自由研究発表障害(児)者福祉8  大村 美保

知的障害者グループホーム利用者の家計収支分析
 -地域生活を可能にするための就労行動に着目して-

○ 東洋大学大学院博士後期課程  大村 美保 (会員番号6979)
キーワード: 《知的障害者》 《家計収支》 《就労》

1.研 究 目 的

 障害者の稼得水準は非障害者と比較して低く、経済的な基盤の確立の面からみれば近年 の障害者雇用をより強化する取り組みは一つの方法であるが、これまで障害者の地域における 生活が必ずしも十分に意識されていなかった。
 収入構造については、国立社会保障・人口問題研究所「障害者の所得保障と自立支援施策 に関する調査研究」及び日本障害者協議会「JD調査2006」において、それぞれ障害を限定 しないサンプル調査を行っており、所得保障と賃金の明確な関係がないと結論づけている。 また、筆者は、知的障害者通勤寮利用者について収入構造に着目した研究(以下、通勤寮 調査)を行い、上記調査と同様の結論を得るとともに、以下の知見を得た。すなわち、勤労 収入と社会保障を障害年金の有無及び最低生活水準で分けると、4つの収入タイプが見られる。 このうち2つのタイプは最低生活水準を満たしていないが、通勤寮では成り立つ暮らしである。 また、加齢によりタイプが移行する、地域によってタイプ差がある、ということを明らかに した。
 本調査では、①通勤寮は有期限の施設であるが、地域で継続して生活する障害者の経済的 基盤の状況をより一般化して議論するために、知的障害者グループホーム(以下、グループ ホーム)の利用者を対象とした家計データの分析を行うこと、②通勤寮調査では一般就労 のみに限定して分析を行ったが、一般就労に限らず福祉的就労や失業中といったより広い 就労形態の障害者であること、③通勤寮調査では収入構造のみの分析であったが、本研究 では支出構造および収支についても分析を行うこと、の3点を意図している。
 この研究により、稼得年齢層にある知的障害者の地域における自立を考えたときの望ましい 社会福祉の方向性について示唆を得たいと考える.
 なお、本研究では、平成22年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業): 障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究―諸外国の実態と制度に学ぶ障害者自立 支援法の可能性―における研究協力者として研究費の補助を受けている。

2.研究の視点および方法

 社会福祉法人Aが運営する知的障害者グループホーム25か所に在籍する知的障害者112人 のデータを用いて統計的分析を行った。
 収集したデータは、基礎属性として①性別②年齢③療育手帳の等級④他障害の重複状況 ⑤生活保護受給の有無、就労形態として⑥一般就労・福祉的就労・失業中の別、収入として ⑦勤労収入(工賃・賃金)、⑧社会保障(障害年金、手当)、⑨その他の収入、支出として ⑩家賃、⑪食費、⑫光熱費、⑬日用品、⑭その他の支出、の14項目である。
 分析にあたっては、上記研究目的に鑑み、特に知的障害者の地域生活を成り立たせる ための就労行動に着目して家計収支分析を行った。
 なお、データは2006年時点であり、障害者自立支援法施行前のものである。

3.倫理的配慮

 本研究の趣旨を文書及び口頭で説明し、研究協力者である社会福祉法人より本人への 支援に必要があり収集したデータを二次的に提供いただいた。研究対象者の最上の利益を 優先する配慮として、発表にあたっては研究対象者,地域,機関が特定できないように した。
 研究方法や研究手続きは,他の研究者が再現できる内容である。データや研究結果の 恣意的に操作・改纂、恣意的な抽出は当然行っていない。

4.研 究 結 果

 単純集計結果は以下のとおりである。基礎属性では、①性別:男性66人(58.9%) 女性46人(41.1%)、②年齢:20代14人(14.5%)30代46人(41.1%)40代19人(17.0%) 50代26人(23.2%)60代5人(4.5%)70代2人(1.8%)、③療育手帳の等級:軽度39人 (34.8%)中度54人(48.2%)重度19人(17.0%)、④他障害の重複状況:身体障害との 重複あり4人(3.6%)、⑤生活保護受給あり7人(6.3%)。就労形態では、一般就労67人 (59.8%)、福祉的就労43人(38.4%)、失業中2人(1.8%)。収入の平均額は⑦勤労収入 78.6千円、⑧社会保障70.7千円、⑨その他の収入23.3千円。支出の平均額は⑩家賃43.3千円、 ⑪食費21.7千円、⑫光熱費8.6千円、⑬日用品5.7千円、⑭その他の支出74.3千円。
 基礎属性(性別、年齢)及び就労形態(一般就労・福祉的就労・失業中)と収入及び支出 の各費目とのクロス集計を行うとともに、勤労収入と所得保障が最低生活水準を満たすか どうか、また収支分析として収支差額と収入額との関係についても統計分析を行った。
 これらの結果を踏まえ、筆者が2006年に実施した知的障害者通勤寮調査の収入構造の分析 結果、及び既存の統計資料との比較も含めて考察を行った。

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