「地域生活の質」に基づく高齢者への地域ケアの優先的課題
-デルファイ法調査による評価結果から-
○ 愛知淑徳大学 石黒 文子 (会員番号7107)
日本福祉大学 冷水 豊 (会員番号395)
日本福祉大学 斉藤 雅茂 (会員番号5854)
日本福祉大学 平野 隆之 (会員番号814)
キーワード: 《地域生活の質》 《フォーマルケア・インフォーマルケア》 《デルファイ法調査》
介護保険制度は、2000年に施行され10年が経過した。2012年には2度目の大改正が予定されており、まさに新たな転換期を迎えているが、現在、高齢者が高齢者を介護するという老老介護、認知症高齢者の増加、介護を担う人材の流出など、多くの課題が顕在化している。このような問題を受け、社会保障審議会介護保険部会は、地域包括ケアの実現を目指すことを提言した。ここで掲げられた課題は、フォーマルケア(介護保険や市町村のサービスなど;以下FC)とインフォーマルケア(ボランティアや民生委員の活動など;以下IC)が、ともに地域の介護ニーズに対してその適切な機能分担と組み合わせにより多面的にいかに対応していくことができるのかということでもある。
そこで、本研究は、「地域生活の質」の視点から、愛知県A市における高齢者等への地域ケアの現状と今後の課題を明らかにすることを目的とした。本研究が示す「地域生活の質」は、「要介護・虚弱高齢者が地域で介護や支援を受けながら生活していくうえで重要となる質的内容で、地域レベルで確保されるべきもの」と定義した。本研究の最終的な着地点は、特定の地域の実状に即して、高齢者がその地域に相応しい生活の質を保持できるための地域ケアのモデルを描くことである。したがって、地域独自の生活の質およびFCとICの機能分担を重視しているため、地域比較することが主な目的ではないが、2005~2006年に実施した長野県B市での調査結果と関連させながら、A市での地域ケアの課題について検討したい。
上述のとおり、地域生活の質の視点から、高齢者へのFCとICの適切な機能分担と組み合わせを検討するために、29の項目について、同市での高齢者ケアの現状での達成度と今後の優先度を、FCに従事している施設サービスおよび在宅サービスの従事者およびICに携わっているボランティア、民生委員、独居高齢者見守り推進員などに5段階で評価してもらった。評価項目は、長野県B市で用いた22項目の共通項目と、今回のA市に独自の7項目である。後者については、同市の地域特性や社会福祉の特徴を反映させるため、市および社協と検討し、地域福祉活動と公的な福祉サービスの関連に関わる項目などを取り入れた。
研究方法は、特定の課題について、専門的知識や実践的経験のある人の意見の集約を行うためのデルファイ法調査である。1回目調査の回答結果を示し、その傾向を参考にしてあらためて同じ項目について回答してもらう2回の郵送調査によって行った。1回目調査では、FC関係者185名(回収率70.9%)、IC関係者150名(回収率50.2%)、2回目調査では、FC関係者131名(回収率76.6%)、IC関係者116名(回収率89.2%)の有効回答が得られた。調査時期は、2010年4月から5月である。なお、本研究は、デルファイ法調査以外にフォーカスグループ面接などの複数の研究方法を用いてFCとICの関係のあり方を検討しており、本調査はその一部である。
配票は、施設の責任者やボランティア団体の代表、行政関係者等の協力により行ったが、回収は、個別に同封した返信用封筒で投函してもらう方法により倫理的配慮を行った。また、調査の目的・方法・発表等については、文面にて説明し同意を得ている。
4.研 究 結 果今回は、今後の優先度を中心に報告する。FC関係者とIC関係者の回答は、一致している項目が非常に多く、「必要性が高い」と「必要性がやや高い」に回答した割合が高いものから順位付けをしたところ、上位8位までは順位は前後するものの同じ項目が並んだ。上位5項目に着目すると、上位3項目(B4・D5・C4)は長野県B市でも上位にあげられており、「地域生活の質」の視点から地域によらず高い優先課題であることが示めされた。一方、A市独自の項目のD6、B6が上位にあげられ、社会保障審議会介護保険部会が指摘している見守り等多様な生活支援が優先的な課題として評価された。
これらの結果から、優先的に取り組む課題は、FC関係者、IC関係者の違いに関係なく一致した課題であり、①認知症の専門的介護や孤立防止などは、全国的に共通して重要な課題であること、②A市においては、独自項目の見守り、サービスや支援から取り残されない仕組みなどの活動の必要性が高いことが示唆された。
本研究は、日本福祉大学公募型研究プロジェクト(研究代表者;冷水豊)として実施された研究成果の一部である。