自由研究発表障害(児)者福祉6  八木 三郎

ユニバーサルデザイン施設における障害当事者性
 -障害者用駐車場の利用者間コンフリクトの問題構造とその解決のあり方に関する研究-

○ 天理大学おやさと研究所  八木 三郎 (会員番号7494)
キーワード: 《ユニバーサルデザイン》 《障害当事者性》 《必要の原理》

1.研 究 目 的

 戦後,我が国で策定された種々の社会保障制度や社会の仕組みは,近年のライフスタイル の変化や高齢社会の到来によって変革を余儀なくされている.このような社会背景のもとに 2000年に改正された社会福祉法では,従来の一部の限られた人を福祉の対象とする選別的な ものから,国民全てを対象とする普遍的枠組みが示されている.
 とりわけ,まちづくりのあり方も社会の流れに同調し,ユニバーサルデザイン化(バリアフリー 新法2006)の方向で現在進展している.
 しかし,ここで問題となるのは,施設の利用において「誰もが公平に使える」という ユニバーサルデザインのコンセプトが浸透することによって,それをもっとも必要とする 利用者(障害者)の優先順位が変化していることである.福祉のまちづくりは,重度障害者 の自立と生活権拡大(日比野1997:196)という目標でスタートし,今日まで一定の成果を みている.現在,我が国の超高齢化を背景にバリアフリーからユニバーサルデザイン化し 誰もが利用できるものとして普及し,その利用対象者は障害者のみならず,高齢者,妊婦, 子ども等とその利用者も拡大している.そのことによって,利用者は先着順とする傾向が各所 (例・障害者用トイレ,障害者用駐車場,電車の優先座席)で見られるのである.いま地域 ではその施設の利用において,障害者と非障害者との間で利用者間コンフリクト(衝突)が 生起し社会問題化している.これは個々のモラル等で対応,解決すべき問題にとどまるもの ではなく,共生社会構築の上で解決しなければならない社会的課題である.
 本研究の目的は,我が国のユニバーサルデザインにより整備された公共空間(障害者用 駐車場)において,利用者間に生じているコンフリクトの実態把握を通じて,その問題構造 を明らかにし,解決への方途を見出すことにある.

2.研究の視点および方法

 日常生活上,身体的機能障害等により施設利用での物理的制限を最も受けやすい車いす 常用者の障害当事者性に着目し,法的根拠に基づき設置される障害者用駐車場を研究対象 とする.研究の具体的方法としては,福祉のまちづくりの歴史的展開及び現代社会が目標 とする「福祉のまちづくり観」を先行研究文献及び関係法律から精査する.また,現地事例 調査等から現状を明らかにし,実態に則した実践的課題と理論的妥当性を考察する.

3.倫理的配慮

 現地事例調査の対象施設では,担当者に対して調査の趣旨等を説明の上,承認を得て インタビュー(質的調査)を行った.倫理的配慮には十分留意している.

4.研 究 結 果

 福祉のまちづくりは,1964年(昭和39)の東京パラリンピック以降,障害者の社会進出が 顕著となり,障害者を閉め出す社会構造,都市構造が社会問題化し,その改革を求めた障害 当事者のまちづくり運動が契機となっている.それは単に技術的な都市構造の問題だけでは なく,障害者の全人格的復権を総合的に保障するものという考え方である.1994年(平成6)に 高齢者・身障者が利用しやすい特定建築物の建築を促進する法律(ハートビル法)を策定し, 適合基準以下の施設に対しては各都道府県における福祉のまちづくり条例によってバリア フリー化を義務づけた.2000年(平成12)に交通バリアフリー法,2006年(平成18)にバリア フリー新法が制定され,現行の福祉のまちづくりの根拠となっている.身体障害者条件付 運転免許の保有者は約21万人であり,介助者の運転も含めた身体障害者駐車禁止除外指定車 票章の交付数は約46万件に及ぶ.下肢障害者の移動権を確保するうえで自家用車は不可欠 なものとなっている.
 2005年の内閣府からの障害者へのアンケート調査結果で肢体不自由者から「障害者用 駐車場が利用できない」という意見が高い比率(75.2%)で上がり,これに基づき,障害者用 駐車場に関する先行研究を精査.有賀絵理(2006年)は,車いす当事者にとって自家用車は 唯一の移動手段と位置付け,障害者用駐車場が「便利だから」等の理由で非障害者が利用し, 適正利用が図られていないことに言及する.また,西島衛治(2005年)の県民(熊本)意識 調査報告では「障害者用駐車場は障害者専用であること」を9割が知っていながら「空いて いるから」等の理由により非障害者が駐車するケースを報告.とりわけ,適正利用へは罰則 を設ける,専用か優先かを明らかにすることが重要とする意見である.更に反対意見,本音 の考えを知る上でインターネットに着目.ネット掲示板上でも駐車場の適正利用に向けた 取り組みが論議され,適正利用を求める意見と,障害者用駐車場の存在自体を否定する意見 もあり賛否両論である.障害者用駐車場は法的に車いす使用者などの利用する自家用車を その対象とし,表示を義務付け,幅は3,5㍍と定めている.しかし,その実態は対象者の表示 がそれぞれ施設側の思惑によって異なっており,利用者が特定されていない.故に個々の考え によって利用されるため,トラブルが発生しやすく,問題の原因となっている.問題解決への 各地の取り組みは,行政事例では人々のモラルに働きかけるものが多く,企業の取り組みでは 機械導入によって利用者を限定し,問題解決を図っている例もある.人々のモラルがこの問題 の根底に存在し,問題解決が容易でない現状が確認できる.必要の原理に基づき設置した 「障害者用駐車場」の数も少なく,その限られた施設を皆で使うという発想には限界がある. 今後は施設の運用,利用のあり方をどのように考えるかが重要である.

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