自由研究発表障害(児)者福祉7  武田康晴

「個別支援計画」による支援手法の確立に関する研究
 -「個別支援計画」という手法の導入と、現状及び課題の整理-

○ 華頂短期大学  武田 康晴 (会員番号2464)
キーワード: 《個別支援》 《個別支援計画》 《本人主体》

1.研 究 目 的

 障害者福祉分野に限らないが、ソーシャルワークの領域は全般的に、その目標を全人間的復権と定義したリハビリテーション理念、誰もが地域で普通に生活することを目指したノーマライゼーション理念、専門家主導からの脱却として当事者の自己決定権を主軸にした自立生活理念等の影響を背景として、措置から契約へ、医学モデルから生活モデルへ、集団から個人へと、ワーカー・クライエント関係が変化しつつある。しかしながら一方で現場実践に目を向けると、個々の援助者が試行錯誤の末に暗中模索しているものの、必ずしも利用者中心の個別支援が計画的に実践されているとは言い難い現状にあると思われる。本研究では、2003年の支援費制度導入以降、利用契約の前提として義務化された個別支援計画の策定と実施について、2006年の障害者自立支援法施行、そして現在に至る現場の状況を時間的に追っていく中で、個別支援計画をツールとして、障害者福祉現場において本人中心のソーシャルワークをいかに実践していくべきか、その方向性について検討していきたい。 

2.研究の視点および方法

 研究の視点としては、①個別支援計画の導入について利用者支援の概念的変遷を踏まえつつ、②2003年の支援費制度導入から2006年の障害者自立支援法施行に至る時期における個別支援計画の位置づけを検証し、③2006年から現在に至る時期に個別支援計画を巡る支援状況はどのように変化しつつあるのかを明らかにしたい。それぞれの研究方法については以下の通りである。
①「個別支援計画」の導入と支援概念の変遷 主として文献及び資料の検索によって、個別支援計画による支援が必要となってきた経緯を踏まえるとともに、2003年以降、また2006年以降、個別支援計画の策定及び実施について、それが「どのように実施されるべき」とされてきたかを明らかにする。
②個別支援計画を巡る現場の状況(2003年から2006年を中心に) 2006年12月~2007年3月にかけて全国5地域においてグループインタビューを実施し、2003年に個別支援計画の策定と実施が義務化されて以降「個別支援計画」がどのような状況にあるのかを調査した。調査方法の詳細、インフォーマントの概要、インタビューガイド及びカテゴリーリストは別紙に示す。 ※)本項目は平成18年度厚生労働科学障害保健福祉総合研究事業「地域移行を推進していく施設内個人別プログラムの構築と入所施設利用者および施設職員のホスピタリズム改善に関する研究」(主任研究者:谷口明広)の研究成果に基づいている。
③個別支援計画を巡る現状と課題 先の調査でインタビューを実施したインフォーマントに追跡調査を行い、その後(2007年以降)の変化、現状、課題を明らかにする。また、「『個別支援計画』作成および運用に関する研修会」(日本障害者リハビリテーション協会)参加者へのアンケート及び聞き取り調査により、個別支援計画を巡る現状と課題を明らかにする。
※)当該研修は、独立行政法人福祉医療機構平成21年度「長寿・子育て・障害者基金」助成事業による 

3.倫理的配慮

 倫理的配慮として、特に上記①②については、個人を特定できないように充分に配慮した上で、研究発表その他で公表する原稿、資料については事前に内容の確認と修正を求め、インフォーマントの所属する機関・団体の倫理規定及び守秘義務を含めた確認と了解を得た上で公表する。 

4.研 究 結 果

今回の研究においては、個別支援計画の策定及び実施が義務化された2003年以降の状況を継続的に見ていくことで、旧来の処遇構造に新しい手法が導入されたものの業務の煩雑性もあり少なからず反発もあって混乱した時期、しかし、その中からソーシャルワークの基本である本人主体や個別支援の重要性を改めて認識して取り組みを始めた時期、そして、より質の高い支援の確立へ向けて模索している時期という、障害者福祉領域に「個別支援計画」という支援手法が導入され定着しつつある状況の変遷が明らかとなった。
 詳細は別資料で報告するが、目標設定において本人の主体性が曖昧、目標から計画策定における一貫性の確保が困難、計画の実施には他職種を含めた連携が不可欠、OJT/OFFJTを含め個別支援計画の策定(及び実施)に関するスキル獲得とスキルアップの仕組みが必要不可欠などの課題が明らかになった。また、先の研究で着眼した「ホスピタリズム」との関連で職員のバーンアウトも指摘されるが、上記③で明らかになった課題からは、支援者がより質の高い支援を模索し、同時に「自分の仕事を確認する場」を希求している現状を読み取ることができる。個別支援計画は、利用者と支援者が協働で、具体的な計画に基づいて、具体的な成果を確認しながら支援を展開する手法である。つまり、利用者にとっては、自分自身の望む生活を着実に実現する手法であり、支援者にとっては、自分の実践する支援すなわち「自分の仕事の成果」を確認する支援手法であると考えられるのである。 

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