自由研究発表高齢者保健福祉2  三宅文枝

要介護認定基準の変更と影響の検証
 -2009年10月版と2006年版の比較-

○ 県立広島大学大学院  三宅文枝 (会員番号7694)
                  住居広士 (会員番号2099)
                  山岡喜美子 (会員番号2962)
福山市立女子短期大学  國定美香 (会員番号4402)
広島文教女子大学  小川真史 (会員番号6557)
日本ケアワーク研究会  石田博嗣 (会員番号7330)
キーワード: 《要介護認定》 《2009年10月新版》 《2006年版》 《要介護度》 《介護時間》

1.研 究 目 的  

新版要介護認定基準が2009年4月に変更されるも,認定基準等が厳正化され過ぎたため,その一部修正だけでなく,旧認定2006年版の旧要介護度も選択できる経過措置がとられた。2009年10月からは,さらなる要介護認定の認定調査基準の一部が見直しされたが,認定ソフトや調査項目内容の変更は皆無であった。
 本研究では2009年10月から変更された認定基準を2009年10月版,2006年度から2008年度まで使用された旧版要介護認定基準を2006年版と称して,それぞれの認定調査結果に基づいた要介護認定ソフト1次判定から,要介護認定基準の変更と影響について比較検証した。

2.研究の視点および方法

老人福祉施設入所者400人と通所介護サービス利用者208人を合計した608人を調査対象者とした(老施協総研, 2010年5月)。同一の利用者に対して同一調査期間内に2009年10月新版と2006年版の認定調査基準を個別に調査担当した認定調査に基づき,介護認定一次判定エミュレーションソフト(認定くん2009[V.6.07]と2006[V.5.01])で一次判定した。その認定調査の調査期間は2009年10月から2010年1月までに,介護老人福祉施設の生活相談員と介護支援専門員等が各認定基準版で個別の担当者が認定調査した。

3.倫理的配慮
  研究倫理を協議の上で説明と同意から調査研究を実施しながら,ID番号と数値で分析,個人情報を守秘,利用者の人権を尊重して,研究倫理性を確保した。
4.研 究 結 果

調査結果は608人を対象として2006年版と2009年10月版の要介護認定基準を比較検証すると,要介護度分布では中重度者の分布率には大きな変化は認められないが,その中で要介護度人数分布の増減の格差を伴っており,要介護度別の一致率は要介護5が64.23%で一番高く,それ以外は50%以下であった。
  要介護認定基準の調査から割り出した平均合計介護時間の比較では2006年版では79.36分±31.67,2009年10月版では82.73分±34.44であり2009年10月版の平均合計介護時間が3.37分高くなっていた。同じく要介護認定基準の調査から割り出した2006年版と2009年10月版との介護行為区分ごとの平均介護時間の比較を行った。介護行為区分ごとの平均介護時間は,共通する8区分のうちの,「食事」は5.14分([06’]9.63分,[09’]14.77分),「機能訓練」は1.49分(4.10分,5.59分),「BPSD」(2006年版では「問題行動」)は6.06分(1.57分,7.63分),3区分ほど2009年10月版の方が高かった。逆に,他の5区分では,「排泄」は0.55分(15.43分,14.88分),「移動」は1.21分(12.82分,11.61分),「清潔」は2.93分(15.67分,12.74分),「間接」は4.06分(9.67分,5.61分),「医療」は1.53分(10.48分,8.95分)ほど2006年版の平均介護時間が高かった。平均介護時間が高い区分の数は2006年版の方が2区分多いが,総体では2009年10月版の合計介護時間の平均は3.37分ほど高かった。
  そして,2006年版と2009年10月版との,合計介護時間別の人数分布を比較した(図1・2)。2006年版は比較して介護時間の標準偏差のばらつきは小さい。2009年10月版では,そのばらつきが大きく,高い合計介護時間にも人数分布が見受けられた。合計介護時間の最大値では,2006年版が144.00分,2009年10月版が167.40分であり,2009年10月版の方が23.40分高くなっていた。2009年10月新版は,2006年版よりも全体的な合計介護時間が多めに算出され,介護時間のばらつきが大きくなっていることが分かる。2006年版と2009年10月版の介護時間別の人数分布は共に非正規分布で,分散性には有意差はなく,順位検定では有意差を認めた。
  全調査対象者のうち要介護5に関して,2006年版と2009年版との合計介護時間別の人数分布を比較した。その結果,平均は2006年版が119.60分であり,2009年10月版が127.85分で,2009年版10月版の方が8.25分多くなっている。また,平均からのばらつきを示す標準偏差は,2006年版が7.47であり,2009年10月版が13.66で,2009年10月版の方が6.19大きくなっている。これより,2009年10月版は,2006年版よりも全体的に介護時間が多めに算出され,介護時間のばらつきが大きくなっている要介護認定基準であることが検証された。  


【参考・引用文献】
公益社団法人老施協総研「平成21年度要介護認定調査概要報告」2009年8月,2010年5月。
住居広士「介護保険制度と要介護認定者数の推移」総合リハ,第38巻第5号,p495-96, 2010年5月。  

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