自由研究発表高齢者保健福祉1  松井 順子

地域類型でみた大阪府各自治体の配食サービス事業
 -事業の現状と課題、方向性-

○ 兵庫県高齢者生活協同組合  松井 順子 (会員番号6702)
キーワード: 《配食サービス》 《地域類型》 《地方分権》

1.研 究 目 的

 食事作りに支障のある高齢者へ届けられる配食サービスは、政策上の位置づけが繰り返し変更されている。最初の国庫補助化は、1992年在宅高齢者等日常生活支援事業が創設された際、同事業の選択メニューに加えられた時で、単独の国庫補助化は1994年、新ゴールドプランで市町村が実施する在宅サービスの新メニューに加えられた時であった。
  2000年の介護保険制度施行時、介護予防策は高齢者福祉サービスの一部を組み込み「介護予防・生活支援事業」を創設し推進が図られ、配食サービスも同事業に加えられた。つまり、生活を支援することで介護を予防する事業のひとつという位置づけになった。2002年には、先の事業が「介護予防・地域支え合い事業」に改定改称され、効果的な介護予防には地域社会が果たす共助の役割が重視されるに至った。この改定に伴い、それまで単独事業であった配食サービスは、同事業に創設された「食の自立支援事業」で提供するサービスのひとつに組み込まれた。さらに、平成18年度には配食サービスを含む食の自立支援事業は国庫補助から外れ、明確な位置づけがなくなった。実態は、同年改正の介護保険制度に創設された地域支援事業の任意事業に配食サービスを移行させた自治体が多くを占めるが、高齢者一般施策で実施する自治体もあれば、事業を中止する自治体もあるなど、これまで以上に事業の在り方は自治体毎に異なっている。
 ではなぜ、配食サービスの位置づけや在り方は自治体毎に異なるのか。予測される理由のひとつは、必要性の高い地域では介護保険制度の地域支援事業の任意事業や一般財源で実施することの理解も得やすいが、もともと投入する費用に対する効果の測定が困難な中、ニーズが少ない地域や代替するサービスが多い地域であれば、給付は保険原理になじまず、また、一般財源での実施はニーズに応じて事業の優先順位も変わる。つまり、配食サービスは地域の実情に応じて事業の位置づけや内容が決まる傾向が強いようである。となると、地域特性に応じて共通する事業の特徴があるのではないか。仮に、地域的な特徴があるのならば、事業は地方分権・自治型福祉の方向にあるとみなせるかもしれない。
 そこで本稿では、大阪府の各自治体を対象に配食サービス事業の実態を調査し、地域特性に注意を払いながら、各自治体の事業の類型化を試みる。次に、類型毎に事業内容の詳細を整理し、現状と課題、今後の支援と事業の在り方を検討する資料作りを目指す。  

2.研究の視点および方法

 調査方法は、各自治体の担当者への電話調査である。分析方法は、調査で得たオリジナルデータと既存の統計データを併用して、主成分分析で配食サービス事業を構成する成分を求める。次に、求めた合成成分のうち、配食サービス事業に直接影響する主成分に限定し、各自治体の主成分得点をクラスター分析することで自治体を類型化したが、その際、切断点は類型の差異と地域特性が明確になる点を基準にした。その後、各類型と事業内容をクロス集計し、各類型の事業の特徴と課題を明確にすることに努めた。 

3.倫理的配慮

 調査の際、各自治体へ以下の説明を行い承諾を得てから、質疑応答へ移った。研究目的は、高齢者の自立支援の推進と、配食サービス事業の実情と課題・方向性を明らかにすることであり、自治体間の比較や優劣を問うものではない。よって、回答を求めるデータは公表済みのもの、あるいは、情報公開の観点から公表しても支障がなく、分析に用いても問題のない項目に限り回問して頂きたい旨を説明し、その理解の下、得られたデータで研究目的に沿い研究を行った。

4.研 究 結 果

 調査の結果、大阪府下44自治体のうち、3つの自治体が事業を終了していた。有効回答が得られた自治体は37で、そのうち、3つの自治体で作る広域連合を1とするので、分析する自治体数は35である。主成分分析に用いた変数は15で、分析の結果、配食サービス事業の構造は「規模」「世帯状況」「事業指標」「代替サービス」の4主成分に集約された。そのうち、事業に直接影響する3主成分「規模」「高齢者の世帯状況」「事業指標」の各自治体の主成分得点をクラスター分析したところ、「大規模需要型」「居宅介護サービス利用型」「自立支援型」「需要不足型」「共同体型」の5類型に分かれた。その後、5類型を基準に事業内容をクロス集計した結果の要約は以下のとおりである。
 事業の位置づけは、大規模需要型は地域支援事業であるが、それ以外の類型は地域支援事業と高齢者一般施策に分かれた。利用者の自己負担額は、共同体型が低く、大規模需要型が高い。補助額は、需要不足型が低く、居宅介護サービス利用型が高い。1食あたりの総額は、共同体型が低く、大規模需要型が高い。配達回数が多いのは自立支援型で、少ないのは共同体型である。委託先の特徴は、大規模需要型は非営利組織に限定していること、自立支援型は民間営利組織が多く、任意団体へも委託していること、需要不足型は営利組織と社会福祉協議会への委託が多いこと、共同体型は社会福祉協議会のみである。サービスの認知経路は、いずれの類型も地域包括支援センターとケアマネジャーが多いが、共同体型は民生委員が主で、自立支援型にはCSWや福祉推進委員・街角ディを通じてという回答がある。事業目的は、安否確認は全ての自治体が掲げ、食事の確保も大半の自治体が掲げているが、共同体型は掲げていない。なお、大規模需要型は目的を明確に設けつつ、業者の独自性を認めていた。食事内容は、居宅サービス利用型では治療食の対応を、自立支援型では利用者の身体状況に応じて配膳下膳を行う自治体もある。  以上のように、事業内容は類型毎の特徴があり、課題も異なる。大規模需要型は1食の総額が高い。自立支援型はなぜ、自立支援に至ったのか。需要不足型は、計画と実態に乖離があるのではないか。共同体型は他の類型と事業目的が異なる。本稿はそれらの実態と課題、並びに、配食サービス事業は今後、どのような方向へ進むのか等を考察している。  

5.文 献

東内京一(2006)『これからの介護予防・地域ケア』サンライフ企画
高齢者生活支援研究会編(2004)『これからの配食サービス』かもがわ出版  

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