強度行動障害にも対応した自閉症者の都市における生活支援と
住まいのあり方
-強度行動障害・自閉症を対象とした都市型入所施設の役割、機能
を検討する-
○ 財団法人鉄道弘済会 総合福祉センター 弘済学園 楯 雅博 (会員番号4950)
特定非営利活動法人 自閉症サポートセンター 松井 宏昭 (会員番号7193)
キーワード: 《強度行動障害》 《自閉症》 《都市型入所施設》
障害者自立支援法のもとでは、従来の入所施設は夜間の施設入所支援を行うなど、
生活上の介護が必要な重度の障害のある人の支援や、地域生活への移行に向けた支援を
重点的に行う施設としての性格を強く打ち出され、新たな施設の整備は抑制されている。
しかし一方で、強度行動障害など非常に厳しい事態にある自閉症者も少なくなく、彼らへの
支援は、まさに「待ったなし」の状態にある。
調査研究では、人口100万人を超えるA地域における強度行動障害等のある自閉症者やその
保護者の実態やニーズ、先進事業者の取り組みをきめ細かく分析するとともに、真に必要な
施設として「都市型生活施設」を検討することにより、強度行動障害者にも対応した自閉症
のある人の都市における生活支援の一つの方策を確立することを目指した。
【研究課題1自閉症児者の実態把握】自閉症児者の行動障害および子どもの将来生活に
ついての保護者のニーズの把握のためにA市自閉症協会会員105名に対して、行動障害の
実態等についてのアンケート調査を実施した。
【研究課題2先進事例から見る強度行動障害に対する望ましい対応】弘済学園における強度
行動障害への療育支援を検証した。
【研究課題3都市型生活施設のモデル設計】都市型入所施設のモデル設計委員会を設置し、
強度行動障害に対応した都市型生活施設の機能および入所施設のモデル設計を手掛けた。
アンケート調査を実施するにあたって、対象者の同意と協力が得られるように、①調査 の目的・内容、②対象者とそのデータに関する秘密保持の方法(個人名・プライベートな 情報の保護)に配慮し、③調査への参加は任意であることとした。さらに、調査票に④結果 を学会等にて発表すること及び⑤調査の責任者と問合せ先を明記した。
4.研 究 結 果1)自閉症児者の実態
アンケート調査の回答者は、A市自閉症協会会員105名中57名で回収率は51.4%。このうち
約3分の1がアスペルガー症候群及び高機能自閉症であり、3分の2は知的障害を合併する自閉症
であった(以下、高機能自閉症群とする)強度行動障害については、18歳以上のうち現時点で
強度行動障害の割合は8%、18歳未満では19%であった。過去を遡ると、18歳以上の強度行動
障害の割合は58%、18歳未満では61%で、これらは高機能自閉症群でも同様であった。多数の
保護者が「行動障害対策の整った自宅以外の施設利用を支持し、次いで「行動障害に対応できる
医療機関の支援」を求めている。18歳未満では、2人に1人が「家族に対するメンタルな支援」
を支持している。将来生活への不安については、9割以上の圧倒的多数が「親が世話できなく
なったとき」のことを不安としている実態が分かった。また、聞取り調査において、保護者は、
自宅近くで一緒に過ごしたいとする意見が大半を占めた。
2)強度行動障害を伴う自閉症にも対応できる望ましい支援
強度行動障害に対する望ましい支援としては、弘済学園の療育支援体制があげられる。
すなわち、24時間365日支援が可能な施設環境のなかで、薬物療法を活用しながら、許容的な
リラックスできる環境を準備し、強い刺激をさけた構造化された環境で、キーパーソンを軸に
チームで取り組み、楽しい雰囲気で、わかりやすいコミュニケーションを用いて情報提供と
自己選択をしやすくし、その他様々な障害を理解した周囲が、次第にセルフコントロールを促し、
安定した生活習慣を積み重ねていくことが重要である。これらの支援は、個の特性に応じて
時間をかけ段階的にそして丁寧に成功経験を積み重ねていくことが望まれる。加えて、強度
行動障害を示す方の場合は、医療と連携が不可欠となる。
3)強度行動障害・自閉症を対象とした都市型生活施設の役割・機能についての提案
(1)強度行動障害のある人も、家族が暮らす街で過ごすための機能
①強度行動障害のある方にも対応するための直接の支援基盤施設としての入所施設の配置
②入所施設はグループホームやケアホーム、さらに日中の活動先の施設支援、生活支援を担う
とともに、これらのバックアップ施設として自閉症者支援の基盤的施設の役割を担う。
③入所施設は、地域のグループホームやケアホーム、家庭などで生活する強度行動障害者の
ため、地域に開放した短期入所支援を実施する。
④入所施設では、強度行動障害を含めた入所者一人ひとりの地域移行に積極的に取り組む。
(2)全ての自閉症のある方を対象とした取り組み
①都市型生活施設の中核機能としての相談支援機能
主に在宅支援として訪問支援を実施する。相談者に対して、夜間、日中など様々な支援方法
の中から障害特性に応じた適切な支援を提供する。医療機関、行政、各種相談機関と連携を
図る。
②都市型生活施設の基盤的な施設としての入所施設の機能
強度行動障害のある方にも対応する直接の支援基盤施設としての入所施設を配置する。
③地域生活を支援するための拠点的な多機能型自閉症児者支援機能
自閉症者のための地域生活支援のために、地域の事業所や企業、自治体、保健所、各種相談
機関との連携のもと支援が必要な自閉症児者や家族に対する都市における生活支援を実現
するための拠点的な多機能型自閉症児者支援施設として機能させる。これらの機能の核と
なるのは、相談支援機能(ソフト)であり、入所施設機能(ハード)である。