自由研究発表高齢者保健福祉2  保科 寧子

対話・交流を行うボランティアに対する施設内高齢者のニーズと高齢者にみられる特徴の関連
 

○ 埼玉県立大学  保科 寧子 (会員番号6359)
キーワード: 《高齢者》 《ボランティア》 《交流》

1.研 究 目 的

本研究においては対話・交流を行うボランティアを,「自宅や施設等高齢者の生活の場へ出向き,主体的に高齢者と少人数で対話・交流を行う無償のボランティアの総称」と操作的に定義し,論を進める.
 本研究では高齢者の中でも,今までの社会環境から切り離され孤立感を感じやすいと考えられる施設に入所中の高齢者に注目し,その対話・交流を行うボランティアに対するニーズを検討した.現在高齢者施設ケアの現場では,対話・交流を行うボランティアの導入が行われつつあるものの,どのような状況の高齢者にそのニーズがあるかについては明らかとなっていない.そこで施設内高齢者のこのボランティアに対するニーズを見分ける要因を検討することを目的とした.具体的には高齢者の生活上に見られる特徴の有無によるニーズの差を明らかにすることで,このボランティアを導入する際の指標の一助としたい.  

2.研究の視点および方法

調査は,関東地方の特別養護老人ホーム5施設,有料老人ホーム(住宅型:ただし要介護認定者のみ入居可)1施設,高齢者専門病院2施設で実施した.調査対象者はこれらの施設に入所または入院中の65歳以上の高齢者である.事前に調査施設の管理者や職員に調査目的と内容を提示し,職員より高齢者の健康状態を考慮した上で調査に協力可能であると判断した方を紹介していただき,本人の承諾を得て調査を行った.調査協力を得られたのは56人であり,うち男性が9人,女性が47人であった.調査対象者の基本属性は,年齢84.36±7.53歳(mean±SD),Barthel Index得点53.75±25.89(mean±SD),柄澤式認知症スケール評価2.95±1.07(mean±SD)であった.  
  調査は高齢者本人を対象として構造化した質問項目による個別面接を行った.あわせて調査対象者のケアを担当する職員から対象者の身体状況や精神状態,要介護度,生活上の特徴などの情報を収集した.調査期間は2008年9月9日~2009年5月31日であった.
  調査内容については,まず対話・交流を行うボランティアを利用したいと思うかについて「1.そう思う」「2.ややそう思う」「3.どちらともいえない」「4.ややそう思わない」「5.そう思わない」の5件法にて回答を得た.次に先行研究の対話・交流を行うボランティアを利用していた在宅高齢者の性質や特徴を事例データ(保科,奥野:2008)から抜粋し,37項目(何に対しても不安が強い,少し話をしていってほしいと誘うなど)を作成した.この各項目については「1.ある」「0.なし」の2件法で回答を得た.この各項目の特徴の有無によるボランティアの利用意向の差をMann-WhitneyのU 検定にて検定した.

3.倫理的配慮

本調査は埼玉県立大学の倫理審査を経た上で,調査対象者及びその家族,調査施設職員に調査目的と内容を説明し了承を得て実施した.

4.研 究 結 果

高齢者に見られる特徴37項目のうち有意差のみられた項目は「用事をつくっては職員を呼ぶ」の1項目であった.この検定の結果を表1に示す.  

特徴の有無によるボランティア利用意向の差Mann-WhitneyのU検定 
※得点が低いほどボランティア利用意向が高いことを示す.

5.考 察

対話・交流を行うボランティアを利用していた高齢者の事例から抽出した37項目の高齢者の特徴のうち「用事をつくっては職員を呼ぶ」という項目において,特徴を持った高齢者群と持たない高齢者群の間に有意な差が生じていた.ゆえにこの特徴のみられる高齢者は対話・交流を行うボランティア利用意向が高いと考えられる.ボランティア導入にあたって,高齢者の意思をはっきりと確認できない場合などにこの特徴の有無を目安として活用できる可能性がある.ただし本研究は調査対象数が少ないため,結果の即時の一般化は困難である.今後,調査数を増加し研究の一般化をめざす必要があると考える.

6.参 考 文 献

保科寧子,奥野英子(2008)在宅高齢者を対象として対話・交流を行うボランティアの機能分析―話し相手ボランティアの事例分析から―.社会福祉学,49(2),111-122. 
※本研究は2009年度埼玉県立大学奨励研究(C研究)の助成を受け実施した.

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