自由研究発表障害(児)者福祉9  寺島 正博

グループホーム従事者によるコンピテンス評価
 -一人暮らしのニーズを持つ知的障害者への阻害要因分析から-

○ 昭和女子大学大学院 後期博士課程  寺島 正博 (会員番号6740)
キーワード: 《知的障害者》 《グループホーム》 《コンピテンス》

1.研 究 目 的

 厚生労働省が5年毎に実施する知的障害児(者)基礎調査(以下、「2000年調査」 「2005年調査」と表す.)によると、全国で一人暮らしを希望する知的障害者は、2000年 調査では16,800人の推計であったものが、2005年調査には26,900人へと増加している. これは、「将来の生活の場の希望」として、親族との同居や知的障害者グループホーム (以下、GHと省略する.)等を抑え、最も高い伸び率を示すものであった.しかし、 現実にはどうであろう.一人暮らしをしている知的障害者は、2000年調査では11,300人と 推計され、2005年調査では16,200人であることから、4,900人が希望を叶えたに過ぎず、 「生活の場」において、5年間で最も増加したのはGHであった.このことを踏まえると、 ①一人暮らしを希望していたがGHへの入居となった、②GHの利用者が一人暮らしを 希望している、③一人暮らしを希望していたが親族との同居等(福祉ホーム・通勤寮の 入居を含む、以下同じ.)になった、④親族との同居等の者が一人暮らしを希望している、 ことの四つが推測され、特に①と②については、我が国の障害者施策を示す「新障害者 プラン」において、2011年度までに80,000人分のGHを数値目標として掲げていることから 、益々膨れ上がることが予想される.また、スウェーデンにおいては、「グループホームを 出て、個人向けの近代的な自立生活型アパートに移る動きが確実に進行している」との指摘 もある.「GH」と「一人暮らし」の関係は切り離すことができない状況にある.
 これに関して、2004年に厚生労働省で行なわれた「障害者(児)の地域生活支援の在り方 に関する検討会(第16回)」では、「地域での暮らしの選択肢として、グループホームでの 生活から一人暮らしへの支援を確立する必要がある」との指摘から、GHで働く世話人や 生活支援員(以下、従事者と省略する.)には、一人暮らしのニーズを持つ利用者への援助 や、一人暮らしへ向けて援助、さらには、一人暮らしを遂げた利用者への援助と、一人暮らし に関する様々な援助能力が求められてくる.
 そこで、GHからの一人暮らしに関する援助についての先行研究をレビューしたところ、 それを明らかとする試みは殆ど見ることができず、僅かに入所施設から一人暮らしへ向けて の実践や、地域での一人暮らしを支える実践についての報告がされている.ここでは、一人 暮らしに関する援助として、「彼らのパーソナリティや能力をとらえたうえで」の環境整備の 必要性や、「障害のある人個々のエンパワーメントを主眼においた」展開が求められている. この理由に、知的障害者が一人暮らしをする際、生活場面の多くにおいて、「本能的もしくは 生得的かつ学習的に、環境を自らの選択によって効果的に誘導する能力」、すなわち、コンピ テンスの活用が必須となるからである.そして、従事者には、この能力を適正に評価して援助 しいくことが要求されてくる.
 しかし、従事者においては、福祉系国家資格保有者や福祉系学校で学んだ経験者は共に 3割程度と低調な状況であり、設置基準においてもこれに関する内容は設けられていない. また、近年では、利用者の生活の質の向上が叫ばれ、従事者の資質向上が課題として挙げ られていることや、さらには、従事者の態度や価値観によって、利用者の自己決定までもが 阻害されるケースも報告されている.Deanが援助関係において、クライエントとワーカーは 決して対等ではないとの指摘通り、援助には絶えず従事者優位の危険性が伴っている.この 様な状況において、コンピテンスが適正に評価されるとはいい難く、今まさにGHで働く 従事者の在り方が問われている.
 そこで本研究は、一人暮らしのニーズを持つGHの利用者について、ニーズが阻害される 要因を明らかとすることを目的に、促進要因についても触れながら、援助過程において 従事者の利用者に対するコンピテンス評価が、どの様な関わりをし、どの様な課題を含んで いるのかについて、分析と検討を行うこととした.

2.研究の視点および方法

 研究方法は、「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ」の手順に従って分析 を行った.なお、コーディングとカテゴリーの作成に関しては、研究者からの視点として、 社会福祉研究者三名により助言を得て、実践現場からの視点として、GH従事者一名による 助言を得た.

3.倫理的配慮

 調査対象者には、書面により調査目的を説明し、調査内容を本研究以外には一切使用 しないことを厳格に伝え、また、調査結果においては、調査対象者の施設名や個人名が特定 されることのないよう特段の配慮を行った.

4.研 究 結 果

 利用者の一人暮らしのニーズに対する阻害要因については、「現実に突き付けられた 阻害要因」が従事者からは挙げられるものの、実践現場では、「従事者の無意識に生成された 阻害要因」が課題であると理解することができる.そして、この解消が必要となってくるの だが、これは、従事者の主観的な判断の下で構築された、「疑わしいコンピテンス評価」に 依ることから、従事者によるコンピテンス評価の自覚を持った意識改革が必要となってくる.

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