人から453万人へと大幅な増加が見込まれている。  
 上記2,576万人の高齢者の生活場所を見ると、健常者(要介護認定を受けていない者)2,158万人は、在宅(ケアハウス、有料老人ホーム等を含む)で生活し、要介護認定を受けた418万人のうち特別養護老人ホーム等施設で生活しているのは、91万人(22%)に過ぎず、多くの高齢者が入所を待ちきれず代替施設に入居している。このような現状を見るとき、特別養護老人ホームでのサービス提供数には限界があり、将来的には総合的な高齢者の住宅政策が必要と考えられるが、従来、高齢者の住まいに関する法律は無く、平成13年に「高齢者の居住の確保等に関する法律」(以下「高齢者住まい法」という。)が漸く制定され、当初、国土交通省所管として住宅政策としての面から施行されてきたが、平成21年5月に法改正があり、新たに厚生労働省も同法所管となり、住宅政策と高齢者福祉政策が一体化され「高齢者住まい法」が施行されることとなった。  
 高齢者福祉政策面では、平成12年4月から、介護保険法が実施され、介護サービスに民間業者参入が可能となり、老人福祉法の施設関係規定も大きく改正され、特に、老人福祉法第29条以下に規定されている、「有料老人ホーム」については、「住宅型」と「介護型」に分かれた。その後の改正で、「有料老人ホーム」の定義が変更され、1人でも入所しサービスを提供すれば、「有料老人ホーム」の届出が必要となった。  
 しかし、高齢者が求めているのは、安全、安心で年金でも生活できる施設である。様々な理由により自宅等で生活できない要介護の高齢者が生活できる施設として特別養護老人ホームに変わる施設の設置が求められているが、現在、「高齢者住まい法」に基づく高齢者住宅で、要件を満たして比較的簡単に届け出ることができる、「高齢者専用賃貸住宅」が急速に増えている。「高齢者専用賃貸住宅」は、介護保険法上の特定施設入所者生活介護の対象施設でもあり、設置者からすれば、「有料老人ホーム」のように知事の指導監督を受けることや報告義務も無く、届出のみで比較的自由に事業が出来るからである。  
 そこで、高齢者福祉の視点から見たときに、高齢者に必要とされる居住スペースや共有スペース、マンパワーが確保されているか、居住権や生活権が十分保障されているか、検証する必要がある。  
 本報告では、老人福祉法第29条以下の「有料老人ホーム」に関する規定と、「高齢者住まい法」の高齢者専用賃貸住宅の関係について、高齢者福祉の視点から報告したい。  

2.研究の視点および方法

 要介護状態の高齢者が安心して気軽に入所できる住宅として、老人福祉法第29条以下に規定されている「有料老人ホーム」と、「高齢者住まい法」に規定されている高齢者専用賃貸住宅の関係について制度面で矛盾や問題が無いか研究する。  
 国の資料及び法令等に基づいて研究するが、将来的には、研究事業として、「有料老人ホーム介護型」と「適合高齢者専用賃貸住宅」の実態調査を行う予定である。  

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会の研究倫理指針に基づき、関係者が特定されないよう配慮し、且つ人権についても尊重するよう配慮する。 

4.研 究 結 果

 老人福祉法第29条では、「老人を1人でも入居させ、何らかの福祉サービスを提供すれば、」有料老人ホームとして知事に届け出なければならない。しかし、その実態を見れば、無届の施設も多く存在しており、何らかの対策若しくは制度見直しが必要である。一方、「高齢者住まい法」に基づき「高齢者専用賃貸住宅」として届け出て登録されれば、「有料老人ホーム」からは除外され、知事からの報告の徴収、指示、登録の取消しはあるものの、有料老人ホームのような立入り調査や毎年の報告義務も無く、自由に施設経営ができる。すなわち、企業の資産状態や財務状況が不明の状態であっても経営できることとなる。  
 また、「高齢者住まい法」に基づく「高齢者専用賃貸住宅」は、あくまでも、追い出しの出来ない賃貸住宅であり、事業開始届けを提出すれば、介護保険の「特定施設入居者生活介護」の事業所として介護保険のサービスを提供できる事業所となるに過ぎない。このため、入居者から見れば、家賃、管理費、介護保険の自己負担分を負担することになり、結果として特別養護老人ホームに入居できた者より経済的負担が大きいにもかかわらず、場合によっては不安定な立場に置かれることとなる。今後、「高齢者専用賃貸住宅」が、「特別養護老人ホーム」の受け皿になることを考えると、老人福祉上の視点からは何らかの対策が必要と思われる。良質なストック確保だけではなく、参入業者の倒産等から高齢者を保護する必要もあるからである。  
 設置企業が倒産等すれば、入居者の居住権は不安定となり、介護保険サービス自体の提供も見込めなくなるからである。  

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