自由研究発表高齢者保健福祉1  佐々木 直樹

高齢者福祉業務における理想的な情報システムに関する考察
 -地域包括センター業務の情報化を事例として-

○ 岡山商科大学  佐々木 直樹 (会員番号7607)
キーワード: 《高齢者福祉》 《地域包括支援センター》 《情報化》

1.研 究 目 的

 福祉現場での労働負担、福祉業務の効率化による利益率の向上および賃金の改善、そして高齢者に対する福祉の質の向上などが、高齢者福祉の問題点として挙げられる。これらの問題は地域ごとに対応が求められるため、2006年より設置が始まった地域包括支援センターの役割は重要である。地域包括支援センターの役割として求められるのは福祉情報の蓄積であり、提供である。情報の蓄積のためには、情報システムの導入、つまりコンピューターの導入が有効である。しかし、コンピューターの導入は、それを使用する従事者にとっては新たな負担となるのではないかとの懸念もある。またどのような情報システムを導入すべきであるかについても、今後の課題とされている。
 本発表では、すでに情報システムが導入された地域包括支援センターを事例としてとりあげ、理想的な福祉情報システムを分析・評価するものである。情報システムである以上、情報科学の面からの分析が必要と考え、HCI(Human Computer Interaction)の研究領域で数多く使われているモデルを用いる。
 情報システムの操作性を評価するだけでは、福祉業務システムの評価として公平であるとはいえない。システム自体が業務に合致していないという問題点も、数多く指摘されているからである。業務としての情報システムを評価するための指標として、地域包括支援センターの業務マニュアルの検討と、従事者へのアンケート調査が妥当と考えるものである。情報システム上のある一連の処理が効率的であるかどうかを評価するためには、情報科学と福祉業務の両面での評価が必要であるといえる。  

2.研究の視点および方法

 A県B市の地域包括支援センターを事例とする。従事者一人一人にコンピューターが導入されている事例である。そして、情報化された福祉業務システムが理想的なものであるかどうかを以下の観点から検討する。第一にフィッツの法則に基づいたユーザーインターフェースであるかどうかである。またそのUIが使用者にとって使いやすいものかどうかのアンケートも取っている。第二に業務マニュアルと情報システムとの整合性を、書類に流れに着目して検討する。情報システムにおいては、報告書や計画書などが出力にあたり、そのために必要な情報が入力にあたる。 

3.倫理的配慮

 個人、業者、地域名などの固有名詞についてはすべてイニシャルとするが、推定可能なイニシャルは使用しない。ヒアリング調査およびアンケート調査についても、基本的人権を尊重し最大限に配慮したうえで個人を特定できないように論じ、そこから得られたデータは調査目的以外には使用しない。 

4.研 究 結 果

 コンピューターを使用する上で操作の煩わしさは、業務上のストレスと考えられる。アンケート結果と、操作手順の関連性により、画面上のオブジェクトに対してフィッツの法則(MT=a+b log 2(1+D/W))に基づく分析が適用可能であることが分かった。したがって業務上のストレスは個人的資質に基づくものというよりも、情報システム側に起因する問題ということがいえる。文字だけが書かれたメニューボタンの羅列や、画面からはみ出してしまうほどの数十項目にわたるチェック項目が原因である。加えてシステム管理者以外は、コンピューターのカスタマイズが極めて限定的にしか認められていない。しかし、限定的な範囲であっても従事者がカスタマイズを行う事で、現行システムにおいても一定の効率化をはかることが可能である。
 フィッツの法則は情報システムの分析においては普遍的な予測モデルである。福祉情報システムの設計・評価においても、情報側からの視点が今後より重要になるといえる。
 なお業務に必要とされる書類が、情報システムを経由して作成されているかどうか、つまり出力の状況に関しては一定の成果が見られた。ただし、その出力を行うために必要なデータの入力が一部紙ベースであるなどして、情報システムを経由していないことも分かった。したがって、入力の改善がより重要であるといえよう。また、出力においても操作手順が少ないとは言い難い。集計を行うためには、いったん入力画面から別のソフトウェアに切り替え、再度集計を入力し直した上で出力されているからである。入力画面から出力までがシームレスに行われることが必要といえる。
 情報システムにおける操作のわずらわしさの軽減とは、作業時間の短縮であり、業務の効率化につながる。余った時間を高齢者との対話にあてることで、高齢者福祉の質向上にも繋がると考えられる。
 今後の課題として情報システム側だけではなく、福祉業務側においても情報システムに対応できるよう改善する必要があるといえる。情報システムの使用を想定した業務マニュアルの改編等が望ましい。
 また、高齢者福祉業務に特徴的な問題点もある。従事者の頻繁な入れ替わりと情報システムに習熟した人員が少ない点である。これらの問題に対応するためにも、情報システムには操作のより一層の標準化・平準化が求められる。  

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