自由研究発表障害(児)者福祉6  大塚 良一

知的障害者施設における介入行為の問題点と課題
 -施設職員・世話人・保護者の意識調査から-

○ 武蔵野短期大学  大塚 良一 (会員番号5547)
キーワード: 《介入行為》 《知的障害者》 《パターナリズム》

1.研 究 目 的

 従来の知的障害者施設の多くは、処遇として集団生活の日課を提供し、その処遇に利用 される方が適合できるかを判断・評価するものであった1)。その結果、施設での生活は利用 される方の判断や選択の乏しいのになっていた。さらに、地域での受け皿がないなどの 理由により、施設に滞留化してしまう現象が生まれた。多くの知的障害者施設では、利用者の 問題行動や行動障害などから、その方を守ることを理由に生活の中での介入行為が容認される ものになっていた。しかし、2000(平成12)年に実施された社会福祉基礎構造改革は利用者が 事業者と対等な関係に基づきサービスを選択する利用制度を導入し、従来行われていた措置 制度での施設処遇から、新たにサービスとしての展開を行ってきた。この状況の中でも利用者 の安全を配慮した介入行為については、個々の障害特性などもあり、一定の枠組みを与えること ができていない現況になっている。
 本稿は、このような知的障害者施設で行われているある種の専門的ケアによる介入行為に ついて、パターナリズムという視点から整理した。そして、知的障害者施設の中で行われて いる介入行為に対して施設(ホーム)関係者に対する質問用紙で用いた意識調査から問題点と 課題を提示するものである。

2.研究の視点および方法

 介入行為に関するパターナリズムとは何か。その原点を哲学・経済学者J.S Mill(1806-1873) の『自由論』でみることができる。Millは人への介入行為について「人類がその成員のいずれか 一人の行動の自由に、個人的にせよ集団的にせよ、干渉することが、むしろ正当な根拠を持つ とされる唯一の目的は、自己防衛(self-protection)である。また、文明社会のどの成員に 対してにせよ、彼の意志に反して権力を行使しても正当とされる唯一の目的は、他の成員に 及ぼす害の防止にある2)」としている。
 知的障害者施設などでは他者に危害を加えること以外でも原則的にはパターナリズムが 許されると考えられる。また、パターナリズムの研究者である中村直美はパターナリズムが 正当化されるか否かについては、原理的にはそれがその者の自律を実現・補完することに なるか否かという基準で判断すべきと考える3)、といっている。
 知的障害者関係施設の介入行為に関する意識調査 知的障害者支援における介入行為に ついて、「職員(世話人)または施設が知的障害者に対して何らかの介入行為を行うことが できるか、できるとすればいかなる条件の下であるのか」を基に、現場職員の意識調査を 行った。調査を実施した。調査目的は、本調査は知的障害者施設などの日課場面において 職員が行なっていると思われる介入行為の中で、本来は利用される方の意思で行われるべき 行為の中から調査項目を選定し、その行為に関して、関係者はどのような意識を持って行って いるのかを解明することとした。 調査対象・方法については、 調査対象は大型施設の 重度知的障害者施設職員、中・軽度知的障害者施設職員、家族、グループホーム世話人とし、 大型施設の重度施設職員、中軽度施設職員、家族会2、同県のグループホーム30に依頼した。 また、調査に正確性を求めるため、3年以上その職場で経験のある者とした。調査期間は 2009(平成21)年6月1日から30日までとし、留置調査とした。
 調査項目については、契約、目標の設定から日課の中で行われる職員の介入行為を具体的 に挙げ、そのことを「行って良い」、「条件が整えれば行っても良い」「行ってはいけない」 の3項目について回答を求めた。さらに、同行為については同意が「必要」「必要ない」 「分からない」の3項目について確認した。

3.倫理的配慮

  居住地や氏名が特定できないように配慮した。また、アンケート調査作成の段階から、 関係者(調査対象施設、ホーム職員)に参加してもらい不適応な言葉などがないかを確認した。 分析結果についても関係先提示した。

4.研 究 結 果

 調査対象については、大型施設重度知的障害者施設職員、中・軽度知的障害者施設職員、 グループホーム世話人、家族、それぞれ30人とした。有効回答は110人。職員(世話人)に 対して「3年以上経験を持つ方」との条件を付けたため、グループホーム世話人に3年以上の 経験を持つ方がいないホームもあり配布数と回答数のばらつきがでた。また、家族については、 予定より多くの有効回答があったのでそのまま分析に利用した。
 家族と職員(世話人)との間で意識の違いが認められた。介入行為について家族は行っても 良いとの回答が697(51.0%)になっている。反面、施設職員は690(34.9%)、グループホーム 世話人231(30.4%)である。同意が必要については、家族が824(60.2%)、施設職員については、 1569(79.4%)、グループホーム世話人については608(80.0%)である。介入行為については家族 の方が、施設職員、グループホーム世話人より許される行為として捉えていることが分かった。 また、介入行為について同意が必要と考えているのは家族より施設職員、グループホーム 世話人の方か多いことが結果として表れた。
 「興奮が強いので、無視をする」が、全てのトップにきている。次に「職員(世話人)が 利用者に代わって入所(利用)契約書に利用者の名前を書く」となった。興奮が強いので、 無視をすることは虐待行為のネグレクトにあたる。この行為に対して重度施設職員が67%と 最も高くなっている。これは対人関係の行動障害の強い人に対して関わりの中で、興奮を 増幅させないために無視の対応を行うオペラント心理学からきている行為で、重度施設職員は 対応として日常の中でこの行為を行っているため高くなっていると推察できる。しかし、 この無視という行為に対しては「同意が必要」との回答は61%とさほど高くない結果となった。 回答結果の特徴としては、上位5項目の中に家族では、金銭管理についてが、2項目入っている。 施設職員、グループホームについてはそれぞれ身体拘束に関することが2項目入っている。
 本調査の調査結果として、(1) 知的障害者への介入行為はICが取りにくく、職員、利用者 共に、お互いの関係が不明瞭な状況の中でパターナリズムとして行われている。このため、 介入行為により利用される方の不利益が生ずる可能性がある。(2) 障害特性が重くなると 施設の管理性から職員などによる介入行為は強くなり、完全に理解欠如の状況にいる知的 障害者は支配的影響化で、職員の判断により管理的側面から介入行為がパターナリズムとして 行われる可能性がある。(3)自らの意思が明確な知的障害者に対しても、施設の管理性や リスクマネジメント、注意義務の観点からパターナリズムとして介入行為が行われる可能性が あることが明らかとなった。知的障害者施設でのパターナリズムに基づく介入行為については、 障害特性と施設の管理性が重なった時にパターナリズムに基づく介入行為が強くなると想定 できる。これは、これらの介入行為が持っているパターナリズム的要素でもある本人の安全を 守るという側面から生ずると考えられる。しかし、ICが行われない状況での管理性強化や パターナリズムに基づく介入行為は虐待行為として捉えられる場合もある。同時に、これらの 介入行為を行っている施設職員(世話人)が、障害特性から仕方がない行為、パターナリズム であり行っても良い行為として捉えるとしたら、日常化する危険性も高い。このことから、 知的障害者施設やグループホームでのパターナリズムに基づく介入行為の限界について明示 するとともに、法定後見人などの第三者の判断を加える必要があると考える。

<引用・参考文献>
1) 中村健二『成長と生活』1975年. pp 195~209。
2) J S Mill 塩尻公明、木村健康訳『自由論』岩波書店1971年.p 24。
3) 中村直美『パターナリズムの研究』成分堂2007年.pp 98~99。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp