「障害者の日常・経済活動調査」にみる肢体不自由者の生活実態
-障害者団体への質問紙調査より-
○ 東京家政大学 田中 恵美子 (会員番号3989)
キーワード: 《生活実態調査》 《多角的》 《肢体不自由》
本研究の最終的な目的は、障害者及び障害者を抱える家族が現在抱えている生活課題を
明らかにし、その解決のために必要とされる政策について検討することである。本報告は
その調査のうち、先行して行われた肢体不自由者の生活実態について明らかにすることを
目的としている。
障害者の生活における困難・障壁は、医療・福祉分野だけでなく社会・経済分野にまで
及んでいる。従って、障害者が直面している問題点を明らかにするためには、さまざまな
方向から多角的に実態を把握し、課題を浮き彫りにしてゆく必要がある。
障害者の生活実態に関しては、身体障害者実態調査、知的障害者基礎調査を始め、これまでも
多くの調査が行われてきた。しかし、これまで行われてきた調査の多くは、主に医療・福祉
サービス、就労など限られた角度からから断片的に取り上げたもの、あるいは障害当事者
のみを対象とした調査であり、複合的な視点で結果を分析したり、家族の一員としての障害者像
を表すことには成功していない。また、従来の調査の多くは、障害者のための調査であるため、
いわゆる健常者を対象とした一般的な調査との比較は難しく、その結果、障害ゆえの生活上の
困難や特徴は見えにくくなっていた。加えて従来の調査は通常研究者が個票にアクセスする
ことは容易ではなく、たとえ必要な情報が集積されていたとしても、それを分析する機会は
与えられていなかった。
本研究では、生活時間、外出行動や所得や就労状況、学歴など幅広く、しかも既存の健常者
を対象とした調査との比較が可能となるように独自の調査票を設計し、調査を実施した。本報告
では主として身体障害者実態調査の結果(肢体不自由)との比較を通して、肢体不自由者の
生活実態について明らかにし、また今後の調査計画について検討を行う。
本研究は、障害者及び家族の生活問題を多角的に明らかにするため、質問紙を「本人票」
と「世帯員票」と二部構成とした。「本人票」は障害のある本人が回答し、代理記入の場合は
その続柄の記載欄を作成した。「世帯員票」は生計を共にする者(世帯員)のうち、15歳以上
で本人と関わりが深い者が記載するようにした。同様に代理記入欄を作成した。
「本人票」は、「1.日常行動と障害について」において、日常行動、福祉サービス利用
時間と費用、医療利用頻度と費用、生活時間配分、外出頻度、情報源などを、「2.就労・
求職状況について」において、就業の有無、就業情報源、就業先の産業・規模・職種・就労
形態、労働時間と賃金、勤続年数、職場における必要な合理的配慮などを、「3.人間関係と
意識について」において、職場での人間関係・意識、自分及び周囲の人間関係における意識、
ソーシャルサポートなどを質問した。その他、フェイスシートとして、年齢、性別、結婚歴、
学歴、障害の種類・程度・認定年齢、障害程度区分、居住地、住居の状況、家計状況、世帯員
人数と世帯員の状況について質問し、最後に今後の調査への協力可否と報告書の送付希望を
付記した。
「世帯員票」は、生活時間配分、長期の健康状況、就業状況・賃金、1年前の就業状況、
最後にソーシャルサポートについて質問した。
なお、これらの質問事項を基本とし、障害ごとに他の質問を加え、調査票の表記や表現を障害
に応じて変更した。例えば視覚障害者に対しては点字に、知的障害者にはルビを振り、わかり
やすい表現で書き換えるなどである。
調査は視覚、聴覚、肢体不自由、知的、発達、精神等の障害を含む合計18の障害者団体を
通じて行った。地域は地域分散及び規模を考慮して選択し、東京、大阪、愛知を含む北海道
から沖縄までの10程度の都道府県で実施した。肢体不自由者の団体をはじめとして2009年8月
より開始され、現在順次進行中である。対象者が障害者団体に所属する者に限られ、かつ調査地
及び対象者の選択が団体によって異なっているが、2330(1930名終了 この他対象者数が未定
の団体有)名を予定参加者とする全国規模の調査となっている。今年度は自治体での調査を
実施する予定である。
調査票は対象者の負担をできる限り軽減するよう考慮し、作成した。個人情報保護の ため、調査票の配布は障害者団体を通じて行った。団体によっては、督促状送付等の負担を 軽減するため、調査票配布先の住所を後から提出した場合もあったが、個人情報は調査票と ともに厳重に東京大学にて保管されている。調査の開始については東京大学経済学研究科の 企画委員会(倫理委員会に相当)の承認を得た。
4.研 究 結 果現在、調査票の集計が完了している団体のうち、主として肢体不自由者が対象となる 4団体の結果を利用した。対象者は451名、10歳から82歳まで、平均年齢43歳となっている。 身体障害者手帳保持者433名、療育手帳保持者10名、精神保健福祉手帳保持者6名、身体と 療育手帳保持者が7名、身体と精神保健福祉手帳保持者が3名、12名が手帳を持っていない。 身体障害者手帳1級が353名と圧倒的に多い。身体障害者実態調査との比較として、日常生活 動作の状況及び介助者、介助に関わる費用、外出頻度、医療サービス利用、住宅状況、年金・ 生活保護等を含む所得の状況、就業の状況、福祉サービスの利用状況などを行った。今後、 先行研究に習い、健常者との生活時間の比較を行う予定である。