自由研究発表障害(児)者福祉5  勝井 陽子

強度行動障害者とその家族のニーズに関する一考察

○ 福岡医療福祉大学  勝井 陽子 (会員番号7630)
キーワード: 《強度行動障害》 《ダウン症》 《ニーズ》

1.研 究 目 的

 地域や施設での生活において知的障害を持つ人々の中には、自傷・他傷・異食・不眠等々 の環境への著しい不適応状態を示し、本人のみならず周囲の家族や関係者にとっても非常に 困難な状態に至る人々が存在し、そのような状態は強度行動障害と呼ばれている。
 現在、在宅知的障害者の約90%が家族と同居をしている。これは、残り約10%の人々に しか自立生活を選択する準備がされていないことを意味し、家族との在宅での生活が困難に なった時、現実的にその選択肢は社会的理由に基づく施設入所しか残されていない。自立 生活であろうと家族との生活であろうと自由に地域での生活を選択し安心して暮らすことの できる社会的な環境が整うことが目指されるところであるが、在宅知的障害者の90%が家族 と同居していること、地域社会での知的障害者の自立生活を支える基盤が未整備であり、 充実した資源の整備が不透明な現状の中では、知的障害者の地域での生活存続の一端を家族 が担っているといえる。
 強度行動障害研究の初期より指摘されてきた「家庭での養育の困難さ」と「家庭生活の 維持の困難さと崩壊」に対しては、強度行動障害者とその家族への総合的な支援が必要と されると考えられるが、強度行動障害者とその家族の地域での生活を支えるシステムが如何 なる状態であるかということが、地域での生活が可能となるか否かといった点でも重要と なると考えられる。
 障害者自立支援法が施行され、更にこれに代わる新法が検討されている現在、多くの 障害者自立支援法の課題が析出されている。障害者自立支援法に組み込まれた強度行動障害 施策においては、いくつかの基本的な課題が解決されないままの展開となっていると考えるが、 本研究では強度行動障害者とその家族が地域での生活を継続し得るために、いかなるニーズ を内包しているのかを明らかにすることで、その社会的支援のあり方についての示唆を得る ことを目的とした。

2.研究の視点および方法

 本研究においては、地域で強度行動障害者の生活を支えるには家族だけの力では相当な 困難があり、多様な文脈において発生するニーズに対し、本人や家族が求める支援の供給が 充足される必要があるといる視点から、ここでは、行動関連項目(18点)に該当する本人を 介護する家族から事例を聞き取り、その結果を基に、実際の家庭での生活に内在するニーズ に対応する際に発生している困難の実態について考察を行った。本研究のインタビューは 質的研究法による半構造化面接法により行った。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会研究倫理方針に基づき、インタビュー調査に際しては、調査対象者に 対し本研究の主旨・方法・結果の公表について説明し同意を得た。また、開示に関しては 個人や団体を特定できるような情報は全て加工しデータの作成を行った。

4.研 究 結 果

 本事例において、実際の家庭での生活に内在するニーズに対応する際に発生している 困難の実態について検討した結果、障害福祉サービス供給における課題とともに生活に密着 した介護の負担は多様な要因により変化しサービスニーズにおさまりきらない家族のニーズ があることが示された。
 介護を行っている家族も多様な事情・条件に随時対応しながら生活しているという事実で あり、随伴して家族が行える介護も随時変化していく。家族が行う介護は所与のものではなく、 年齢・健康・環境等の多様な変数に影響されるものであった。本人・家族の実際のニーズは 多様な要因に規定される動的なものであり、こうしたニーズの動的な実相を十分に捉えること が実際のニーズの充足に寄与するものと考えられる。
 本人・家族のニーズが包括的に捉えられることは、総合的な支援を可能とする前提になる ものであり、それらが強度行動障害者とその家族の地域での生活を支える社会的な支援体制 の形成に寄与するものと考えられる。
 本調査の限界は、事例収集が1件に留まった点である。行動援護サービスの利用者は全国 で3128人(平成20年1月)であり、そのうち知的障害者は1403人の中の1件である。また、 本事例での対象者は男性のダウン症候群の方である。強度行動障害特別処遇事業の対象者の 8割近くが自閉的な特徴を示すという報告がある中で、ダウン症候群やADHDとの関連報告の 存在が、行動援護サービス創設における対象規定において自閉症のみを対象とすることを 回避する論拠の一つとなったとされていることからも本研究の報告に至った。

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