自由研究発表障害(児)者福祉7  安田 三江子

社会福祉サービスのモジュール化と障害者自立支援法
 -何が具体的に問題なのか-

○ 花園大学  安田 三江子 (会員番号3450)
キーワード: 《障害者福祉》 《障害者自立支援法》 《モジュール化》

1.研 究 目 的

 社会福祉基礎構造改革以降、社会福祉サービスにおいては、個人の自己決定、利用者と事業者との対等な契約・関係、在宅福祉の推進が大きな理念となり改革が進んでいる。介護保険法、障害者自立支援法はまさしくこの理念の実現を目指している。多くの人びとが理念そのものは高く評価をしている。
 また、これらの政策は、社会福祉の領域においてはモジュール化による解決を行政も研究者も志向している。利用者の生活の情況を正確に判断し、それに応じて、支援の量を決定する。生活の情況を判断する人と、実際の支援を行う人との分業を促進し、それぞれの能力の向上を要請している。しかしながら、介護保険法は、頻繁に見直しが行われ、障害者自立支援法は先の見通しがまったくつかないまま廃案になった。
 モジュール化は、産業の成長にあたって、たいへん有効な手段であるが、個人の能力やそれを支える組織能力があってこそ、可能となる。高齢者も障害者も、それぞれが抱える生きにくさの問題は大きいが、とくに障害者領域では、障害特性の多様性もあり、このような状況下にあっては、よりいっそうささまざまな問題が生じやすい傾向にある。モジュール化の状況を解明し、障害者自立支援法について利用者および事業所の立場から考察したい。 

2.研究の視点および方法

 生産マネジメント論の立場からのアーキテクチュアの研究視点を用いる。アーキテクチュアには大きくわけて統合型とモジュール型とに分けられる。障害者自立支援法は、障害者の生活をとくに昼と夜にわけ、場所とサービスを切り離し、それぞれをモジュールとして独立させ、それを管理する新しいモジュールを設定した。まさしくモジュール型への「産業構造」の転換をめざしたといえよう。
この背景には、事業所による「利用者の抱え込み」と批判される、利用者の自己決定に関する問題や支援の停滞もあった。しかし、このモジュール化により、この問題は解決したのだろうか。別の大きな問題をもたらしのではないだろうか。それはときとして、利用者の生命にかかわることでもあるのではないだろうか。
モジュール化の実態を明らかにするとともに、利用者、事業所双方へのインタビュー調査により、この点について考察してみたい。 

3.倫理的配慮

 インタビュー調査に応じてくださった個人、事業所にはあらかじめ発表する内容について示し了解をいただいた。その上で、個人、事業所の特定ができないよう記述に配慮をする 

4.研 究 結 果

(1)インタビュー調査-個人―
 裁判にまでなった一割負担に関しては大きな問題とされていた。一方、定型的なサービスの利用に関しては、さほど大きな問題は生じていないケースもあった。しかし、日常の生活に変化が生じた場合などに関しては、利用したい支援が自立支援法になく、個人および事業所の力量で解決せざるをえない場合も多かった。個人および事業所に力量のある場合はよいが、欠ける場合は生活の質はもちろんのこと、生命にかかわってくる場合も予想された。

(2)インタビュー調査―事業所―
 最初にモジュール化の原点ともいえる障害認定に関しては、合理性に欠けるとの批判が大変強かった。またに、日額制の問題がもたらす問題が大きいことも強く指摘された。定員の枠を緩めたからと言って経営の問題は解決しない。さらに、身体・知的・精神とも、いずれの領域でも、困難のある利用者(本当に支援が必要とされる)は休みがちである。だが、これらの利用者を引きうけると経営的には大きなリスクを負うことになる。さらに、利用者が必要なサービスは自立支援法にはない場合もあり、利用者のニーズに合わせた支援はいわば事業所にとって「持ち出し」となる。
 これに加えて、日額制に関しては、ともに生きる人として大事に思っていた利用者との関係を金銭のみの関係と行政に評価をされたとの憤りがあった。また、支援の停滞の問題に関しては短期的なスパンによる目標設定が前提とされているが、障害は治るものとはいえず、支援には長期的なスパンが必要である。そのため、利用者を短期間で無理に次のステージに移すことにより、大きな負担が利用者にかかり、心身面への影響が大変心配される。
 また、地域との連携などは、法はまず「あるだけ」の面もあり、現場の職員にとっては「どうやっていいかわからない」とされ、法により定められた制度が実際には機能していない場合も多かった。
 相談支援事業者はサービスの割り当ての調整はしているが、実際の生活分野において利用者との関わりがないため、相談は機能しにくいことが多かった。事業所が抱え込むという以前に相談内容に具体性がないのである。サービス利用計画書の作成は障害者ケアマネジメントの具体化であるとされ障害者自立支援法の眼目とされた施策であったが、ほとんど利用されていなかった。
 さらに、事業所側からすると利用者のサービスの選択や利用の方法には適切とは思えない場合もある。しかし、それらに苦言を呈するには利用者との信頼関係が大前提であり、大きなリスクも伴う。利用者が適切ではないサービスの選択や利用を続けた結果、生活能力を落としてしまうことが危惧される。そのため、かえって入所施設利用者が増えるのではないかとの懸念もあった。つまり、社会福祉サービスの単純なモジュール化による方策(つまり自立支援法)では、問題の解決にはつながらず、新たな問題が生じてしまうのである。 

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp