自由研究発表障害(児)者福祉5  小林 隆裕

福祉の支援を必要とする矯正施設を退所した知的障害者の地域生活移行に向けて
 -入所型福祉施設における段階的支援について-

○ 国立のぞみの園  小林 隆裕 (会員番号7890)
キーワード: 《矯正施設を退所した知的障害者》 《段階的支援》 《地域生活移行》

1.研 究 目 的

 刑務所や少年院等の矯正施設を退所した知的障害者等に対して地域生活への移行に向けた 支援を行なうことが社会的な課題となっており、平成21年度からは「地域定着支援センター」 事業が実施され、矯正施設等を退所した知的障害者等について福祉制度につなげるための 関係機関等との連絡調整が行われるようになった。しかし、矯正施設等を退所した知的障害者 を福祉施設等で受け入れた例はまだ少なく、その支援方法も確立されていない。そのため、 平成20年より国立のぞみの園が行なっている福祉の支援を必要とする矯正施設を退所した 知的障害者の地域生活に向けた支援方法の研究のうち、入所型福祉施設における段階的支援 をとりあげ、地域生活移行につなげることのできた例からその効果を示したい。

2.研究の視点および方法

 矯正施設を出て直接社会の中で生活を送ることは、知的障害者には非常にハードルが 高く、再犯のおそれもあることから、本人の同意の下、入所型福祉施設で受け入れを行い、 自立した社会生活を営めるよう、アセスメントを行ないながら段階的に支援を組み立て、 徐々に社会生活に慣れて行くことを入所施設での当面の目標とし、地域で自立した生活を 営むことを最終的な目標とした。この支援においては、障害者ケアマネジメントの手法を 活用し、本人の生活を組み立てた。その際には、再犯の防止を直接の目的とするのではなく、 自立した生活が結果的に再犯防止につながることから、再犯防止は副次的な目的という位置 づけとした。また、施設入所期間は最大で2年とし、目標設定をする事により施設への滞留化 をおこさないことを原則とした。施設入所支援に当たっては、丁寧なアセスメントの実施に より犯罪行為に至った要因を出来る限り把握した上で、その要因の軽減・除去に向けて犯罪 行為を誘発しないような環境の調整、さらには本人の問題解決に対するゆがみを修正する ための教育・訓練などに関する事項を組み込みながら、支援目標の設定と個別支援計画の 作成を行い、支援を行った。
 段階的支援については、第一段階では生活寮での重度の知的障害者との生活を通した支援、 第二段階では職員宿舎を利用した施設内生活体験ホームでの支援、第三段階では施設外生活 体験ホームを利用しつつ本人の状況を見極める支援を、それぞれ行うこととした。

3.倫理的配慮

 本研究を実施するに当たり、本人に研究の主旨を説明し、個人が特定されないことを 説明した上で同意を得た。

4.研 究 結 果

 本研究で実施した、福祉の支援を必要とする矯正施設を退所した知的障害者への支援 については、本人の状態を観察しながら、その時に必要とされる段階的支援を行った。この 段階的支援は、生活・就労の場を徐々にステップアップさせながら地域との関わりを増やす 中で行ない、共同生活者を徐々に少なくしながら、本人の自立に向けた準備を行った。
 矯正施設等を退所してすぐは、当面の生活の場として、安心して暮らす場所の提供を行い、 キーパーソンとして担当職員を配置して何でも話せる関係を作るなど、本人との良好な関係 作りに努めると共に、窓口を一本化する事により、本人の戸惑いを出来る限り排除する事に 努めた。また、支援を組み立てる際には支援チームを作り、不足しがちな矯正施設等からの 情報を補うために、本人の生活状況、作業状況から徹底したアセスメントを行い、支援者の 情報共有を行なう事により、常に本人の状態を把握する事に努め、あわせて精神科医師や 臨床心理士からの助言を受けながら支援を行った。また、支援チームでは、生活・就労・ 地域への移行と、本人の施設入所当初より役割を分担しながら支援を行った。この段階的支援 は、本人の自立に向けた生活への不安を和らげ、支援者側にとっても期限を区切った施設入所 支援の中で有効な方法となった。この支援体制作りは、地域生活移行を果たすことの出来た者 について特に有効に作用し、その中でも就職に結び付けられたことが自立した生活を送る上 での大きな要因となった。生活の場における段階的支援を行う一方、日中の活動の場に おいても段階的に支援を行い、必要とされる支援を行うと共に、本人の日中活動に対する適性 を判断し、体験、トライアル雇用等を通じて正規雇用につなげている。矯正施設退所後、自ら の力で社会生活を営むことは、これらの人達にとっては非常に難しい課題であり、適切な支援 を組み立て、社会生活を目指して取り組まなければならない。就職までつなげる支援は、福祉 の支援を必要とする矯正施設を退所した知的障害者のうち、障害が軽度・境界域にある人達の 支援の中では効果的な支援方法の一つである。この方法では、時間的な制約から対応が困難な 対象者がいると思われる。そのような人に対しては、他の方法を模索しながら対応をしている。

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