自由研究発表高齢者保健福祉2  三谷 勇一

在宅健康高齢者の対人貢献における役割期待感に関連する探索的検討
 -生活満足感およびポジティブな思考を基底とするパスモデル-

○ 大阪市立大学大学院  三谷 勇一 (会員番号6277)
大阪市立大学大学院  岡田 進一 (会員番号1746)
キーワード: 《対人貢献における役割期待感》 《生活満足感》 《ポジティブな思考》

1.研 究 目 的

 高齢者が役割を期待されていると認識することは、社会学的にも、心理学的にも、高齢者の健康にとって良好なことが明らかとされている。しかし、役割期待感を持つことが容易でない者に持つように勧めることは容易ではない。しかし、そのプロセスを解明することができれば支援するための方法を明らかにすることができると考えられる。そこで、本研究の目的は、在宅健康高齢者の「対人貢献における役割期待感」に関連する要因を明らかにするために、日常生活における充実感に関する3因子の関連性とポジティブな要素との関連について検討を行うことである。 

2.研究の視点および方法

 層化ランダムサンプリングを用いて大都市に在住する65歳以上の在宅高齢者1,010名の抽出し、自記式質問紙を用いた郵送による横断的調査を行った。質問紙の回収率は48.7%であった。分析に有効である回答率は、37.2%(376通)であった。日常生活における充実感の下位概念とは、「現在の生活における満足感」因子(以下、満足感)、「行動における自己効力感」因子(以下、効力感)、「対人貢献における役割期待感」因子(以下、役割期待感)の3つから成り立つ。ポジティブな要素として、ポジティブな思考(以下、心がけ)と、ポジティブな行動(会話をよくする傾向、以下、会話)から成り立つ。その他の独立変数として、性別、主観的な経済感(以下、経済感)をパスの始点として設定した。
 先行研究から、日常生活充実感の第一要因を鑑みると「満足感」の第一要因は「経済感」、「効力感」の第一要因は「会話」、「役割期待感」の第一要因は「会話」であった。また、「心がけ」の第一要因は「性別」で、「会話」の第一要因は「経済感」であった。 分析方法は、日常生活における充実感に関する3因子と、ポジティブな要素との関連をみるために、「役割期待感」を終点とする多重指標モデルを作成した。統計解析には、SPSS14.02J, AMOS6.0を使用した。  

3.倫理的配慮

 アンケート調査の際には、倫理的配慮として、プライバシーの保護や調査趣旨などの説明文を付け加え、アンケートに協力できないとしても不利益を被らない旨を記した。 

4.研 究 結 果

 本研究におけるモデルの構造では4つのプロセスを持つ。1つ目は、「経済感」を始点とし、「満足感」、「効力感」、「会話」、「役割期待感」と続く充実感プロセスである。2つ目は、「経済感」を始点とし、「満足感」、「効力感」、「心がけ」、「会話」、「役割期待感」と続くポジティブ要素媒介プロセスである。3つ目は、「経済感」を始点として、「会話」、「役割期待感」と続く、シンプル最短プロセスである。4つ目は、「性別」を始点として、「心がけ」、「会話」、「役割期待感」と続く女性特性プロセスである。本モデルは4プロセスから成り立つことが統計的に確認された(χ2(129)=335.82, p<.001, GFI=0.904, AGFI=0.873, CFI=0.931, RMSEA=0.069)。また、その際の推定値は、「経済感」から「満足感」のパスは0.51、「経済感」から「会話」のパスは、0.21、「性別」から「心がけ」のパスは、0.27、「満足感」から「効力感」のパスは0.60、「効力感」から「会話」のパスは0.47、「効力感」から「心がけ」のパスは0.63、「心がけ」から「会話」のパスは0.46、「会話」から「役割期待感」のパスは0.77、とそれぞれ0.1%水準で有意であった。
 χ二乗値は、0.1%水準で棄却されたが、サンプル数が多いことから、モデルの適合度は良好であると判断できる。  
 経済的な安定感を前提条件として、生活満足感や自己効力感を持つ場合、ポジティブな行動を取りうることが多くなることは、充実感プロセスで説明することが可能である。このプロセスでは、良好な環境条件やポジティブな精神・心理状態であることが条件となるため、安定したプロセスではあるが、このプロセスをたどることができない場合もありうる。このプロセスにより役割期待感を得る者は、比較的安定した社会生活者であると考えられる。  
 「行動」に移る前段階で「心がけ」を尊重しているモデルは、第2のプロセスである。このプロセスでは、ポジティブ心理に注目したということが特徴である。経済的な安定感を前提条件として、生活に満足し、行動に自信を持ち、ポジティブに心がけることで、ポジティブに行動することができれば役割期待感を持ちやすいとするプロセスである。  
 3つ目のシンプル最短プロセスは、経済的安定感とポジティブな行動をとることができれば、役割期待感を持ちやすいというもっともシンプルなプロセスである。精神・心理的な豊かさを確保することが難しい場合、積極的で、前向きな行動をとる意欲や主体性があれば、役割期待感を得ることができというプロセスである。推定値から考えても容易なプロセスではないが、高齢者のシンプルな介入を考えていく場合には有効であるかもしれない。  
 性別を始点とする別プロセスとしては、女性特性プロセスが存在する。女性の特性である「関係」重視型で会話に重点を置くこのモデルは、女性の特性を取り入れたプロセスである。女性特性プロセスであるため、男性に応用することが難しい場合があるが、このモデルから、独居男性が孤立しないための「声かけ」や男性のためにネットワーク構築の必要性を伺うことができる。  
 このように、高齢者の多様性から様々なプロセスが存在し、役割期待感を持つための社会福祉支援には、さまざまな工夫をすることが必要であることが本研究から理解できる。本研究から、「個別化の原則」が再確認されただけでなく、高齢者の役割期待感を高め、良好なQOLを保持していくためには、これまでのような紋切り型的な社会プログラムではなく、個人特性に応じた役割期待プロセスで対応していくようなプログラムが求められる。  

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