自由研究発表障害(児)者福祉8  阿部 利江

特別支援学校に通う児童の地域生活支援に関する研究
 -教員・保護者・児童福祉サービス事業者への質問紙調査による検討-

○ 東北福祉大学  阿部 利江 (会員番号7795)
東北福祉大学  三浦 剛 (会員番号1684)
キーワード: 《地域生活支援》 《個別支援計画》 《スクールソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

障害児の生活支援や放課後保障のニーズは高まり,学齢期の過ごし方が将来の社会参加 にもつながることから,卒業後の生活も見通した教育実践の必要性が指摘されている。
  本研究では,特別支援学校に通う児童が地域で生活をしていくために必要な地域生活支援 への考え方と実態を調査から明らかにし,これからの地域生活支援のあり方を検討する。

2.研究の視点および方法

1)研究の視点
  21世紀に入り,社会におけるインクルージョンの実現が求められている。特別支援学校に おいては,これまでの教育実践の枠を越え,地域づくりに大きな役割を発揮することが求め られている。一方,社会福祉サービスは学齢期においては充分な用意がされ,提供されている とはいい難い。
  個のニーズに応じ,現在そしてこれからの児童の地域生活を支援するためには,個別支援 計画の作成や地域福祉サービスの適切な実施が必要である。現在,特別支援コーディネーター に地域との連携を担う役割が求められることが多いようだが,立場的に,また専門性上の問題 から期待される機能を果たすには困難が多いようだ。
  したがって,このような支援をすすめるためには,児童の立場に立ち,学校,家庭,地域 福祉サービス事業者,行政等の社会資源の連携をすすめ,支援のコーディネートを第三者的 立場でおこなうソーシャルワークの専門性が必要になる。
2)対象と手続き
  A市内のB特別支援学校教員88名と,その学校に在籍する児童生徒の保護者155名,A市内 児童福祉サービス事業者27名を対象とし,教員には17項目,保護者には12項目,児童福祉 サービス事業者には13項目の異なる質問紙(一部は共通)を作成し調査を実施した。
  調査期間は2009年10月~11月である。

3.倫理的配慮

質問紙調査の際には,倫理的配慮として,調査趣旨や個人情報の保護等,統計的に 適切な取り扱いをすることの説明を記した。

4.研 究 結 果
1)地域生活に対する考え方
  今回の調査では,教員,保護者,地域福祉サービス事業者の三者とも地域生活の意義や 必要性はみとめるものの,障害のある子どもが地域で生活していくことには困難が多いと する回答が多かった。地域住民の理解や支援によっては障害児の生活環境が整備されると 約8割が回答していることからみても,いまだに障害のある子どもたちやその家族への 周囲の理解が不充分であることがわかる。家族は近隣に迷惑をかけないよう遠慮した生活を 送っている。地域に障害理解を深めるための方策はまだ乏しいといわざるをえない。
2)地域支援のための社会福祉サービス利用の実態
  調査対象としたA特別支援学校の児童は約7割が福祉サービスを利用していた。月間平均 の利用回数は3.8回であった。次に学校,家庭,地域福祉サービス事業者間の連携をみると, それぞれが「連携」を必要とする声は高い。例えば,学校からは14.3%が「連携」を,地域 福祉サービス事業者が学校に求めるものには,「情報の提供」がほとんどである(81.8%)。 これらのことから7割がサービスを利用しているが,学校と地域福祉サービス事業者間の 連携や情報提供はうまくいっていない実態がうかがえる。




3)地域生活を豊かにするための支援のあり方
  教育機関,家庭,地域福祉サービス事業所が連携して,子どもたちを支援していくことは 必要である。約半数の保護者は学校に対して,福祉サービス事業や進学,就職先への個別支援 計画書の提供を望んでいた。現在の個別支援計画書は,それぞれの機関で作成され,連携に よって作られていないものがほとんどである。乳幼児期から一生涯を通して地域のなかで生活 していくためには,継続的で個別的な支援が求められていた。

以上の結果から,2つの提案をおこないたい。まず,生活場面のアセスメントや長期に渡る 視点から作成され,多くの機関が垣根を越えて共有する個別支援計画が必要である。つぎに, 子どもから成人期まで一貫した,関係機関が連携し合う支援システムを構築していくことが 求められる。そのためには,ソーシャルワーカーによるケースマネジメントやアドボカシー の機能が必要となる。教育と福祉の垣根を越えて,スクールソーシャルワーカーの職制の 早急な確立が求められる。

 

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