重度知的障害者の行動範囲に関する研究
-自宅で生活する事例を基に-
○ 日本福祉大学大学院社会福祉学研究科研究生 綱川 克宜 (会員番号7580)
キーワード: 《重度知的障害者》 《行動範囲》 《短期入所》
本研究の目的は,自宅で生活する重度知的障害者の行動範囲を明らかにすることである.
2.研究の視点および方法(1)研究の視点
重度知的障害者の生活実態の中でも「知的障害者の行動範囲」については,生活の内容や
質を規定する大きな要因と成りうるにも拘わらず,今まで取り上げられることは少なかった.
そこで本研究では,自宅で生活する重度知的障害者の行動範囲を明らかにするために本研究
に取り組んだ.
(2)研究方法
①調査対象者の紹介
本調査はAサークルのメンバー5名(B~F),その他プライベートで親交がある方1名
(G)を対象として行う.Aサークルとは,知的障害児者とともにレクリエーションを行う
学生サークルである.筆者は学部時代にこのサークルに所属していた.全員が自宅で生活
する重度知的障害者である.Fのみ身体障害者手帳1級も所持している.
②調査方法
主たる介護者へ郵送調査による質問紙調査で行った.Gのみ調査期間の都合上,ヒアリング
調査で質問紙と同じ内容を聞き取った.調査期間は2009年8月~9月である.
倫理的配慮として,事例対象者およびその家族へ本調査の目的や意義を説明した. その上で調査結果は匿名性が保たれることを約束した.最終的には,文書による承諾を得た.
4.研 究 結 果(1)調査結果
①事例ごとの行動範囲の詳細
利用している障害福祉サービスや社会資源までの距離が5キロ以内(2名),10キロ以内
(1名),20キロ以内(1名),20キロ以上(2名)の4段階に分けることができた.平均距離は,
約11.9キロであった.
5キロ以内の事例(C,G):Cについては通所施設,サークルを2団体利用しているが,
2キロ以内に収まっている.Gは障害福祉サービスを全く利用していない.移動距離で一番
短いのは,喫茶店で0.5キロであった.一番遠くても大型スーパーまでの3キロだった.
5~10キロ以内の事例(D):Dは通所施設の他にAサークル,習い事2ヵ所を利用して
いた.習い事で10キロ先まで行くこともあるが,通所施設までは2.5キロほどであった.
10~20キロ以内の事例(E):Eは通所施設,Aサークルを利用していた.それらは5キロ
以内に収まっていた.ただし月に一度利用する歯科医院は7キロ,てんかん治療をしている
病院までは17キロの距離があった.
20キロ以上の事例(B,F)Bは通所施設を利用できず,短期入所やヘルパーを利用して
いた.自宅の地理的環境もあり,ヘルパー事業所まで20キロの距離があった.毎月必ず利用
する短期入所の事業所が2ヵ所あるが,それぞれ33キロ,87キロの距離にある.全事例の中で
最も移動範囲が広い事例であった.Fは通所施設2ヵ所,Aサークルを利用している.それら
は10キロ以内だった.だが短期入所(2事業所)までは20キロ,25キロとなっている.2ケ月
に1度通院している病院も20キロの距離があった.
②最短距離と最長距離
2ヶ月に1度は利用するサービス等で最短距離は0.5キロから20キロであり平均は約5.2キロ
であった. 項目としては「Aサークル」が最も多く3名(C,E,F),であった.「通所
施設」を挙げたのは1名(D)のみであった.
最長距離は2キロから87キロであり,平均24.0キロであった.最長である87キロと回答
したBを除くと,次いで遠いのはFの25キロになる.BとFともに短期入所の事業所が一番
遠かった.ちなみに10キロを超えたものは4名いた.具体的な項目は「通所施設」1名(C),
「短期入所」2名(B,F),「和太鼓サークル」1名(D),「病院」1名(E),「スーパー」
1名(G)であった.
(2)考察・結論
行動範囲は,利用する障害福祉サービスや居住地域,経済状況によって変化する傾向が
あった.特に短期入所を利用する際,障害が非常に重度であると,20キロ以上の遠方の事業所
しか利用できない現状があった.つまり,短期入所を利用していると広範囲になる可能性が
示唆された.ただしこれには居住地域が影響していることが伺えた.本調査の対象は過疎地域
が多かった.都市部であれば結果は違ったかもしれない.
本調査については,今後は量的調査で実態を明らかにすると,より具体的な支援方法を
考える一助になると思われる.