自由研究発表障害(児)者福祉6  植戸 貴子

知的障害者が安心・安全に地域で暮らし続けるための支援と仕組みづくり
 -障害者相談支援専門員等を対象とした聞き取り調査から-

○ 神戸女子大学  植戸 貴子 (会員番号2380)
キーワード: 《知的障害者》 《地域生活支援》 《障害者相談支援事業》

1.研 究 目 的

 今日の障害福祉では地域移行が目標の一つであり、施設を出てグループホームなどで 生活する人が増えているが、一方で、家族と共に地域で暮らしてきた障害者が種々の事情から 施設に入所するケースも依然として存在する。また、地域で犯罪やトラブルを起こしたり、 孤立して不安定な生活を送ったりしているケースも報告されており、新たな課題として浮かび 上がっている。障害があっても排除されず孤立せずに生活できるソーシャル・インクルージョン を実現するためには、地域から入所施設へという流れを食い止め、地域で適切に支えていく ことが必要であるが、これに関する議論は必ずしも十分とは言えない。そこで本研究では、 地域で生活する知的障害者が、「親亡き後」も地域で安心・安全に暮らし続けるために、 どのような支援や仕組みづくりが必要かについて考察することとする。

2.研究の視点および方法

(1)研究の視点
 上記の研究目的を達成するために、地域の相談支援事業に携わる相談支援専門員を対象に 聞き取り調査を実施した。障害者自立支援法施行以来、地域の知的障害者や家族の相談支援を 中核的に担う機関は相談支援事業所であり、家族によるケアが困難になったケースの相談支援 を数多く手がけていると考えられるため、今回の調査では、対象を相談支援専門員とした。 また、参考のために、知的障害者の親からも同様の聞き取りを行った。
(2)研究の方法
 2009年10月~2010年2月に、近畿地区にある4ヶ所の相談支援事業所の相談支援専門員8名 と重度知的障害者の親1名(知的障害者相談員)を対象に、半構造化面接を実施した。聞き 取り項目は、①家族によるケアが困難になった後も地域で生活を続けている知的障害者の 相談支援事例について、②知的障害者が親亡き後も地域で安心・安全に暮らし続けるために 必要と思われる支援や仕組みについて、③地域の知的障害者や家族に対する相談支援の課題 について、とした。

3.倫理的配慮

 聞き取り調査に際しては、会話を録音すること、録音テープは調査者のみが聞くこと、 事業所や個人が特定できないようプライバシー保護に十分注意することなどについて、文書 及び口頭で説明し、研究成果として発表することの承諾を得た。

4.研 究 結 果

(1)調査結果
 ①家族によるケアが困難になった後も地域生活を続ける知的障害者の相談支援内容として は、浪費や借金、犯罪や搾取の被害、触法行為や不適切な社会的行動、日中の過ごし方の 問題、男女関係のトラブル、加齢による機能低下、健康管理、不測の事態への対処困難、 近所づきあいの失敗、危機的状況における緊急対応、孤立感や不安などが挙げられた。
 ②知的障害者が地域で安心・安全に暮らし続けるために必要な支援や仕組みとしては、 住まいの安定、ホームヘルプ、日中活動の場、外出支援、所得保障、権利擁護、余暇支援、 本人の意識と力を高める体験の機会、地域の支援力(本人を一人の住民として受け入れて 見守り支える住民の存在)、相談支援専門員の支援力(コミュニケーションスキル、個別 ニーズを把握するアセスメント能力、自己決定の支援、意欲や能力を引き出すエンパワメント、 本人と近隣住民の橋渡しなど)、関係機関の連携、親に代わるキーパーソンの存在、隙間を 埋めるインフォーマルな細やかな日常生活支援(金銭管理/健康管理/話し相手/声かけ/ 見守り/不測の事態への対応や助言など)、緊急時体制(災害や感染症流行など)、地域 自立支援協議会を活用した社会資源の開発や地域基盤づくりなどが挙げられた。
 ③地域の知的障害者や家族に対する相談支援の課題としては、住まいの確保の困難、福祉 と一般就労の狭間にある人の居場所の確保、親の意識と現実のギャップ(「親亡き後は入所 施設」の時代ではない)、親の抱え込みや支援拒否、本人と家族の意向の食い違い、複合 ニーズを持つ家族への総合的支援、本人の社会経験不足、障害特性に合わないサービス支給 の仕組み(「必要な支援が時間から時間の枠に収まりきらない」など)、相談支援事業所の 体制(相談支援専門員の人員不足や力量不足)などが指摘された。
(2)考察
 ①本調査は、限定された地域の少数の対象者からの聞き取りであり、この結果を一般化 して論じることはできないが、探索的研究としての意義はあると思われる。
 ②家族のケアが受けられない知的障害者の地域生活を支えるには、本人への働きかけ、 本人と家族や近隣住民との橋渡し、サービス利用援助、関係機関との連携、地域資源の開発、 地域の基盤づくりなど、多面的な相談支援や仕組みが必要であることが分かった。
 ③知的障害者の安心・安全な地域生活の維持には、障害特性を踏まえた「支援と呼ぶ程 でもない、隙間を埋める細かい助言や見守り」が非常に重要であることが示唆された。
(3)まとめ
 本調査では、地域で暮らす知的障害者の相談支援の実態や、安心・安全な地域生活の維持・ 継続に必要な支援や仕組みのあり方及び課題が明らかになった。今後は、障害特性を踏まえた 支援やサービスを提供し、地域で支える基盤づくりを進める必要があろう。
*本調査は、2007~2010年度独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B) 課題番号:19330127)による研究の一部である。

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