自由研究発表高齢者保健福祉1  川島 典子

地域システムへの介入が一般高齢者の介護予防サービスに及ぼす効果
 に関する研究
 

○ 筑紫女学園大学短期大学部  川島 典子 (会員番号4892)
キーワード: 《介護予防》 《ソーシャルワーク》 《ソーシャル・キャピタル》

1.研 究 目 的

介護保険制度改正後、介護予防サービスをめぐる状況は一変した。中学校区に一つの割合で設けられていた在宅介護支援センター(以下、在介支)が廃止され、地域包括支援センターが新設されたことで、それまで介護予防教室を在介支で行っていた自治体の多くが、そのステージを失いつつある。更に、地域包括支援センターに配属された社会福祉士と保健師、主任ケアマネージャーは、それぞれ総合相談業務と軽度の要介護者への介護予防マネジメントなどに忙殺され、三職種連携の下、一般高齢者の介護予防教室までは履行し難い状況にある。このような現状を鑑みる限り、今後は、ソーシャルワーカーなどの専門職と、ソーシャル・キャピタルの構成要素である地域のボランティアやNPO法人などのインフォーマルサービスが連携して、一般高齢者の介護予防サービスを行っていく必要がある。 
  しかし、ソーシャルワーカーが、一般高齢者の介護予防サービスにおいて、どのような役割を果たせば良いのか、その独自固有性は、いまだ明らかにされていない。そこで、本研究では、一般高齢者の介護予防サービスにおいて「地域システムの構築に介入すること」が、ソーシャルワーカーの重要かつ独自な役割の一つであるという仮説の下に、実際に、ソーシャルワーカーが地域システムの構築に介入し、NPO法人や地区社会福祉協議会(以下、地区社協)などの地域の社会資源の組織化に介入したケースと介入しなかったケースを比較検討することにより、その効果を検証し、一般高齢者に対する介護予防サービスにおけるソーシャルワークの独自性を抽出することを本研究の目的とする。   

2.研究の視点および方法

本研究では、地域システムの構築にソーシャルワーカーが介入している地域と介入していない地域の介護予防の効果を測定するために、ソーシャルワーカーが地域システムの構築に介入している地域(A県B市C地区、D県E市F地区)と、介入しなかった地域(A県B市G地区、D県E市H地区)の双方において、一般高齢者を対象とし、自記式アンケート方式の調査票を用いた訪問面接調査(一部地域は、郵送法による調査)を行った。  
 調査票で尋ねた主な内容は、①主観的健康感(現在のあなたの健康状態はいかがですか 1.とてもよい 2.まあよい 3.あまりよくない 4.よくない)、②転倒歴(過去1年間に転んだ経験がありますか 1.何度もある 2.1度ある 3.ない)、③認知症の傾向(1.自分の持ち物を置き忘れて困ることがしばしばありますか。 はい いいえ 2.時間や場所を取り違えることがしばしばありますか。 はい いいえ 3.つい最近のことを思い出せないことが多いですか。 はい いいえ)である。尚、調査票に関しては、AGES(愛知老年学的評価研究)が愛知県内を中心とした10自治体で調査をした際に用いた自記式アンケート調査票を、許可を得て引用した。  調査は、平成21年1月~平成21年3月にかけてと、平成22年1月~平成22年4月にかけての二度にわたり、C地区・F地区・G地区・H地区計、約130名の一般高齢者を対象にして行った。回収率は4地区合計で67.2%であった。  

3.倫理的配慮

調査対象となった4地区ともに、調査票に記入された内容は、研究以外には用いないことを調査対象者に周知し、調査票への記名は求めず、プライバシーの保護に務めた。また、研究の結果は、学会で発表し、論文にまとめる予定であることも事前に伝えて了承を得た。

4.研 究 結 果

平成21年度に行った調査の結果をまとめると、以下の表のようになる。
①主観的健康感

  C地区 G地区 F地区 H地区
とてもよい・まあよい 91.3% 65.7% 100% 100%
あまりよくない・よくない 8.7% 34.3% 0% 0%
②転倒歴(過去1年に転んだことが何度もある、と答えた回答者の割合)

C地区 G地区 F地区 H地区
4.5% 9% 0% 10%
③認知症の傾向に関する設問

C地区 G地区 F地区 H地区
自分の持ち物を忘れて困ることがしばしばある 14.2% 45.4% 28.5% 50.0%
時間や場所を取り違えることがしばしばある 4.7% 9.0% 0% 20.0%
つい最近のことを思い出せないことがある 4.7% 18.1% 0% 20.0%
上記3つの合計 23.6% 72.5% 28.5% 90.0%

年齢調整はしていないものの、以上の結果から、主観的健康感、転倒歴、認知症の傾向のいずれもが、ソーシャルワーカーが地域システムの構築に介入した地域の方が優れているという結論が得られた。平成22年度に行った調査の結果からも概ね同様の結果が得られ、少なくとも本調査の結果からは、本研究の仮説は検証された。平成22年度の調査結果の詳細、及び、経年変化などの調査結果の詳細、並びに本調査の限界と今後の課題は、当日、発表する。
  尚、本研究は、文部科学省科学研究費補助金若手(スタートアップ)課題番号20830142の助成を受けた。

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