自由研究発表障害(児)者福祉4  風間 朋子

精神障害者を支える者としての家族
 -保護者制度を中心とする家族規定改正に関する議論の検討-

○ 立正大学社会福祉学部  風間 朋子 (会員番号6196)
キーワード: 《精神障害者》 《家族》 《保護者制度》

1.研 究 目 的

 1950(昭和25)年の精神衛生法制定により、精神障害者は精神科医療の対象として 明文化されたが、精神科医療で対応できない部分への支援はこれまで同様、家族に任されて いたと考えられる。精神障害者に対して、福祉サービスの提供が明確になされるのは、 1987(昭和62)年の精神保健法制定まで待たねばならなかった。これ以降、精神障害者が 利用できる福祉サービスの種類は増加しており、これらによる家族機能の代替が進んで いるかに見える。
 本研究では、保護者制度(家族が担い手の中心である保護者に対して、精神障害者の 保護義務等を課している)を中心とした精神保健福祉法の家族規定改正に関する議論に 着目した。これにより、精神障害者の家族に何が望まれてきたのか、それは医療や福祉 サービスの充実によって代替しうるものであるのか検討した。

2.研究の視点および方法

 保護者制度についての議論が活発化した精神保健法制定(1987〔昭和62〕年)以降 を検討の対象とした。研究手法は以下のとおりである。
 まず、家族に関する法規定の改正が、どのような議論を経て決定されたのか確認する ため、精神障害者本人、精神保健・医療・福祉関係者団体が提出した法改正に関する意見書、 審議会答申、国会審議録等を、次に、決定された法規定がどのように運用されたのか見る ために、行政解釈(行政通知、政府刊行物の逐条解説書)を精査することで、家族に対して どのような役割が求められたのか検討した。上述に加え、家族の立場から法改正に関わった 全国精神障害者家族会連合会(以下、全家連)による改正案が、議論の中でどのように扱われ、 法改正に取り込まれていったのかも併せて検討している。これらの結果をもとに、医療・ 福祉サービス利用と家族との関係を明確化した。
 なお、同研究は、筆者の博士学位論文(「精神障害者家族の機能とその変遷―精神障害者 福祉関連法の家族規定を手掛かりに」平成22年)の一部に新たな資料を追加し、再検討を おこなったものである。

3.倫理的配慮

 本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守している。個人・団体が公表した意見 を検討の対象としているが、人格等を傷つけるようなことがないよう、細心の注意を払っている。

4.研 究 結 果

 昭和62年改正に際して、全家連は、保護者制度を軽減し、代わって福祉施策を充実 させることを要望した。しかし、精神科医療関係者団体が望んだのは、保護義務の内容の 拡大や保護義務の内容はそのままに保護者への支援策を強化すること――つまり、保護者 による保護義務履行がより確実に行われることであった。
 平成5年改正に際して、全家連は、保護者制度は家族が果たすべき役割を逸脱している との理由から同制度の廃止を訴えたが、公衆衛生審議会は、代わりの権利擁護制度がない ことを理由に、当面は家族の負担軽減のため家族支援施策を充実強化すべきだと提言した。 これに従い、平成5年改正法では、措置入院等患者の引き取り等を行う保護者への支援策 (22条の2)、精神障害者本人と同居する保護者等に対する保健所の訪問指導規定(43条、 〔現47条〕)が、新設された。さらに、「保護義務者」から「義務」の文言が削除され、 「保護者」へと名称変更がなされた。この変更に象徴されるように、保護義務は義務として 強制されるのではなく、家族支援策によりその履行を促されるようになっていった。
 平成7年改正法でも、これまでの「家族支援策の強化」路線が継承され、支援の対象となる 家族の範囲は拡大し、精神保健福祉相談員による訪問指導も創設された(47条、48条)。 精神障害者家族に対してこのような支援が行われるのは、家族による精神障害者の急性期 への対応、社会復帰の促進、自立と社会参加の促進への協力を促すためであった。
 平成11年改正に際しては、全家連以外の関係者団体等も、保護者制度の軽減・廃止に前向き であった。彼らは、精神障害者の自己決定権の尊重等を理由として、同制度の軽減・廃止を 訴えた。そして、同改正法では、自己決定権の尊重を理由として、保護者制度の軽減(任意 入院患者・通院患者の保護義務から精神障害者に治療を受けさせる義務、財産上の利益保護 義務、医師の指示に従う義務を除外。自傷他害防止監督義務を廃止)(22条)が行われたが、 その一方で、全家連により公的責任の下で行うものとして提案された「受診の援助」が、 保護者の同意を要件とする移送制度へと姿を変え新設されるなど、自己決定権の尊重が困難な 強制医療の場面では、家族の協力が求められた。
 上述を整理すると、精神障害者を支える家族に与えられたのは、①家族であることを理由に、 精神障害者に対して無料で支援を提供する、②医療・福祉サービス(制度が整備される以前 には家族が行っていた支援)を家族が購入し、その費用を支出する、③家族に対する支援を 受けながら、家族自身が精神障害者に対する支援を行う、という3つの選択肢であったと言える。 家族には、医療・福祉サービスで代替されている部分であっても②③の形で、それらのサービス が上手く機能するように支援することが求められていたのだ。

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