自由研究発表障害(児)者福祉7  大岡 由佳

障害者施設職員の労働状況とメンタルヘルス対策
 

○ 武庫川女子大学  大岡 由佳(会員番号6721)
立命館大学大学院  黒川 奈緒 (会員番号7091)
立命館大学  山本 耕平 (会員番号1221)
立命館大学  峰島 厚 (会員番号0830)
キーワード: 《労働福祉》 《障害者施設》 《メンタルヘルス》

1.研 究 目 的

 近年、保健福祉施策がめまぐるしく変化する情勢の中、福祉業界の職員の労働条件が悪化している。障害者施設においては、障害者自立支援法の施行前後で運営体制が大幅に変化しており、その中で事務量の増加や利用者・親対応のあり方の変化等が生じている。職員の非常勤化も進展する中で、職員の過重労働に伴い心身の不調が生じ、休職・離職をしていく職員が増加しつつある。そのような状況に対して、障害者施設ではメンタルヘルスの研修・対策を講じるところはあるものの、その介入効果がどれほどあるかについては定かでない。そもそも、福祉実践を行う現場の職員のメンタルヘルスが、営利を目的とした一般企業と同様のメンタルヘルスケア対策のプログラム実施でよいものかについても検証されていない。障害者をめぐる脱施設化・地域移行が国の施策として推し進められる中で、障害者福祉を担う職員の心と体の健康保持は、障害児・者の福祉を守ることと同様に重要な課題である。そこで、本調査においては、障害者施設に勤務する職員の労働状況と彼等の心身状況について調査をし、その実態に即した対策を検討していくことにした。 

2.研究の視点および方法

 調査を行うにあたり、現場職員と共に検討会を立ち上げ、現場からヒアリングを行い、質問内容の検討等を重ねてきた。調査対象は、関西圏のきょうされん・福祉事業団加盟組織に属している障害児・者に対する福祉施設・事業の常勤職員並びに常勤の非常勤職員(派遣を含む)とした。調査の方法については、留め置き調査法の無記名調査とし、調査票は各施設長・管理者から該当職員に配布し、職員は記入したものを厳封のうえ施設長・管理者に手渡すか、あるいは、調査実施者に対して個別郵送にて調査票を返送するよう依頼した。調査の質問内容については、障害者施設の労働状態を把握するための労働時間や給与、有給休暇取得状況等の勤務状態、並びに個々の生活状況、また、職場の満足度や職場でのソーシャルサポート、職場で重要と考える事項であった。さらに、職務に関連した職員個々のストレス状況の全体像を捉えるために、努力-報酬不均衡モデル尺度(ERI)、精神健康調査(GHQ28)、バーンアウト尺度(MBI)等の既存の尺度の使用した。なお、統計的検定にはSPSS18.0 for windowsを使用し、t検定、χ2検定、および、ロジスティック分析等を行った。有意水準は、1%と5%を採用した。 

3.倫理的配慮

 調査を行うにあたって、調査依頼の際に調査協力が自由意思によるものであることを明確にし、口頭・文書にて説明を加えた。また、調査票の回収まではいつでも調査参加の取りやめを出来ることを保証し、その調査協力参加を取りやめても決して職場で不利益を被らないよう最大限の配慮を加えた。日本社会福祉学会研究倫理指針を参考に量的研究のデータについては個人・組織が特定されないように数値化して管理保管した。 

4.研 究 結 果

 本調査の回収数(率)は1173名(52.9%)であった。障害者施設職員の属性の内訳は、性別(男性41%・女性59%)、年齢層(20代23%・30代29%・40代24%・50代以上24%)であった。また勤務先の種別については、(身体障害15%・知的障害67%・精神障害11%・障害児7%)で、主たる事業は、(日中活動の場[旧法指定施設・通所を含む]62%・住まいの場[旧法指定施設・入所を含む]35%・訪問サービス3%)であった。各施設の職員については、67%が直接処遇指導員で、10%が管理業務の任についていた。事業所の職員規模については50人規模が28%と最も多く、30人規模24%が次に多かった。常勤非常勤職員が占める割合については、28%であった。社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・保育士の資格を有する職員は42%に上った。メンタルヘルスと属性についての結果であるが、メンタルヘルスのハイリスク群(GHQ28総得点≧7の者)とローリスク群(GHQ28<7)で比較したところ、性別、年齢層、役職、労働時間、有給休暇消化、仕事の満足度の点で有意となった。20代後半、管理職、60-80時間/週の勤務状況にある者が抱えるストレス状況は顕著に高かった。また、以前と比べ年齢が若いほど早期に管理側の役割を担う傾向が出てきており、その結果、メンタルヘルス不全に陥いることもあることが想定された。さらに、メンタルヘルス悪化の背景においてであるが、私生活では自分の病気や家庭内のトラブルが、職場では利用者親とのトラブルや職場内のセクハラ・いじめ等が、職員のメンタルヘルスを悪化させていた。メンタルヘルスのハイリスク群はバーンアウト尺度(MBI)と強い相関が認められ、バーンアウトしている者がメンタルヘルスのハイリスク者であるとも考えられた。なお、努力‐報酬不均衡の状態(ERI)と属性の関連であるが、努力の割に報酬が伴っていないと感じている者については、管理業務に従事する者、国家資格等がある者、常勤の非常勤職員、利用者定員が多い施設の職員、労働時間が60時間/週の者において有意であった。また、「職場で重要だと思う事項」について尋ねた項目では、全体においては「休日の保障」「業務に見合った給与」「職場での話し合い」の順に回答が多かったが、メンタルヘルスのハイリスク群に限って述べると、「職場の相談体制」の項目において有意に高かった。今後の福祉現場のメンタルヘルス対策を考える際に、 “職員を支える”という意味での職場の年齢層・役職に応じた“ソフト面の対策”がことに重要であると考えられた。 

5.文 献

本研究は、平成21年度科学研究費補助金(若手研究(B))の「ワークプレイス・トラウマの心理社会的影響並びに予防法・介入法に関する実証的研究」(研究代表者:大岡由佳)の一環として実施したものである。 

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