自由研究発表高齢者保健福祉2  河原 智江

生活時間アセスメントツールの開発と適用に関する検討

○ 横浜市立大学  河原 智江 (会員番号7266)
東洋大学  小林 良二 (会員番号345)
キーワード: 《生活時間》 《アセスメントツール》 《適用》

1.研 究 目 的

1)生活時間アセスメントツールの考え方
 共同報告者の小林は高齢者介護の全体的な把握のために、1998年より「生活時間」という概念を用いた高齢者ケアアセスメントとモニタリング方式の開発を行っている。  
 小林らが開発した「生活時間様式による高齢者ケアアセスメント(以下、「生活時間様式」とする。)」では、要介護者が1日24時間をどのように過ごしているかを、縦軸方向に時間軸を設定し、要介護者の行為・行動が何時何分から何時何分までかかったかを一つひとつ記して「生活時間表」を作成する。時間という限られた資源がどのように配分されているかを検討し、その人の生活を明らかにするのがねらいである。また同様に介護者の一日の行為・行動を記していくことで、要介護者と介護者の生活を関連させて、家族介護の全体像を把握することが可能になる。介護時間は、介護者と要介護者を拘束するものとして、それぞれの生活時間に組み込まれることになる。この「拘束」の度合いを把握することで、①要介護者と介護者の関係、②要介護者の状態、③介護者が介護をどの程度重要と捉えているか―を客観的に明らかにすることができる。これを1週間続けて記した「週間生活時間表」を作成することにより1週間の生活がいくつかのパターンに分けられ、それぞれのパターンの特徴をつかむことができる。また、行為・行動を①必要行動(睡眠、食事など)、②義務行動(仕事、家事、介護など)、③自由行動、④サービス利用、⑤その他―の5つに大きく分け、それぞれの行為・行動を色分けすることで、生活時間のバランスを一目で把握できるようにした。この「生活時間表」に加えて、要介護者本人および介護者に関する「基礎情報」と、「介護者(及び要介護者)の意見」を合わせ、総合的に評価するのが「生活時間様式」である。
2)生活時間アセスメントツール開発の経緯
 2000~2004年度には要介護者とその家族を対象に調査を実施した(2000~2002年:生活クラブ生協の福祉研究グループが都内全域で調査を実施、2002~2004年:ニッセイ財団の研究助成を受け、生活時間様式研究会(代表:小林良二)が都内と北陸エリアで調査を実施)。これらの研究成果を発展させ、2004年からは、リハビリテーション病院における退院計画、2008~2009年には自治体における介護予防領域においても展開している。合わせて、2004年からは、生活時間様式の作成を効率化する観点から、生活時間アセスメントの必要な対象者にヒアリングしながらでもパソコン上で簡便に入力できる「生活時間入力管理システム」を(株)富士データシステムと協同して開発した。
 本報告では、2008~2009年に取り組んだ介護予防領域における結果とこれまでの研究成果を踏まえ、「生活時間様式」の利用方法を提案するとともに、今後の新しい適用の可能性を探ることを目的とした。  

2.研究の視点および方法

 研究の視点として、1.で示した生活時間様式の考え方と本様式の最大の特徴のひとつである現場で有効に利用できるかどうかという点を重視した上で、新たな利用の展開を考える。方法は、①自治体(2自治体)の介護予防担当者に、生活時間様式を介護予防対象者(独居の特定高齢者10例)に適用したときの有用性についてインタビューを実施した(研究期間:2008年9月~2009年10月)。②①の結果とこれまでの研究成果を合わせて、生活時間様式の利用方法の標準化のための検討を行った(研究期間2010年3月~現在)。 

3.倫理的配慮

 対象者に対するインタビューは十分な説明を行い、文書にて同意を取得後に実施した。また、対象自治体の個人情報保護等の規定を踏まえ、研究の実施及び公表等について事前に文書により了承を得た。なお、横浜市立大学医学研究倫理委員会の承認を得て実施した。 

4.研 究 結 果

1)介護予防領域への適用の有用性  
 インタビューの結果、有用なこととして次の6点が挙げられた。①生活時間という枠組により、独居の特定高齢者(以下、対象者という。)の生活実態が明らかになり、どこに課題があるのかが明確になる、②可視化されているため、対象者自身に、自分の生活実態を把握してもらいやすくなる、③支援者側も、対象者の生活の全体像を把握することができる、④「生活時間入力管理システム」を用いることにより、対象者の生活時間は時間的な負担がなくまとめることができる、⑤「生活時間入力管理システム」を用いることにより、シミュレーションが容易であるため、対象者と相談しながら、サービス導入を検討することができる、⑥対象者の介護予防プログラムの評価を行う場合に、関係者が共通の枠組をもとに評価可能となり、支援の方向性をシミュレーションしながら検討することができるなどが挙げられた。これまでの研究成果と比較しても、同様の有用性が挙げられたが、新たな点は、世帯状況の違い(独居・同居)はあっても有用であること、システム利用により評価がより客観的に、かつ、効果的・効率的に実施できることが示唆された。
2)生活時間様式の利用方法  
 生活時間様式は、対象の「生活」の全体像を把握することが目的となる。対象は、要介護者、退院計画対象者、介護予防対象者であり、特に複雑な課題やサービス調整が必要な場合に利用する。世帯状況は、独居あるいは、サービス利用対象者・家族介護者(ユニットとして把握)である。利用にあたっては、「生活時間」の枠組と設定している時間を理解した上で、対象の実際の生活時間をアセスメントする。その際、個々の生活時間が細かくなり過ぎないようにすることで、あらかじめルールを決めておくことである。生活時間様式は、対象と支援者、支援関係者同士のコミュニケーションツールであるため、アセスメント、実施、評価のプロセスについて、相互に対話をし、確認をしていくことが必要となる。このことが、生活時間様式の利用の標準化には重要な要素であった。今後は生活時間アセスメント結果の評価指標の明確化とさらなる対象拡大(児童領域など)が課題である。  

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