自由研究発表障害(児)者福祉9  新道 由記子

障害者自立支援法が見過ごしているもの
 -重症心身障害児・者の親に対するアンケート調査結果から-

○ 園田学園女子大学  新道 由記子 (会員番号7064)
関西学院大学  杉野 昭博 (会員番号1820)
キーワード: 《重症心身障害児・者》 《障害者自立支援法》 《脱施設化》

1.研 究 目 的

 2006年4月から障害者自立支援法が施行されている。この法律においては、障害者の 自立支援が目標とされているが、重症心身障害児・者が安心して暮らすことのできる地域 生活に向けては検討すべき課題がある。
 まず、障害者自立支援法においては、障害者の地域生活への移行が目指されているが、 これは移行先が意図されている(=脱施設化)。つまり、従来の24時間完結型の入所施設 や医療機関から、地域のグループホームやケアホームでの生活への移行である。これは24 時間完結型の入所施設よりも、地域生活の方が障害者のニーズに柔軟な対応をすることが でき、生活の質を高めるという考えに基づくものであり、国の指針では入所者の1割以上が 5年間に地域生活に移行することを目標としている。また、障害者自立支援法においては、 就労支援の強化にも重点がおかれており、福祉施設から一般就労への移行が国の指針として 具体化されている。これらのことから、日中の活動の場である一般就労や、夜間の休息の場 および居住の場であるグループホームやケアホームの新設は重点的に強化されるが、その 一方で24時間完結型の入所施設の増設は見込めなくなっているのである。
 次に、脱施設化と障害者の自立生活という観点にも着目しておきたい。日本では、1970 年代以来、当事者運動が目指した者は施設からの脱出(=脱施設)だけではなく、親からの 自立(=脱親)でもあった(横塚 2007、立岩 1999、安積 1995)。親の偏愛は、親子無理 心中につながることが注目されてことが1970年代であった(横塚 2007、岡原 1990)。続く 1980年代には、アメリカの自立生活運動の影響が追い風となって、多くの重度身体障害者の 地域での在宅自立生活が可能となり、「脱親」と「脱施設」が実現していった(杉野 2007)。 しかし、このような経過においては、取り残された人びとがいる。重度の知的障害や身体 障害をもつ重症心身障害児・者や、医療的なケアを常時必要とする重度の障害児・者である。
 重度障害者やその家族らは、1960年代以来「親亡き後の終の棲家」として、重症心身障害児 施設や身体障害者療護施設などの終身入所施設を要望し、実現させてきた。しかし、現在 ではこれらの24時間完結型の入所施設の多くが満床状態であり、加えて障害児施設において は、児童福祉法の附則措置である在園期間延長措置により満18歳以上の加齢児の割合が高く なっている。それにもかかわらず、障害者自立支援法では脱施設化政策により、これらの施設 が増設される見込みはない。そして、重症心身障害児・者の生活を支える在宅サービスは、 本調査結果でもわかるように不十分なものであり、重症心身障害児・者が親から離れて、 自立生活をすることは現実的に非常に困難である。また、今後増設が期待されているケア ホームでは、重度の障害者の介護ニーズに対応することは難しいと思われる。こうしたなか で、現在、重症心身障害児・者とともに暮らしている家族らは、今後24時間完結型の入所 施設への入所も期待できず、これに代わる受け皿がない中で、1960年代と同じような行き場 のない不安にかられている。
 そこで、このような政策的背景の中で、重症心身障害児・者の今後の暮らしを考えるために 本調査を行った。

2.研究の視点および方法

 A市の肢体不自由児者父母の会では、親亡き後の生活の場の確保に向けた検討会を 重ねており、その過程の中で重症心身障害児・者が安心して暮らすことに向けた福祉サービス に関するアンケート調査を行った。調査期間は、2010年1月20日から2月28日までであり、 調査協力者はA市の肢体不自由児者父母の会の会員で、障害をもつ子どもの年齢が就学 年齢以降である方を対象として、89世帯に調査協力を依頼した。
 アンケート項目は、対象となる障害児・者の属性(年齢、性別、障害者手帳の種類、 障害程度区分、生活の場と1日の過ごし方、医療的ケアの必要度)、障害児・者のコミュニ ケーション力、利用している福祉サービス、福祉サービス利用上の困難点、ホームヘルパー 利用状況、今後の福祉ホームに期待すること、親離れ・子離れに関する意識、親族内(親) からの支援認識など、36項目で構成し、集計した。

3.倫理的配慮

 調査協力者には、データの匿名性、プライバシーの保護、協力しないことによる不利益 がないことなどを明記した文書を配布した。また、調査への協力が可能な場合は無記名での 提出を依頼し、返送には郵便を利用し、回答があったものには同意があったとみなした。 さらに本報告では、日本社会福祉学会研究倫理方針を遵守して報告を行う。

4.研 究 結 果

 本調査に協力依頼した89世帯のうち、回収数は68件であり、回収率は76.4%であり、 アンケートの記入者は、母親が91.2%、父親が2.9%であった。対象となる障害児・者の 平均年齢は、21.09歳(標準偏差11.031)であり、最少年齢は7歳、最高年齢が45歳であった。 身体障害者手帳1級をもっていたのは87.5%であり、医療的ケアを必要と回答した割合は 61.9%であった。
 福祉サービスの利用で困っていることは、「急な福祉サービスが利用できないこと」が 49.1%でもっとも多かった。医療的なケアに対応できる小規模のホームが新たにできると すれば、そこではどのような福祉サービスを期待するかについては、「緊急時の受け入れ」 が92.1%でもっとも多く、「ショートステイ」が68.3%、「終身入所ケア」が46.0%と 続いていた。
 これらのことから、緊急時の対応と、医療的なケアへの対応が求められており、ケアを 受ける障害児・者の意思が読みとれる質の高いホームヘルパーへのニーズが高いことが 明らかとなった。したがって、今後、24時間完結型の入所施設と同等の安心感を与えられる 在宅サービスの充実が必要である。

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