自由研究発表障害(児)者福祉8  相馬 大祐

知的障害者入所施設における地域生活移行支援の過程
 -関東甲信越地方8施設のインタビュー調査の結果から-

○ 国立のぞみの園  相馬 大祐 (会員番号6655)
国立のぞみの園  森地 徹 (会員番号5673)
国立のぞみの園  木下 大生 (会員番号6036)
キーワード: 《知的障害者入所施設》 《地域生活移行支援》 《探索的研究》

1.研 究 目 的

 2003年に策定された「重点施策実施5か年計画」(前期)では、「入所施設は真に必要 なものに限定し地域資源として有効に活用する」と定めている。また、「障害者自立支援法」 では、「市町村障害福祉計画」において、入所施設あるいは精神科病院からの「地域移行者」 の推計を定めるとされている。このことから、わが国の障害福祉領域では、入所施設整備抑制 とその受け皿としての地域生活支援の整備、双方をつなぐ地域生活移行支援が注目されて いるといえる。
 このような状況の中で、以下の理由から地域生活移行支援の過程を明らかにしていく必要性 が考えられる。先行実践や先行研究では、地域生活移行支援の過程について、いくつかの報告 がされており、一定程度の蓄積があると言える。知的障害者に対象を限定した場合、実践では 地域生活移行支援の過程を図式化しているものが多々ある。また、研究においては、地域生活 移行に向けた支援活動の構成要素を検討しているものがある。これらの先行実践、先行研究を 踏まえ、地域生活移行支援が実際にどのように行われているのか、支援の過程を明らかにする ことを目的として、国立のぞみの園の「地域移行支援」の実践事例を対象に「地域移行支援」 過程を明らかにするよう試みた研究を昨年度の本学会で報告した。しかし、昨年度の研究に おいては対象施設が1つである等の研究の限界が考えられた。そこで、本研究では、関東 甲信越地方の知的障害者入所更生施設、障害者支援施設を対象としてインタビュー調査を 実施した。本研究の目的は、先述した通り、地域生活移行支援が実際にどのように行われて いるのか、支援の過程を明らかにすることを目的としている。なお、本研究において、知的 障害者入所施設とは、知的障害者入所更生施設もしくは「障害者自立支援法」に移行する以前 に知的障害者入所更生施設であった施設とし、地域生活移行支援とは、知的障害者入所施設 からグループホームやケアホームなどの生活の場に移行する支援とした。

2.研究の視点および方法

 先行研究では、地域生活移行支援を進めるにあたり、「『施設内の生活支援』→『地域 生活への移行支援』→『地域生活の支援』といった連続した流れで考えることが重要である」 ことが指摘がされている(小澤2008:49)。そこで、本研究の視点としては、①入所施設生活 支援、②地域生活移行支援、③地域生活支援のそれぞれの時期における課題とそれに対応 する支援について明らかにする。
 調査方法は、関東甲信越地方で地域生活移行支援を行っている知的障害者入所施設8施設 の地域生活移行を担当している職員に対し、職員自身が担当した事例の地域生活移行の流れ についてインタビュー調査を行った。その際、地域生活移行支援の流れを把握できる項目 を使用し、半構造化面接を行った。なお、面接時間は1時間から2時間程度であった。以上 の面接調査の結果、逐語トランスクリプトを作成した。この逐語トランスクリプトと調査時 に記入したメモを分析対象とした。分析は、国立のぞみの園研究課の研究員3名でKJ法を 参考に分析を行った。

3.倫理的配慮

 本調査を実施するに当たり、次のような倫理的配慮を行った。第一に、本調査の趣旨 に関して承諾書が得られた施設のみに調査を行った。第二に、被調査者から得られた情報は、 日本社会福祉学会研究倫理指針に則り、対象者を特定できないように匿名化するなどの配慮 を行った。

4.研 究 結 果

 本調査の結果として、①入所施設生活支援期、②地域生活移行支援期、③地域生活 支援期のそれぞれの時期における課題とそれに対応する支援が明らかとなった。
 まず、入所施設生活支援期における課題は、「人間関係」とその結果起こる「問題行動」、 また、「ADLや健康状態」に関することであった。入所施設生活では、これらの課題に対して、 支援をしていることが分かった。
 次に、地域生活移行支援期の課題としては、「人間関係」があげられ、他の利用者との 相性や世話人との相性などが課題となっていた。また、この他に「家族の同意」や「移動 手段」がないことを課題として捉えた。これらに対する支援としては、「家族の同意」に ついては、「情報提供」として家族への説明などが行われていた。この他に、家族以外に 行政や他のサービス提供事業所のなども含め、様々な機関や社会資源と調整した支援が 行われていた。また、本人への支援として、「生活訓練」や「就労支援」が行われていた。
 最後に、地域生活支援期の課題は、上記の2つの時期以上に多様な項目があげられた。 具体的には、「人間関係」、「支援体制」、「健康管理」、「金銭管理」、「金銭確保」 などであった。これら課題への支援としても上記の2つの時期以上に多様な項目があげられた。

引用文献
小澤 温(2008)「『障害者自立支援法』の見直しに向けて-地域移行の現状と課題(下)」 『月刊福祉』November,48-51.

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